第二話 夢の続きと双子の姉妹

 織畑正義二十二歳は中央線を降りて駅近くにある会社の入り口を入る。

ビルの受け付け嬢が織畑に挨拶する。


「おはようございます。織畑さん」

「・・・・・・おはよう、早乙女さん」


 織畑は、今朝方の夢を思い出す。

 夢の中の早乙女さんは、総務課の女性。


 今、目の前にいる女性は受け付け嬢だが、同じ名前。


「早乙女さんの下の名前、もしかして・・・・・・沙月と言うお名前ですか?」

「いいえ、違います。私は紗央莉さおり

「そうですか。失礼しました」


 織畑は、不思議な夢のお陰で寝た気分になれず朦朧もうろうとしていた。


「あの、織畑さん、妹の名前は沙月ですが」

「え?妹さんですか」


「はい、双子の妹です」

「双子?」


「総務課にいますが」

「ありがとうございます」


「不思議な夢を今朝見たんです」

「それって、もしかして予知夢ですか」


「多分、霊夢な感じがしています」

「早乙女さん、今日ランチ行きませんか」


「え、わたしですか」

「夢の続きを聞いてもらいたいので」

正義は照れながら坊主頭を掻いた。


「ちょっとお待ち頂けますか」

早乙女紗央莉がスケジュール表を確認している。


「今日は遅番なので十二時半になりますが」

「いいえ、俺は大丈夫です」

「じゃあ、あとで、ビルの地下玄関でよろしいかしら」


「いいえ、全然、大丈夫です」



 ビルの地下玄関の近くには小さな書店があった。

織畑は、雑誌を立ち読みして早乙女紗央莉を待っていた。

 織畑の背中を誰かが突いた。


「織畑さん、妹の沙月も誘いましたよ」

「え、早乙女さん」


「どっちも早乙女なので、紗央莉さおりとお呼びください」


「初めまして沙月です。わたしも沙月さつきで構いません」

「俺、織畑正義です。セイギと呼んでください」


「まあ、ヒーローみたいなお名前ね」

「よく言われます」


 織畑は雑誌を棚に戻して地下街を進む。


 ランチタイムは、どこもいっぱいで行列が出来ていた。

織畑は、そんな時、地下街の外れにある寿司屋を利用していた。


「あの、お寿司でもいいですか?

ーー 寿司屋の日替わりランチ安くて美味しいので」


「お寿司、大好きです」

沙月が答える。

紗央莉は微笑んで答えた。


「じゃ、今日は寿司ランチで決定ですね」



 三人は寿司屋に入るとテーブル席に案内される。

カウンターでは寿司職人が数人、寿司を握っていた。


店員があがりを持ってきた。

「ご注文は何なさいますか」

「日替わりランチを三人前、お願いします」


「へい、ランチ三人前」

カウンター内の寿司職人が大きな声で答える。


「大将!ランチ三人前!」


 店員が消えて、織畑は今朝方の不思議な夢を淡々と沙月と紗央莉の双子姉妹に話し出した。


「それ、長崎ですよね」

総務課の沙月だった。


「それが」

「もしかして知らないのですか」


「え、なにを?」

「社員旅行ですよ」


「社員旅行?」

「そう、今年の社員旅行は長崎です」

沙月の説明に織畑は、ぞっとした。


「正義さん、夢の続きが体験出来そうね」

紗央莉が言うと隣の沙月も妖艶ようえんな笑みを浮かべていた。

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