第15話 それぞれの役割と狼の魔物

 一言で言い表したのが良くなかったのかもしれないと思い、再度言い直す。


「過去に亡くなった偉大な戦士とかそんな感じの人です。いわゆる英霊的な者で死者を動かすとかそういうものじゃないですよ」

「ふーむ?」


 どうやらまだ通じていない様子。

 だったら……。


「常世の国を守る衛士です。イザナミ様国にある私たちの部隊の一員ですよ」

「常世ってーとあの世のことだろ?」

「ですです。そこにイザナミという神様の国があるんです」

「なるほどなぁ。イザナミって神様は知ってるぜ。伝承にあるやつだろ?」


 どうやら楓さんも神話については知っているようです。

 まぁあの神話ではほとんどイザナミ様とイザナギ様が主役になっていますけどね。


「実際に行くことはできますよ? 私もたまに行きますし」

「そいつはすげーな!!」

「機会があったら連れて行ってあげますね。【戻りなさい】」


 いつ叶うともしれない約束を交わし、私は御剣を帰還させました。

 ちなみに御剣達は召喚に応じると功績次第で給与が支払われます。

 常世の国でもお金は必要なのです。


「おいおいおい、すごいじゃないか!」

「まっこと驚いたでござる。鬼人の少女の強さもさることながら狐人の少女の術も驚きでござった」

「あいたたた。防御符がなかったら体がちぎれてたかもしれないな。癒術師のお嬢さんには本当に助けられた」

「いえいえ、たまたまですよ」

「ぶっ飛ばしたはいいけど止め刺されちまったのが悔しいわ」

「ふふん」


 駆け寄ってきた【風来人】の人たちが私たちの戦いを褒めてくれました。

 たまたまとはいえ、戦闘することになるとは思いませんでしたが皆さん無事でよかったです。


「そんだけの実力があれば【風来人】になれそうだな」

「おいおいやめとけって。規範に書いてあっただろう? 人種以外にみだりに勧誘をかけてはならないって」

「そういやあれはどういう意味なんだ?」

「鬼人や狐人は怨霊を倒せる種だってことは知ってるだろ?」

「あぁ、あれな」

「もしあっちの寄合に入ってたら厄介なことになるからだよ」

「あー。なるほどな。そいつは確かに厄介だ」

「?」


 集まってきた風来人の男性たちは何やら訳の分からないことを言っています。

 寄合って集まりのことですよね? 特には入ってないですけどなんなんでしょう。


「ご主人様ご主人様。怨霊や付喪神は通常の風来人には倒せません。【討鬼組合】に所属できる実力がある人たちだけが倒せるんです。私たちや妖は当然倒せますのであまり必要ではありませんが、人間は【討鬼組合】に所属した上で【寄合】つまりパーティーを組んで行動する必要があるんですよ」


