第13話 鬼来りて狐に会う
お団子を堪能していた時、外から急に「鬼様が来たぞー!!」という大声が聞こえてきました。
何やらみんなバタバタしながら外に出て跪いている様子。
お店の人や中にいた鬼人族も急いで外に向かっています。
そんな中、香菜(かな)さんだけは素知らぬ顔。
「香菜さんはいいんですか?」
村のみんなとは違ってゆっくりお団子を頬張る香菜さんを見ながら一言。
でも香菜さんは気にしていない様子で「お狐様がいるのですから問題ありません」とだけ返してきました。
「まぁいいですけどね。でも皆さん行ってしまったんですね」
誰もいなくなった店内を見回しながら私がそう言うと簡単に理由を教えてもらうことができた。
「元々は鬼族が鬼人を生み、住まわせたのがこの村の始まりです。ですので少なくとも鬼人族は鬼族が来れば歓迎しますし崇拝もしますよ。まぁ物珍しさもあるでしょうけど」
「なるほど。それで狐人族は?」
「狐人は鬼族や鬼人族に恩義がありますので出来る範囲では手助けしますし、鬼族の歓待もします。でもやはりといいますか、ルーツは雛菊ちゃん妖狐族たちですから鬼人族ほど鬼族を優先したりはしません」
「ふむふむ」
ちなみにこの世界には妖狐は存在していない。
後天的に生まれることはあるけど、成り立ちが違うせいで鬼族とは違って自然に生まれることはなかったようです。
もしかすると香菜さんが第一号の妖狐になる可能性はありますけどね。
転生者ということもあるし、私のことも知っている友達でもありますので。
「おう、ここか!? でっけえ妖気を感じたから来てみたぜ!!」
私たちがのんびり話していると、突然扉が大きな音を立てて開かれた。
そして威勢の良い声を共に入ってきたのは角を生やした私より少し背の高そうな長い黒髪の美しく可愛らしい女の子でした。
「鬼姫様、いくらなんでも突然そういうことをされては……」
「あぁん? いいだろ? オレたちのルーツでもある妖狐を見に来たんだからよ。にしても思っていたよりちっちゃいな」
「誰だか知りませんけど、初対面でいきなりちっちゃいとか言わないでくれませんか?」
「あぁ、わりぃわりぃ。オレも小さいほうだけどさらに小さくてついな」
「ぬぅ~……」
村人さんに苦言を呈されても気にせず、私の文句も目の前の鬼の少女は全く意に介していない様子。
さすが鬼族、なかなか傲慢ですね。
それにしてもこの鬼の少女、私の世界の鬼よりは若干劣るものの十分な強さを宿していますね。
鬼はどうあれ鬼ということですか。
「お前、思っていたよりもずっとつええのな。オレよりも上の力を感じるぜ?」
私の前に立った鬼の少女は私を見ながらたった一言それだけを口にしました。
彼女が何を考えているかはわかりませんが、内包した妖力を見てそう感じた様子。
「私の知っている鬼ほどじゃないですが、それに近いくらいの力を感じていますよ。この世界の鬼族の中でも一番強いのではないでしょうか」
「お? わかるか? そうなんだよ!! いやぁ、分かってくれてマジでうれしいわ」
鬼の少女は私の言葉が心底嬉しかった様子で、ただでさえ可愛らしい顔に笑顔の花を咲かせています。
なるほど、属性に属性を追加できるのですか。
それにしても、この世界で『マジ』という言葉を聞くとは思いませんでした。
もしかして翻訳か何かの影響でしょうか?
