第十七話 夢の中で紗央莉と沙月の甘い誘惑

 正義はおぼろげな頼りにならない記憶を捨た。

婦人三人組のあとを歩く紗央莉と沙月の後ろを只管ひたすらに歩いていた。


 京子が大きな声で正義の名前を呼ぶ。


 遅れて着いた正義は女性たちと一緒に温泉の入り口に辿り着く。

ザックをカウンターに預けて、正義はカラータオルを三人分購入した。

バスタオルの代用として正義が考えて選んだ。


「紗央莉さん、沙月さん、タオル使って」

「正義、悪いな」

「正義さん、ありがとう」


 正義たちは、丹沢の汗を鶴巻温泉で落として、明るいうちに帰路に着いた。

正義は、婦人三人組の京子からメモを渡された。

双子姉妹に気付かれることなく安堵あんどした。




 沙月は、疲労の性か、正義の肩を枕代わりにして爆睡している。

紗央莉も温泉の影響で眠気が襲い正義の肩を枕にした。

正義は首を前に項垂うなだれて眠っている。


 小田急の急行電車が地上ホームに滑り込んで三人は目覚めた。

余程、すっきりしたのか紗央莉が大きな欠伸をして両手を頭上に伸ばした。


 紗央莉のエネルギーが再充電されたと見た正義には悪い予感しかしていない。

紗央莉も沙月もグラマラスな体型をしている。

大きな臀部をくびれた細いウエストが支えた。


 温泉と着替えのお陰で登山の汗臭さはほとんど消えていた。




 三人はマンションの一階にあるスーパーマーケットに寄った。

その日の食材と酒を購入してそれぞれの部屋に戻る。


 浴衣に着替えを終えた紗央莉と沙月が正義の部屋のドアチャイムを鳴らす。


「正義、まだ着替えてないのか?」

「すみません、着替えが見つからなくて」


「まあ、いい。待っているから・・・・・・」

「紗央莉さん、沙月さん、すみません」


 紗央莉は、水色の浴衣、沙月はピンクの浴衣を着ていた。




 その後、紗央莉と沙月に誘われて、正義は双子姉妹の部屋に上がることになる。


「正義、もうここで寝泊まりした方が早いなあ」

「紗央莉さんが言うと本気に聞こえますが」


「正義、本気に決まっているだろう」

「姉さん、もう知らないわよ」


紗央莉のリードで奇妙な三人の飲み会が始まる。


「正義、最初はエールでいいか?」

「俺、エール好きです」



 正義は、私服が見つからず沙月の黄色い寝巻きを借りて着替えた。

婦人用の着物の御端折りおはしょりの分があるから正義にもギリギリ丈が間に合う。


 沙月が、お刺身の柵をさばいて、切り身をお皿に乗せてテーブルに運んで来た。

「今夜の酒の肴は、正義だな」

「姉さん、そればかりだとーー いい加減に嫌われるわよ」


「そうか、沙月、正義の部屋に行ってエロ本捜索を命じる」

「紗央莉さん、今時の男の子は、そんな本買いませんよ」


「じゃ、エロビデオか?」

「それもありませんよ」


「じゃあ、エロチャット?」

「・・・・・・」




 紗央莉の猛攻に正義の心境は二死満塁の投手の気分だった。


 正義は、中学時代野球部にいたのだが、いじめで追い出されていた。

正義は文句も言えずに部に退部届けを出した。

そんなこともあって、野球のイメージが湧きやすい。




「姉さん、次は、何飲む?」

「そうだな、カルピスがいいな」


「姉さん、お酒ですよ」

「じゃ、石川の地酒の原酒がいいわね」


「あれは、正義さんが酔い潰れたいわく付きのお酒ですよ」

「沙月さん、俺、大丈夫だから、それにしてください」


「正義、今度、貸し切り露天風呂のある温泉に行こう」

「姉さん、今日、鶴巻温泉に行ったばかりでしょう」


「温泉と男は美容に良いのだよ」

紗央莉が正義に寄り掛かると沙月も真似をした。


 危ないボッタクリキャバクラでボラれた記憶を思い出す正義だった。




「紗央莉さん、沙月さん、そんなことしていないで、飲みましょう」

「正義のがいい?」

沙月も酔いが進むと姉の悪癖に憑依ひょういされた。


 正義は、さすがにヤバイと感じて手酌で原酒をすすり始めた。

紗央莉と沙月が口移しを要求しているが正義は無視した。


 紗央莉が正義の股間の上に腰掛けて歌を歌い出す。

早乙女姉妹の酒乱は誘惑の淫乱癖だった。


 正義は、ウイスキーを沙月にお願いした。

正義の作戦は、淫乱癖のある双子姉妹を黙らせることだ。


 四十度の酒に飲み慣れていない紗央莉と沙月はテーブルでうたた寝を始め爆睡した。


 山男の正義が紗央莉を寝室に運び、沙月も運んだ。

前回の姉妹たちの手段を正義が行使することになって微笑んだ。




 正義は、少し離れた場所で眠りに就いて朝を迎えた・・・・・・と思った。


 正義が忘れていたことがあった。

この部屋は正義にとってアウエーだったのである。


 着ていたはずの寝巻きは消えて肌着一枚になっていたのだ。

正義は二日酔いの頭で最近の同じ経験を思い出した。


 早乙女姉妹の二人も正義と同じ恰好になっていた。


「正義、起きろ」


「紗央莉さん、変な夢、見ていたみたいで・・・・・・」

「正義、どんな夢かな」


「紗央莉さんと沙月さんと俺が肌着だけになっていたんですよ」


「正義さん、こんな恰好かしら」

「沙月さん、そう、そんな恰好です」


 正義、早乙女姉妹の三人の寝息が部屋中にこだましていた。

日の出に遠い時間、正義は夢の中を彷徨っている。




 紗央莉が沙月に小さな声で囁いた。

正義は寝息を立てていた。


「正義のパンツ、なんか汚れて生臭い臭いするわよ」

「姉さん、それ、私たちと関係ないわよね」


「そうね、若い男は良く夢精するのよね」

「女の生理とは違うけど、卵には変わらないわ」


「正義の股間が元気いいわね。今日もお天気かしら」

「姉さん、それは、テントだから雨じゃ無いかしら」


「鶴巻温泉のばばあ三人組、怪しくなかった?沙月」

「なんとなく感じたけど・・・・・」



 早朝、沙月が起こしに来て、正義せいぎは自分の夢精に気付いた。

死ぬほど恥ずかしい顔をして股間を両手で隠す。

沙月が正義にポケットティッシュを渡し部屋の外に出る。


 正義は股間を押さえたまま洗面所に駆け込み下着をぬぐった。

「正義、早くして、漏らしちゃうじゃないか」

紗央莉の声が早乙女姉妹の部屋に響いていた。


 沙月がお腹を押さえて大笑いしている。

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