 と、こっそりラティスが耳打ちして教えてくれます。

 なるほど、寄合とはパーティーのことなんですね。


「ところで、この大猪の分け前なんだが……」


 ラティスと内緒話をしていると風来人の男性の一人が申し訳なさそうに話しかけてきます。

 分け前かぁ……。


「楓さんどうします?」

「楓でいいぜ? オレも雛菊って呼ぶからよ」

「あ、はい」


 話しかけたら話しかけたで何やら呼び方に注文がついてしまいました。

 それより分け前の話をしたかったんですけど……。


「んで分け前だったか。オレは要らねえぜ」

「私も要りませんね」

「分け前もいいですが感謝の念のほうが欲しいですね」

「え? いらねえのか?」


 私たちには分け前が必要ないこと伝えると驚きの表情を浮かべます。

 まぁ確かに驚くかもしれませんね。


「おうよ。感謝の念だけでもくれればいいぜ? そっちのほうが必要だしな」

「たしかにそうですね」

「そのほうが有益です」

「何も要らない代わりに感謝だけしろって言われてもなぁ。いや、感謝はしてるぞ? でもこれだけの獲物だったら結構な金になるぞ?」

「でしたらその分だけ感謝してください」

「いや、わけわかんねえぞ……」


 どうやら彼らには理解できないようですが仕方ありません。


「んー。では次会うことがあったら何か御馳走してください」

「それだけでいいのか? いやまぁ……。わかった。その代わり何か困ったことがあれば気軽に頼れよ? いつでも助けに行くからよ」

「おう! 期待してるぜ!」


 こうして私たちは風来人の人たちに大猪を渡し、感謝の念を捧げることと何かしらに助力することを約束させることができました。

 彼らの感謝の念次第では臨時報酬があるかもしれないので楽しみです。


「ところで楓、感謝の念なら受け取るってことは神族の誰かから社を受け取ってるんですか?」

「社?」

「はい。信仰の社です。感謝の念や畏怖、祈りを受け取って捧げると報酬がもらえるんですけど」

「あー。村にあるあれか! 名前は知らなかったけどたまに使ってるぜ? どこから報酬が来るのかさっぱりわからねえけどな!」


 豪快に笑いながらそう話す楓。

 でも信仰の社を使ってくれているようで何よりです。


【信仰の社】とは、人々が発する感謝や祈り、畏怖の念から得られるエネルギーを捧げることで報酬に変換してくれる便利な代物です。

 神族や妖種くらいにしか使えない代物ですけどね。

 ちなみに送られた念は高天原に集められ、それに応じた報酬を各社に送り返しています。

 送られる報酬は様々ありますが、基本的には選んだ報酬が贈られるようにはなっています。

 お任せを選ぶとくじ引き要素はありますが通常交換するよりも多少高いものが贈られるようです。


「んー。なんか戦いなりないし、もう少し魔物狩っていくか」

「時間が大丈夫なら構いませんよ?」


 なんか戦いたそうにしているので御狐領までの道中くらいならいいでしょう。


「ラティスも大丈夫ですか?」

「もちろんです、ご主人様!」


 ラティスの方も問題がなさそうなのでこのまま少し狩りと行きますか。


「楓、狩りいけますよ」

「おう! んじゃいくか!」


 こうして私たちは御狐領までの道中、魔物狩りを始めるのでした。



 ▽


「そっちへ3頭行ったぜ」

「お任せ【御剣】」

「アオオオオオオオン!!」


 楓に追い立てられこっちに向かってきた狼3頭を御剣で倒す。

 御剣の流麗な刀術で鮮やかに舞い飛ぶ狼の頭。

 その首からは赤い血ではなく黒い血が流れ出ていました。

 やはり普通の動物ではないということです。


「おらおら、よそ見してんじゃねえよ!!」

「ギャウン!」


 御剣の刀捌きを見て躊躇していた追い立てられた狼たちを金棒で吹き飛ばす楓。

 微笑むその表情はとっても嬉しそうで妖艶に見えました。

 どうやら魔物狩りが楽しくて仕方ないらしいです。


「アオオオオン!!」

「ははっ! 追加が来やがったぜ! あいつら仲間がやられて怒ってやがる」

「やれやれですね」


 街道を遠く外れた森の奥。

 そこに魔物と化した狼の群れを蹴散らして遊ぶ楓と私たちはいます。

 かれこれ十頭以上は仕留めたでしょうか。

 そのせいか群れの何かが怒っているようで怒りに満ちた遠吠えが聞こえてきます。


「おらおら、どんどん来いよ! どうせなら群れの長連れて来いってんだ!」


 来る狼来る狼どんどん蹴散らしていきます。

 楓の金棒の一撃は狼を絶命させるには十分な様子です。


「御剣、周囲を警戒しつつ倒してください。追加を召喚します【眞弓】」


 略式の召喚で冥府より弓に長けた女性の衛士を呼び出します。

 

「眞弓、偵察とけん制をお願いします。狼の長がいたら報告を。仕留められそうなら仕留めてください」


 私の言葉を聞くと眞弓はこくんと頷き走り去っていきました。

 眞弓は奇麗な黒髪を後ろで一本にまとめた身長の高い美しい女性です。

 奇麗な黒髪の男性衛士の御剣とは良き同僚のようですが、並んで立っているととてもお似合いなんですよね。

 まぁ彼らの言葉を聞くには常世に行くしかないんですけど。


「なぁ、今のって」

「常世の衛士の【眞弓】ですよ。弓の名手です」

「ほ~ん」


 私のそばにやってきた楓はそう口にすると、楓が走り去っていったほうを見つめていました。

 戦いたいのでしょうか。

 

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≪最つよ≫もふかわお狐様は異世界で休暇中です。連絡は最寄りの巫女までお願いします〜美少女お狐様の異世界のんびり休暇ライフ日記〜 じゃくまる @jackmarumaru

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