第三話 盆踊りの足幅
ランチを終えたあと、
正義は仕事を終え東京駅の八重洲口から千代田線大手町までの地下通路を急ぐ。
盆踊りの稽古場は赤坂駅の近くにあった。
「正義さん、正義さん」
やっと気付いた正義が振り返ると沙月がいる。
「どうしたんですか」
「電車の中で気付いたんですが離れていて
ーー 下車したら、正義さんが前を歩いていたわけ」
「うん、わかるけど、同じ方向ですか」
「ええ、今日から、お稽古の教室を変えたの」
「なんか、夢の続き見たいな話ですね」
「そうね、正義さんの霊夢のお話みたいね」
そうこうしているうちに二人は目的の建物の入り口に辿り着く。
「沙月さんもここですか?」
「ええ、今日から」
早乙女沙月と織畑正義は、狭い階段を上がり二階の稽古場の引き戸を開けた。
中から民謡の音楽が響いている。
見れば、先に到着した先生が二人で踊っている。
正義が廊下に出ようとすると先生が止める。
「もう終わるから、いいわよ」
「すみません」
先生二人が稽古を終えて、先生が口を開く。
「あら、早乙女さん、今日からここの教室に変わったのね。
ーー あとで、みんなに紹介するわ」
「城山先生、ありがとうございます」
「いいのよ、わたしの仕事ですから」
弟子たちが次々に部屋に入って来て、城山玲子が紹介を始めた。
「みなさん聞いて、
ーー 別教室から赤坂教室に変わった早乙女沙月さんよ。
ーー 仲良くしてあげて」
玲子先生が笑いながら話している。
起伏の激しい性格だが踊りの教え方は一流だった。
正義たちはお稽古を終えたあと、城山玲子先生と沙月の三人で近くのカフェに寄る。
「そうだったの、お二人は同じ会社なの。
ーー そう言う偶然ってドラマティックね」
「そうなんです。
ーー わたしも今日知って驚いています」
「俺、いや僕も・・・・・・」
「いいわよ、織畑さん、俺で」
城山先生が笑った。
「あなたたち、もしかして、赤い糸なの?」
「先生、からかわないでください」
「早乙女さんが迷惑しています」
「そうね、悪かったわね。
ーー でもね、織畑さん、赤い糸伝説は聞いたことあるでしょう」
城山玲子は薄笑いを浮かべながら話した。
「そうなんですが、俺なんかじゃない器量不足ですよ」
「それは、ないわよ」
沙月が否定する。
「まあ、いいわ、今年の盆踊り大会もよろしくね。
ーー わたしは女だから男踊りは教えられないけどね。
ーー 織畑さんは、ちょっと足幅が大きくなる癖があるから注意よ」
「先生、大きいですか」
「音感はいいのに、勿体ないわよ。
ーー 足幅が大きいと上半身が揺れて汚く見えるのよ」
「踊りの一歩と歩く一歩は違うのよ」
「そうなんですね」
隣で早乙女沙月が
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