第17話
「これを」
稲荷がキツネの面を差し出してきた。
良介はそれをつけて、行く末を見守った。
「まさか、本当に先生だったなんて」
こっちの世界の良介が大倉先生を見て泣きそうな顔になる。
「片山くん、さっきまであなた……。まぁいいわ。邪魔な人間は排除すればそれでいいんだし」
大倉先生は気を取り直してナイフを良介へと突きつける。
良介はその切っ先のギラつく輝きに一瞬身を硬くしたが、すぐに大倉先生をにらみつけた。
「俺はこれをもっています」
そう言って制服のポケットから取り出したのは最上稲荷の名前が入ったお札だった。
「お札? そんなものがどうなるって言うの?」
大倉先生は鼻で笑う。
しかし、稲荷が隣で息を飲むのがわかった。
「あのお札は特別な人しか手に入れられないものよ。良介さんは選ばれたんです!」
「選ばれた?」
「えぇ。きっと毎日お供えをしてくれていたからでしょう。悪霊たちに当てられないのも、その行いのおかげかもしれません」
なんだかわからないが、こっちの世界での行いがこうした結果を生んでいるみたいだ。
「家に戻ってから急に眠くなって、夢を見たんです。その時黄金色に輝く神様が出てきた。
神様は俺に言ったんです。最上稲荷に来て、札をもらいなさいって。それから、この場所が見えた」
良介は屋上を見回して小さく息を吐き出した。
「その夢を見てからいてもたってもいられなくなって、すぐに言われたとおり最上稲荷に行ったんです。そうするとキツネたちが俺を待っていてくれて、夢に出てきたお札を渡してくれました」
それが、今良介が持っているものらしかった。
「この札を使えば、岩から出ているモヤを再び封印することができる!」
良介の言葉に今度は大倉先生がたじろいだ。
一瞬後ろを向いて岩を確認している。
岩の隙間からはいまだに絶えずモヤが噴出し続けていて、町を覆いつくそうとしている。
もうそんなに時間は残されていないはずだ。
モヤにあてられて敵になった人たちが、いつ良介を襲いにくるかもわからない。
「封印される前に殺せばいいだけ!」
大倉先生が声を大きくして言った次の瞬間、モヤが大きな人型になった。
大倉先生をかばうように前へ出る。
「大変だ!」
キツネの面をかぶった良介は咄嗟に飛び出して行き、自分の手を掴んでいた。
良介が驚いた表情をこちらへ向けている。
けれどかまっている暇はない。
モヤは右手を振り上げていて、今にも2人を飲み込んでしまいそうなのだ。
走って逃げられると思ったけれど、そんな時間もないことがわかる。
良介はこっちの世界の自分に覆いかぶさるようにして地面に伏せた。
「オォォォォォォォ!」
それは死んでいった人たちの悲痛な叫びだった。
モヤが近づくにつれてその声は大きくなり、胸の中に響く。
同時に苦しみや悲しみ、無念がどっと胸の中に流れ込んできて、呼吸をすることも苦しく感じられた。
良介はきつく唇をかみ締めて耐えた。
今できるのはそれだけだった。
「死ねぇ!!」
大倉先生の叫び声。
良介は更に身を小さくして自分を守った。
このままじゃ、死んでしまう!
それでも、こっちの世界の自分だけでも守ることができれば!
自分を犠牲にしても守ろうと決意したそのときだった。
モヤの攻撃が寸前まで迫っていたはずなのに、まるでモヤが逃げるように2人から遠ざかったのだ。
悲痛な悲鳴を上げながら大倉先生の後ろへと身を隠すモヤ。
どうしたんだ?
顔を上げて確認してみると、2人の良介の前に立ちはだかる稲荷がいた。
稲荷は両腕を真横に上げて、とうせんぼするように仁王立ちしている。
「稲荷……お前……」
「私はただここに立っているだけです。神様の意思に関係なく人間を守ったわけではありません」
稲荷は額に汗をたらしてそう言った。
モヤの攻撃を回避するために力を使ったようだ。
良介はすぐに立ち上がり、こっちの世界の自分に肩を貸して立ち上がらせた。
このモヤを封印するためには、どうしてもお札が必要だ。
稲荷ではなく、自分たちが立ち向かっていかないといけない。
「くそっ! 邪魔をするな!」
大倉先生の怒鳴り声が響いた次の瞬間、ナイフが空中を飛んでいた。
それは稲荷の右腕に突き刺さる。
「うっ」
うなり声をあげてうずくまる稲荷。
「稲荷!」
駆け寄ろうとしたが、それを邪魔するように再びモヤが前に出てきた。
これじゃ助けられない!
2人は同時に後ずさりをした。
モヤは2人に対峙すると、すぐに右手を振り上げた。
「逃げろ!!」
叫ぶより先に2人の体が同時に吹っ飛んでいた。
モヤに攻撃され、貯水槽にぶつかる。
ピキッ。
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