「まぁそのせいで嫁の貰い手はないだろうって親父に言われちまってんだけどよ」
「は、はぁ……」
気易く私の背中を軽く叩きながらそう話してきますが、毛ほども興味ない話題なんですけど……。
伝わりませんよね。
「んだよ、オレの話がつまらねえってのか?」
鬼の少女がそう口にした瞬間、しゅういでみていた人々の間にざわめきが走った。
ついでに誰かが「ヒッ」という悲鳴を漏らしたので誰かしら妖気に当てられてしまったんだと思います。
「そうですよ。もっと面白い話をしてください。そもそも貴女が嫁に行く行かないは関係ありませんし」
「だよなぁ~……。オレもそう思うわ」
「その辺りがどの鬼族もそうですけど問題なんですよ」
一瞬試すような妖気が向けられたもののやり過ごした私は正直な気持ちを口にしました。
鬼の少女の方も、一瞬面くらったような顔をしていましたが納得した様子。
鬼の娶り問題って結構面倒くさいんですよね。
だからできれば関わりたくないです。
「たしかにな~。うちの姉ちゃんの件もあるし。あれにはうんざりしたっけなぁ」
「なんでどの世界も同じようなやり方するんですかね」
「そうだよなぁ」
「「嫁入り前の腕試し試練」」
どうやら私と鬼の少女の考えていること一致していたようです。
「え? 鬼族って腕試しするんですか?」
と、何も知らない香菜さんが疑問を口にします。
「私より弱いやつには嫁がないっていって千人斬りとかやるんです。だから婚期が遅れに遅れるんですよ」
「そのくせ年下が早めに結婚するとやっかむんだから手に負えないぜ?」
「そ、そうなんですね……」
私たちが口にする鬼族の事情を聞いた香菜さんはドン引きしていますが仕方ないでしょうね。
「だったらこの世界の西方世界はどうなんですか? 転生者とか勇者? みたいな強い人いるのでは?」
東方世界でダメならば西方世界を狙うのはいかがでしょう。
そう思って口にしましたが、たぶん駄目でしょうね。
「あー。そう思って昔行ったらしいんだけどどいつもこいつも弱いというか脆いらしくてなぁ。ちょっと捻っただけでぼろ雑巾のようになったって聞いた」
「鬼と言えば物理も魔法防御もつよつよなのでほとんど通りませんもんね。さらに攻撃を受けると相手の生命力と魔力を奪っていくっていうおまけつき」
「よく知ってんなぁ」
「知り合いと戦ったことありますしね」
すでに私たちの世界の鬼とは戦ったことあるのでよくわかります。
「ふむふむ。やっぱいいな。顔もオレ好みだし」
「ん?」
今、この鬼なんて言いました? 聞き間違えかな?
「いやなんでもねぇ」
「?」
まぁそんな些細な話は置いておきましょう。
私に会うのが目的ならもうこの鬼の少女の目標は達成できたのではないでしょうか。
いつまでいるんでしょうね?
「そろそろ帰らないんですか?」
「あ? んでだよ? お前らの住処までついていくぞ?」
「は?」
「ご、ご主人様。落ち着いてください」
私たちの住んでる場所までついてくるですと?
「理由」
「んなの決まってんだろ? お前が気に入ったからだ。あとその隣のちっこいの」
「あ、私ですか?」
鬼の少女に指名されたラティスは小首を傾げながら問い返す。
すると鬼の少女はじっとラティスを見てからこう言ったのだ。
「お前、なにもんだ? なんでなんもわかんねえんだ?」
ラティスを見るその顔は心底不思議そうでした。
「ラティスは何と言えばいいかわかりませんね」
「ご主人様。それはひどいですよ」
「だって本当じゃないですか」
ラティスは泣き顔ですが本当のことだから仕方ありません。
「そういえばラティス様って見た目普通の少女ですよね。神様でかつお狐様の従者だとは伺っていますが……」
「あ、え~っと……」
そう問われたラティスは困ったように私の顔をちらちらと見てきます。
なのでこくんと頷き許可を出しました。
「私たちはこの空の遠い向こう、宇宙と呼ばれるさらに先にあるエネルギーと光子、ダークマターを合わせて生み出された神造生命体なんです。なのでどの生命体とも一致しません」
「むむ?」
それを聞いた鬼の少女はよくわからなそうに唸り、香菜さんに至ってはこんな言葉を口にするのでした。
「やっぱりSFじゃん!!」
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