第五話 集中豪雨

 織畑正義と早乙女沙月店内から豪雨を眺めていた。

 

 神田駿河台下交差点は靖国通りとお茶の水駅方向から下る文坂ふみざかが交わる。

 雨は滝のように坂をくだり、見る見るうちに靖国通りは川のようになって水が溢れた。

通りを歩いていた数人が慌てるように建物内に避難している。



「正義さん、大雨になってしまいましたね」


「小川町と言う地名があるくらいだから水にえんがあると思っていましたが

ーー 凄い事になっていますね」


「ええ、本当に」

沙月と正義は、その場に立ち、呆然ぼうぜんと降りしきる雨を眺めている。


「じゃあ、そろそろ、買い物しましょうか」

「ええ」



 正義は沙月を連れて店内の奥に入る。


 店員が声を掛けて来た。

正義が沙月の代わりに受け答えをしている。


「尾根歩きが出来る登山靴を探しています」

「じゃあ、こちらにどうぞ」


「いいえ、女性用の靴です」


 店員は、正義の言葉を理解したらしく沙月に靴をすすめた。


「こちらの軽登山靴が人気ですが」


 店員が提案した靴は昔ながらの頑丈がんじょうな靴だった。

足首が固定されているから怪我がしにくいが絶対は無い。


 沙月は、その靴を手にして驚いている。


「お値段も高いけど、靴が重いわ。

ーー もう少し軽めのはありませんか」

沙月が店員に言った。


「あまり軽くすると重心が安定しませんが」

「じゃあ、安定するくらいで、お願いします」


「こちらのサイズは如何いかがですか?」


 沙月は正義の肩に手を掛けて靴を履いて見た。

「サイズ、ちょうどいいです」

「お客様、もっとかかとを靴のかかとの位置にずらして履いて見てください」


 沙月は靴を履き直して歩いて見た。

「いいかんじです」


「お客様、痛い所はありませんか」

「はい、大丈夫でが」


「つま先とか、当たっていませんか」

「大丈夫です」


「店員さん、他のお買い物のあとで寄りますから取り置きしてもらえますか」

「分かりました。あとでお待ちします」


 店員は、沙月に名刺を渡し靴を持って、その場を離れた。



 正義は沙月連れてリュックサックのコーナーに移動。


「正義さん、リュックサックって、遠足以来よ」

「沙月さん、楽しそうね」


「ええ、目移りするくらいカラフルなリュックサックが沢山並んでいて楽しいわ」

「ザックはどれにしようか」


「ザック?」

「リュックサックのことだけど、大きさで使い分ける傾向があるそうです。

ーー 比較的、小さい物をリュックサックと呼ぶことが多いとか」


「街で見かけるのがリュックサックね」

「そうです」


「登山の場合、万が一に備えて雨具とかビバークキットとか入れるから多くなる。

ーー だからザックはちょっと大きくなります」

「知らなかったわ」



「正義さん、雨具って」

「山って、午前と午後で天気が急に変わることが多いんです。

ーー 雨具ないとずぶ濡れになって遭難してしまいます。

ーー だから、雨具と着替えと水と非常食は重要なんです」


「非常食って」

「チョコレートとか、チーズとか、カロリーの高い食品です」

「じゃあ、カロリーメイトもいいわね」


「山で怖いのは、落雷と雨に濡れての疲労凍死なんです。

ーー だから装備のチェックには神経質くらいでーー 丁度いいんですよ」


「そうなんだ。知らないことばかり」



「ザックは、日帰り用と一泊用、二泊用で大きさが違うから用途に合わせてください」


「正義さんのおすすめは?」

「大き過ぎても背負うのが難しいからね。

ーー 小屋泊まり一泊くらいでいいと思うよ」


「じゃあ、わたしはその大きさにします」

「雨具、水筒、・・・・・・」


「まだまだ、沢山あるわね」

沙月と正義は、メモを書いて、別フロアに移動した。



 登山靴、ザック、雨具、水筒、帽子、靴下、ウエア上下、寝袋シュラフとシュラフカバー、軍手、バンドエイド・・・・・・。


 すべての買い物を終えて、早乙女沙月は宅配便で送ることにして住所を書く。


「支払いはカードでお願いします」


 沙月と正義は、買い物を終えて、雨が止んだ歩道を歩いた。

「嘘みたいに星が輝いているわ」

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