第14話
☆☆☆
「でもあれはたぶん、クラスのヤツの仕業だったんだ」
良介はそう言うと下唇をかみ締めた。
犯人を捕まえることができなくて心底悔しそうだ。
「そうか。家にいても安心できないから学校に来てたんだな」
ひどくおびえながら登校してきている理由はわかった。
こっちの世界の自分には安心できる場所がないのだ。
早く解決してあげないと、心が疲弊してしまうかもしれない。
そう思って顔を上げたとき、空気が濁っている感じがして良介は咳き込んだ。
見上げてみると町全体がうっすらとモヤがかっているように見えた。
元の世界で言う、花粉とか、黄砂とか、そんな感じだ。
「モヤが町中を覆いつくしてきてる」
稲荷が呟いて、良介は隣に座っている自分の顔を見つめた。
その目は灰色になっていない。
想像通り、こっちの自分にもモヤの効果はないようだ。
「とにかくあなたは一旦家に戻って。なにかあったらすぐに逃げるのよ?」
稲荷に言われてこっちの世界の良介はうなづいて立ち上がった。
「あ、あの稲荷さん、キツネ面さん。助けてくれてありがとう」
ペコリと頭を下げて、逃げるように公園を出て行く。
良介はその後ろ姿を見送り、キツネのお面を外した。
「この調子でモヤが広がっていけば、町全体から良介さんが狙われるようになる」
「あぁ、わかってる。あのモヤの正体がなんであるかわかればいいんだけれど……」
でも、それをどうやって調べるか?
神事が廃れ行く世界で、裏鬼門のことを調べることなんてできるのか?
様々な不安がよぎっていく。
それでも良介は立ち上がった。
ぼんやりしている暇はない。
ダメ元で動くしかないんだ。
「稲荷さん、この町で一番大きな図書館へ連れて行ってください」
それから2人は大きな図書館へ来ていた。
5階建ての図書館は真ん中が吹き抜けになっていて、最上階まで見渡すことができる。
本棚は天井付近まで延びていて、隙間なく本が入れられている。
途方もない本の数にメマイを感じそうそうになった。
「この図書館にはこの町の伝統的な書物も沢山あるんです。だからきっとあの岩についても書かれている本があるはずです」
「わかった。じゃあ手分けをして探そう」
良介は郷土資料の棚に向かうと、分厚い本を手に取ったのだった。
☆☆☆
2人で資料を読むこと20分。
良介はようやくあの岩について記載されている本を見つけていた。
「裏鬼門にあるあの岩には、死者の怨念が閉じ込められているみたいだ」
記事を目で追いかけながら良介は言う。
「怨念……そういえば、この町では70年前に大きな自然災害がありました」
「それってもしかして大雨のこと?」
「そうです! それで低い土地は水没してしまい死者が多数でました。それから町は上へ上へと建物を作っていくようになったんです」
「そうだったのか」
大雨で水没する被害は良介の世界でも起こっていた。
良介の世界では死者数20人だったが、記事によるとこっちの世界では500人を超えているらしい。
ちょっとした地形の違いとか、天気の違いでここまでの変化が生じてしまったようだ。
その後の町の発展にも大きな影響を与えたのだろう。
「思えば人々が神事などを信用しなくなったのも、その頃からです。神に祈っても意味がない。そう思われてしまったようです」
稲荷は力なく呟く。
良介はそんな稲荷の手を握り締めた。
「その時になくなった人々の無念が怨霊になって、あの岩に閉じ込められていた。それを誰かが割って、外へ出したんだ」
「一体誰がそんなことを?」
さすがにそこまではわからなかった。
この町を怨霊で多い尽くして特をするような人がいるだろうか?
こっちの世界に来て間もない良介が考えてもわかるようなことではなかった。
「もう1度、あの岩を見に行こう。犯人がなにか痕跡を残しているかもしれない」
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