第12話 江戸時代の話にSFを混ぜてはいけません

 お団子うまし。

 まさかこの三色団子がここまで美味しいとは思いもしませんでした。

 桃色、緑、白。

 素朴なはずの子のお団子はほんのり甘く、私の口の中を幸せで満たしてくれています。

 よもやお砂糖が!?


「おやおや、ずいぶんと幸せそうに食べるのね」


 私たちの様子を見に来たのか、再び店員の鬼人の女性がやってきました。

 とてもにこにこしていて嬉しそうです。

 もしかすると店長さんなのかもしれません。


「んくんく。はぁ~。素朴な感じなのにほんのり甘くておいしいです。もしかしてお砂糖が?」


 甘さは物足りないということもなく、さりとて甘いと感じさせない。

 上品なほんのりとした甘さとでもいうべきでしょう。

 100点満点! と言いたいところですが100点付けるとそれはそれで限界なような気もするので95点付けておきたいと思います。


「そうなんだよ。最近公儀も頑張っているようでね~。砂糖の生産量が上がっているのさ。ただ問題として虫歯が増えたって話もあってねぇ」

「うわぁ……」


 この世界の技術レベルを考えると、虫歯治療は限定的な物でしょう。

 となると激しい痛みを伴うはず……。


「私はまだ虫歯になったことはありませんが、抜くことが多いそうです」

「絶対痛い!!」

「私は虫歯にならないのでわかりませんが痛そうですね」

「ラティス、貴女の歯はどうなっているの?」


 意外な裏切り者がいました。

 虫歯にならないって言いましたよ? この神造生命体。

 もしかして天使は虫歯と無縁!?


「あっ! ご主人様! このお茶美味しいですよ!?」

「露骨に誤魔化しに来ましたね」

「あはは。なんのことでしょうか」


 虫歯と無縁な天使はおいしそうにほうじ茶を口に含んでいました。

 それにしても美味しいお団子です。


「そんなに美味しそうに食べるならおまけしちゃおうかね」


 鬼人の女性そう言うと再び店の奥に入っていってしまいました。

 ふぅ。


「私が死ぬ前の世界の歴史で学んだ江戸時代の話ですが」

「はい」

「半分くらいしか役に立ってません。なんで……」

「あー。その半分の原因は私たちです……」


 この世界を作る際に妖力を魔力に変換して混ぜて作ったのが原因です。

 

「お狐様たちのせいだったんですね。まぁ仕方ないかぁ……」

「納得してもらえたようで何よりです」

「雛菊ちゃんとお母様にはお世話になりましたしね」

「名前、憶えててくれたんですね」

「うん」

「いずれ杏も連れてきますよ。向こうの世界での私の巫女ですし」

「うん……」


 若干しんみりしましたが杏に会わせる約束は出来たようです。

 ところで……。


「気になっていたんですが、なぜ付喪神が悪さをしてるんですか?」


 私が一番気になっていることの一つです。

 悪意を持つ付喪神、ちょっとただ事じゃないと思います。


「原因はおそらく、過去の大飢饉と各大名豪族の失政ですね。戦乱もありましたし、各地に未だ恨みが残っているようなんです。それらの恨みや悪意が付喪神に影響を与えていると、各地の寺社関係者は考えているようです」

