第3話『フラグメント』(2023/10/20(金)Lit.Link投稿/元原稿は2022年2月6日(日)作成)

1999年7月。

それは雪のように。

いつまでも、いつまでも降っていた──



あれから、元の世界の基準での一年近くが経とうとしているのに。

彼はまだ世界のやり直しをしてくれない。


延々と舞い、降り注ぐ世界の破片を、まるで降る雪や桜吹雪のように見立ててでもいるのか、魅入られたように見つめ続け、座り込んだまま動かずにいる。


普通だったらお腹が空いたり、トイレに行きたくなったり、足が痺れたり他の部分も痛くなったり、眠くなったりして、とてもじゃないけど長時間じっとしているなんて耐えられないはずだけど。


世界を滅ぼして、その後もそこにとどまって存在できるような、超越した存在は、そういうのは感じなくて済むから、時の流れも感じてなくて、彼自身はほんのちょっとボーッとしてるだけなのかもしれない。



『もしもーし?そこのあなた、ちょっといいかしら?』


“声だけの少女”は、ボーッとしてる初代猫神魔王の玲郎(れお)に声をかけてみた。


「……なんだよ?お前か?なんか俺様に用か?」


『用って、ほどのこともないけど。いつになったら世界のやり直しをしてくれるのかなー?って。してくれるって、約束したでしょ?』


「ああ、約束したが。ちょっと、滅ぼした世界の残滓(ざんし)……破片が舞う様が、雪と桜吹雪が一緒に舞っているように見えて、眺めてただけで。

今は7月だが。俺様の誕生月の3月は桜の咲く季節であると同時に、まだ雪が降る季節でもあったなぁって、思い出してたんだよ」


『ふーん、結構あなたってロマンチストね?』


「な、そんなんじゃねぇよ」


『別に照れなくてもいいのに』


「……世界のやり直しのことだけどな。するっていう約束は忘れたわけじゃないが……どうやればいいんだ?」


『もしかして、やり方がわからなくて困っていただけなの?』


「そうだが。普通はわからないと思うぞ?」


『世界はあっさりサクッと滅ぼせたのに?』


「そこはだな、こう、破壊的なイメージを思い浮かべつつ『滅びろ!』と念じたら、できたんだよ」


『じゃあ、世界のやり直しもそんな感じでやればいいじゃない?』


「いや、わからん。破壊と違って、再生とか創世とか、『光あれ!』とでも念じればいいのか?」


『「光」の後に何かイメージしてる?じゃないと、たぶん眩しいだけじゃないかなー?最初に光で次は……みたいな感じだと初心者には難しそうよ?』


「じゃあ、どうすればいいんだよ?」


『そうね、初心者でイメージが難しいなら、「スターティング・オーバー!」って唱えてみればいいんじゃない?』


「それってただの英語だろ?」


『あなたの「光あれ!」は日本語のままよね?』


「ぐっ……」


『別に英語じゃなく日本語で「最初からやり直す!」でも、あなたがそれで気分が乗るならいいのよ?どうせその言葉で世界の再構成を実行するのはあの子たちだし』


「あの子たち?」


『……知ってる?実はこの世界……壊れちゃってるけど……を構成してるのは、ケサラン・パサランなのよ』


「ケサラン・パサランって、俺様が生まれる少し前くらい(玲郎(れお)は1979年生まれ)に日本でブームが起きた(1970年代後半に)とか?その時に入手したものか、父さんが飼ってたのを見たことあるが……あれでこの世界が構成されてるって、冗談だろ?」


