第十一話 紗央莉と沙月の誘惑

 織畑正義は早乙女姉妹に揺さぶられ目覚めた。

目の前には、いつもの姉妹の姿がある。

正義は、ぼんやりした頭で考えたが思い出せない。


「正義さん、昨夜、倒れるように眠ってしまって

ーー 何度も起こしたのよ、わたしたち」

「すみません、沙月さん・・・・・・

ーー 今、何時ですか?」


「六時過ぎよ、会社には十分間に合うわね」

紗央莉さおりさん、ご迷惑をお掛けしてすみません」


「まあ、あの石川の原酒がトドメだったわね。

ーー これに懲りずにまた飲みましょう」


 正義は衣服を整えて、同じマンションにある自室に戻って行った。


「姉さん、正義さんをあまり刺激しないで」

「大丈夫よ、睡眠薬で眠ってて、何も覚えていないわ」


「沙月は心配症が弱点ね」

「姉さんが大胆過ぎるのよ。

ーー パン、食べたら出勤しましょう」


 自宅に戻った正義は、シャワーを浴びて着替えた。

冷蔵庫から牛乳とあんドーナツを取り出して朝食にした。

通勤は大丈夫そうだけど・・・・・・。



 正義がマンションの玄関まで来た時

ーー 紗央莉と沙月の双子姉妹が通勤用のスカートスーツで待っている。

ーー 紗央莉は紺色、沙月はシルバーグレーの上下だった。


「あっ紗央莉さん、沙月さん」

「よお!兄弟よ、一緒に通勤だ」


「姉さん、もうー今は、素面しらふでしょう」


 三人はJR東中野駅の自動改札を抜けプラットホームで電車を待つ。

運良く中野始発のガラガラ電車が入線して来て、正義と姉妹は乗車した。

正義は、姉妹に挟まれて席に着いた。


 双子姉妹に挟まれている正義を向かいの席の人たちが、

ーー 珍しい生き物を見るような視線を投げかけている。

正義は、視線を合わせないように中吊り広告を見ている素振りを見せた。


「正義さん、なんか気になるの?」

「あの週刊誌がね」


隣りの紗央莉が合わせる。

「うちのビル地下の本屋で立ち読みできるぞ」


正義は苦笑いを浮かべている。


「正義さん、今夜は赤坂のお稽古よね」

「沙月さん、一週間って・・・・・・あっという間だね」


 御茶ノ水駅で向かいのホームに来た中央線快速に乗り換え三人は東京駅で下車した。

長い下りエスカレーターを降り、八重洲口の地下改札を抜ける。

 国内有数の八重洲の大地下街を通り、セルフサービスのカフェに寄った。



「正義さんも、ここよく利用するの」

「いえーー たまに」


 紗央莉は、正義と沙月のやり取りを眺めている。


「沙月、私も今日から、盆踊りのお稽古を始めるわね。

ーー踊りの先生に紹介して!」


紗央莉は沙月を従えさせた。

「じゃあ、あとで、先生に連絡しておくわね」


「紗央莉さんも、盆踊りですか?」

「私が盆踊りじゃあ、悪い?」


「いいえ、そういう意味じゃないですよ」


「じゃあ、姉さん、正義さん、

ーー 仕事を終えたら、八重洲口地下改札前ね」

「分かったわ、沙月」



 その日の夕方、三人は、待ち合わせ場所から千代田線大手町駅に移動した。

「この地下通路、長いわね」

「乗り換えが面倒だから、大手町を使っているだけです」


「確かに別路線使えば、溜池山王駅から長い距離を歩くことになります」

「正義、赤坂って不便な所ね」


「赤坂は、六本木ミッドタウンや赤坂見附からも徒歩圏内ですから

ーー 不便であり便利でもありますよ」


 三人は、赤坂駅を出てお稽古場所がある施設に向かう。

狭い階段を上がり狭い廊下に出てすぐ左に行く。

正義が引き戸を開けて三人は部屋の中に入った。


「城山先生、おはようございます」

「あら、織畑さん、三人でご一緒かしら、両手に花ね」


「先生、揶揄からかわないでください。

ーー 会社の同僚です」


沙月が姉を紹介する。


「先生、姉の紗央莉です」

「沙月さん、どっちがどっちか分からないわね」


「いつもそう言われますが、

ーー 性格が正反対ですから慣れると分かります。

ーー 控えめな私と大胆な姉です」


「こら沙月、余計なことを、先生、失礼しました。

ーー 本日からお世話になります。

ーー 沙月の姉の早乙女紗央莉です。

ーー よろしくお願いします」

紗央莉は、城山先生に向かって丁寧にお辞儀をした。


 稽古を終えて三人は、六本木ミッドタウンへの夜道を歩く。

檜町公園を抜け、ビル地下を抜け、大江戸線の地下通路に出た。


「今日は、一本で帰った方がいいかと思って、こっちにしました」

「正義、暗い道が好きそうだな」


「姉さん、正義さんは、そんな人じゃないわよ」




 三人は東中野に到着してスーパーマーケットで食材を選んだ。


「正義、今夜は、お前の部屋に行くぞ」

「紗央莉さん、散らかっていますから」


「そうか、じゃあ、うちに来い」

「昨日に今日じゃあ悪いじゃあないですか?」


「そうか、姉さんは悪いと思ってないぞ」

「紗央莉姉さん、正義さんが困っているわよ」


「女は男を押すのが仕事だよ」

「そんな話、初めて聞きます」


 正義は、姉妹の会話に翻弄されながら、彼女たちの部屋の玄関を入っていた。

「正義、人間はね。頭で考えることと、

ーー 本能は別の動物なのだよ」


「紗央莉さんに言われていると、

ーー なんかそうなのかと不思議に思えてしまいますね」

「姉さん、正義さんを洗脳していない?」


「洗脳なんて出来るわけないわね」

「そうかしら、強引なんだから」


「あら、みんな汗臭いわね」




 紗央莉の提案で、紗央莉、沙月、正義の順にシャワーを浴びることになった。

三人は寝巻きに着替えて、正義は紗央莉の女物の寝巻きを借りた。


「シャワーも終えて、今日もお酒を飲もう!」


 紗央莉が宣言する中、沙月が包丁を研ぎ、お刺身を用意している。


「じゃあ、正義、最初はビールね」

「紗央莉さんは?」


「私か?私は石川県の原酒がいいな」


沙月が地酒と刺身皿を並べている。


「お猪口でいいかしら、正義さん」

「俺は、なんでも構いませんが」


「正義さん、酔い潰れに注意してね」




 姉の紗央莉が正義を見つめながら妖艶な仕草をして襟元がずれて肌が見えている。

正義は見ていない素振りをして沙月を見るが沙月の石鹸の匂いが鼻腔をくすぐる。


「じゃあ正義、地酒で乾杯!」


 紗央莉が腕を上げ寝巻きの袖の隙間から、

ーー 紗央莉の大きな乳房の脇の肌が見え隠れしていた。

正義は緊張を隠し自分自身を誤魔化すのに精一杯だった。

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