第十話 双子姉妹の誘惑

 酒癖の悪い紗央莉は正義に絡みながら飲み会を楽しんでいる。

「これから、居酒屋に繰り出そうか?

ーー それとも出前を頼もうか?」

「姉さん、飲むといつも、こうだから

ーー 気にしないで、正義さん」


「そうなんですか?でも、

ーー 俺も小腹が空いたから何か食べたいね」

「じゃあ、下のスーパーで買い足ししましょうか?」

「沙月さん、動くと酔いの回りが早くなるから、

ーー それはやめて出前にしませんか」


「正義、お前、なかなか、話の分かる奴だな。

ーー 姉さんは嬉しいよ!」

「姉さん、正義さんをあまりからかわないで」


「紗央莉さん、沙月さん、何が食べたいですか?」

「私は、正義! ーー お前が食べたいな!」


「正義さん、姉さんのですから気にしないでください」

「沙月さん、心配ありませんよ。

ーー 多少の免疫はありますから。

ーー で、何にしましょうか」


「そうだな・・・・・・正義、生物がいいな」

「生物なら、お刺身ですか?」


「お刺身は、さっき食べたよ。

ーー お寿司が定番じゃないかしら」

「そうですね」


 正義はスマホで時刻を確認して、宅配ネットを開いた。


「紗央莉さん、まだ時間大丈夫ですから、注文しましょう」

「正義の奢りかなぁ」


「分かりました。今夜は、俺の奢りにしましょう」

「正義、美人ホステス二人相手だから高いぞ」


「まあ、紗央莉さん・・・・・・分かりましたから、なにがいいですか?」

正義はネットのメニューを紗央莉と沙月に見せた。


「私は、ちらし寿司とお刺身がいいわ」

「じゃあ、姉さんも沙月と同じもの」


「じゃあ、俺は、握りにするね」

スマホの操作を終えた正義は、財布を鞄から取り出し沙月にお金を渡した。


「正義さん、多いわよ」

「銀行に寄れなくて、小銭が無いから」


「じゃあ、あとで、お釣りを渡すから覚えておいてね」

「沙月さん、じゃあ、あとでください」


 紗央莉は、自室に戻り黄色に花柄の寝巻きに着替えて戻り正義の横に腰掛ける。


「紗央莉さん、その浴衣、素敵ですね」

「正義、これは浴衣じゃあないぞ。寝巻よ」


「ええー」


 正義は、嫌な予感を覚えて一気に酔いが回りそうになった。


「姉さん、寝巻で正義さんを誘惑しないでよ!」

「鉄は熱いうちに打て!永すぎた春は成功しないんだよね」


「そうだけど、急過ぎると逃げられるわよ」

「減るもんじゃないだろう」


 紗央莉は、日本酒を手酌しながら沙月を説得しているように見える。


 正義はを思い出しふるえを覚える。


 お酒が双子姉妹のたがを外そうとしていた。



 紗央莉は正義が寿司屋を待っている間に酔い覚ましにシャワーを浴びると言ってダイニングルームを出た。

しばらくして、紗央莉が濡れた髪の毛を拭きながら正義の隣の席に戻る。

石鹸とシャンプーの匂いが女性の匂いを際立たせている。


[ピンポン]


ドアホーンが鳴って沙月が出る。

正義も受け取りを手伝いにでた。


[はい、毎度ありがとうございます]

[ガッチャン]


「姉さん、お寿司来たわよ。正義さん、お釣りね」


「沙月、お酒ないぞ!姉さんの部屋にある一升瓶を持って来て」


 沙月がダイニングルームを出て行くと紗央莉が正義の首に手を回す。


 獰猛どうもうメスライオンに変身したように正義の襟足えりあしに息を吹きかけた。

沙月が戻ると、紗央莉は素知らぬ顔をして沙月からお酒を受け取る。

正義の心臓が本能に逆らえずバクバクしていたが股関の制御は問題無かった。



 早乙女紗央莉、沙月、織畑正義の長い夜の第二ラウンドが始まった。


「紗央莉さん、これ石川県の銘酒じゃあないですか?」

「私ほど美味しくないけどね。飲む」

「はい、頂きます」


「私を頂くのね」

「いいえ、お酒です」


「姉さん、こうなると、明日は覚えてないわね。

ーー お酒弱い癖にお酒好きで始末が悪いんだから」

「でも、酒乱じゃあないからいいじゃないですか」


「自宅だからいいですが、お外だったらと考えるとぞっとするわね」

「外なら、ブレーキかかるんじゃないですか。

ーー 自宅だと、安心し過ぎて飲み過ぎることはよくありますよ」


「正義さんでもあるのね」

「俺なんか、洋服を着たまま朝なんて、しょっちゅうです」


「へー、意外です」

横で紗央莉が笑みを浮かべながら頷く。


「そうでしょう。そうでしょう。まあ、飲みなあ!」


 紗央莉の容赦ないお酌が続いた。

紗央莉は手段を変え、正義を酔い潰す作戦に変更している。


紗央莉と沙月の役割分担を知らないのは正義だけだった。


「姉さん、飛んで火に入る夏の虫ですか?」

「沙月さん、何を言っていますか?」


 双子の魔性の姉妹は徐々に本性を剥き出しにして手綱を緩めない。



 正義は、急に眠気を覚えてテーブルにもたれかかる。


「沙月さん、俺、眠くなったから帰るよ」

「姉さん、正義さん、眠いそうよ」


「じゃあ、お泊まりします。正義」

「・・・・・・」


 正義は、意識が遠のく中で姉妹の戯言を聞く。

部屋の灯りを紗央莉が消す。


「重いわね。沙月、足を持ってよ」

「姉さん、足はいいわよ」


 姉妹は正義の上半身を持って、隣の部屋まで引きずることにした。


「これでいいわね」

「とりあえず男性ホルモン確保かしら」


 正義は高いいびきを立ている。

姉妹は正義の洋服を慣れた手付きでテキパキと脱がせた。

正義は下着姿になったが寝息を立てている。


「姉さん、私もシャワー浴びて来るわね」

「沙月、ゆっくりどうぞ。先に頂くわ」

「ホルモンの取りすぎに注意よ・・・・・・私の分、残しおいてね」


 翌日の早朝、肌寒さを感じた正義は早乙女姉妹の部屋で目覚めて気が付く。

隣では、下着姿の紗央莉と沙月が寝息を立てていた。

寝ぼけている正義が自分の姿に気づいた時、同じ状況に気付いた。


 正義は、悪夢を見ているのかと思い、再び眠りに落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る