「なるほど。となると……」

「その失政を犯した大名や豪族たちには死後も怨念が憑りついていることになりますね」

「怨霊、ですか」


 香菜さんの推測を聞いて考えていたことをラティスが代弁してくれました。

 簡単に纏めるとこういうことです。


 各大名や豪族が犯した失政の影響で年貢の増税が発生。

 飢饉も加わり大量の餓死者が出ます。

 その恨みは強く激しいもので、失政を犯した各大名や豪族が処刑される前に憑りつき、処刑後もそのまま憑りついたまま融合。

 各地で戦乱が発生し乱世になる。

 そしてさらに恨みが募り、怨霊はさらにそれらの思念を吸収。

 そして強力な怨霊へと至る。

 これが各付喪神に影響を与えていると推測しているわけです。


「悪い付喪神は困った存在ですが、同時に奇妙なことに資源にもなっているんです」

「資源、ですか?」


 付喪神の性質上、欠けることや破損するということはありません。

 なぜなら強度が上がっているし、破損しても修復するからです。

 あ、そっか。


「悪鬼は倒せば装備が手に入りますし、付喪神は倒せば道具と鉄などの資源が手に入るんです。だから美味しいと言いますか」

「なるほどなるほど」


 付喪神は倒しても死にませんし消えません。

 追い払うだけなのでまた何かに憑りつき復活します。

 それがたとえ破片であったとしても、元の姿を復元して復活します。

 質量とかどうなっているの? と思うかもしれませんが、それが付喪神です。

 私の領地にいる自然霊の子と同じ存在なんですけどね。


「付喪神を良いように利用してるってわけですね」

「言い方は悪いですが、そういうことです。とはいえ、付喪神を倒すには相当の技量が必要ですし、技量がなくても倒せるには倒せますがちょっとした才能が必要です」

「才能……」


 香菜さんの言う才能。

 それは人間なら【霊力】を扱えるかどうかということです。

【魔力】ではだめですが、【霊力】という東方世界人のみが使える力を使えば倒すことができます。

 簡単にいうと、【霊力】であれば付喪神の【霊的防御】を突破できるというわけです。

 この【霊的防御】は私たち妖種でいえば【妖力結界】のようなものです。

 まぁ私たちのほうがずっと強力ですけど。


「ご主人様と同じように私たちにも独自の結界がありますよ? 生身でも使えますけど、武装を装備しているとさらに別の結界も使えますし」

「ラティス様のお力とはどのようなものなのですか?」

「あ、それ聞いちゃうんですね」

「だめ、ですか?」


 どうやらラティスに興味を持ってしまった様子。

 まぁこの子たちこそ一番おかしな存在なんですけどね。


「私たちには種族特性と言いますか、もともと持っている力でほとんどの物理攻撃や魔法攻撃を防ぐことができます。いわゆる【神聖結界】と言われるものですね」

「それ、すごいですね。ほとんど無敵じゃないですか」


 ラティスの話を聞いて目を輝かせる香菜さん。

 うっ、このままいくと香菜さんの想像する世界艦を壊してしまうかもしれません。

 

「そうでもないですよ? ご主人様たちの攻撃は普通に通りますし、ビームやレーザーは弾けません」

「は? ビーム……? レーザー……?」

「はい。小型戦闘艦ならまだいいんですが、中型戦闘艦以上になるとかなり痛いです。大型戦闘艦や惑星制圧艦相手となると欠損も覚悟しないといけませんし」

「せんとうかん? わくせいせいあつかん?」


 はい、来ました。

 ラティスたち特有のSF世界用語です。

 本当にこの江戸時代のような世界には合いませんよね。


「そうです。惑星サイズの大きな戦闘艦があるんですが、それが惑星制圧艦です。それと対峙した日には緊張しっぱなしで……」

「ラティスラティス。ストップ」

「ご主人様?」

「ほら見て。香菜さんがついていけてません」

「あっ」


 ラティスにそっと香菜さんの状態を教えてあげました。

 香菜さんは理解が追い付いていないようで、ぽかんと口を開けたまま放心しています。

 2500年の日本でも銀河規模まで進出できていませんからね。

 太陽系の遠いほかの惑星に進出できた程度です。


「いいですか、ラティス。お父様たちの世界の話は誰もついていけないんですよ? 設定中でもない限り理解が追い付きませんよ?」

「あう。ごめんなさい」

「この惑星の上空にあるターミナルステーションですら理解できないと思いますよ?」

「そ、そうですね……」


 私の指摘を受けてラティスは軽くへこんでしまいました。

 でも仕方ないですよね。

 いきなりSFの話をされたら誰でも困ってしまいますから。


「はい、お待たせね~」


 空気を読んだのかはわかりませんが、一段落したところで鬼人の女性がお代わりを持ってきてくれました。

 待ってました!!


「美味しい」


 やはりお団子うましです。

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