『ああ、そっか。あなたはお父さんの継人(つぐひと)とはすれ違い生活してたから、あまり教えてもらえていないのね』


「すれ違いで親不孝者で悪かったな。あと父さんの名前を気安く呼び捨てにするな!」


『まぁ、何事も経験よ?やってみれば本当かどうか?口でいくら説明するよりもわかるんじゃないかしら?』


「……わかった。じゃあ、今からやるな。『──Starting over!──』」



「スターティング・オーバー!」


彼がそう叫ぶと、さっきまで舞うように降っていた世界の破片が、一瞬動きを止めて、それから逆に上に向かって浮かび上がり、上昇を始めた。


やがてそれは彼の上空に集積され、バラバラになったジグソーパズルが、立体的に何層にも重なって、自動的に組み立てられていくように見えた。


目をよーく凝らせば、白くてフワフワな毛玉たちがチラチラと見えるかもしれない。


そして“1回目の世界”の破片を再構成した“2回目の世界”が始まった──



※※これはフィクションです※※


〈初代猫髪魔王・猫髪 玲郎(ねこがみれお)〉…魔王でありながら神の力も受け継いでしまった特異な存在。

人間としての人格を残してしまったことで正統派魔王としては失敗作扱いだが、目的のためには手段を選ばず、その邪魔になったり自分的に許せない相手は人間だろうと殺すことも厭わない、ある意味もっとも魔王らしい魔王。

「魔王としての責任と役割?そんなこと俺様が知るか!」

神としてもそのベースは猫髪(ねこがみ)家が一族で代々祭る“猫神”という、バステトなどの猫の姿の神様として知られる存在ともイメージの根元が異なる、超マイナーな神であるが、それゆえに人々の既存の有名な神や神々に対するイメージによる制約を越えた存在として、かなり自由の利く力を有してしまっている。

ただし、マイナーであるがゆえにその力の根元となる信仰心は集め難く、世界規模の奇跡を起こすには、コツコツと信者たちの小さな願いを叶え続けて信仰心=信用を多く得るか、特定の条件を満たすことで強制的に得るかしなければならない。

なお、後者の条件とは、現世界を一度滅ぼして自身が唯一存在する神となることである。

そして世界を滅ぼす力を持つのは魔王である。

元猫神の力を持っていたのは父親の猫髪 継人(ねこがみ つぐひと)だったが、母親のエレナと共に、自分を失敗作扱いをした魔王を信望する組織の人間たちに理不尽に殺された時に、猫神の継承権が移ったことで、魔王にして神という猫神魔王となった。

その姿に恐れを抱き終末戦争を想起した者たちの中に、「ポチっとな」をする権限を持ちそれを行使した者がいたことで、それは報復や牽制や防衛のためとの言い訳のもとに連鎖し、世界は壊滅的ダメージを負った。

そんな世界での生き残りの人々をわずかながらも憐(あわれ)れに思い、だが大半は両親を殺した人間たちとそれを許した世界を許せないという理由からで、慈悲のもとに世界を滅ぼそうとするが、謎の声からの提案と願いを受け入れて、魔王として世界を破壊したのちに、唯一となった神としての力を使って世界のやり直しをする約束をする。

謎の声=“声だけの少女”の提案と願いが無ければ、世界をやり直す気はさらさら無かった。

“1回目の世界”を滅ぼしたのち、世界のやり直しをするために再構成して、“2回目の世界”を用意した。

だが、本人は時間の流れの感覚を失い無自覚で、“直後”で“ちょっとの間”であるとしか思っていないが、世界の破壊後、世界の再構成までの間に、元の世界の基準で約1年間に相当する“空白期間”が生じてしまっている。

また世界のやり直しを願う際の自身の願いが、

「再び俺様の両親の元に生まれて、でも失敗作として両親が責められることが無いように、今の自分とは違う自分になりたい。だけど一方では、もう一度両親に今のままの自分のことを認めてもらいたい。我が儘だけど……。そのついでで、あいつ(=“声だけの少女”)が生まれて来れる未来に繋がるなら……世界のやり直しをしてもいい」

というものであったため。

“2回目の世界”における自身の生年が“1回目の世界”の時と比べて1年間遅れ、本来の生年に生まれるはずだった“玲郎(れお)”は流産でこの世に生まれること無く亡くなった“兄”扱いで、その“弟”として生まれ別の名前“玲次(れいじ)”と名付けられることになる。

なお、このことがパターンとして記録されたのか、“3回目の世界”以降にも生年の遅れが発生して新たに“弟”として生まれた者に取り憑く形が基本となる。


※※これはフィクションです※※

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