第38話 石田の母

 出演者(イメージ・キャスト)

  百地龍太郎(オーナー) 草彅 剛

  百地静子(テンチョウ) 仲間由紀恵  


 ・・・朝。


静子が銀行に出かける準備をしている。

龍太郎は新商品のファイルをテーブルに広げて見ている。


 静子「じゃ、ちょっと行って来ますから」

 龍太郎「うん? あ、気お付けてね。忘れ物は無いよな」

 静子「アンタとは違うわよ」

 龍太郎「? そうだね」


静子が事務所を出て行く。

龍太郎は事務所で防犯ビデオのモニターを観ている。


 店内にはいつも来る具流氏が週刊誌の立ち読みをしている。


すると、『中年の女』が店に入って来る。

店内には客は誰も居ない。

暫くして、石田がバックルームからカウンターに現れる。

石田がその女と何かを話しをしている。


 売り場。


 石田「来るなって言っただろう。帰れよ! オマエの顔、見るとむかつくンだよ。ッたく」


女は石田に何かを渡そうとしている。

石田は受け取らない。

女はカウンターの上に渡そうとした物を置く。

石田は置かれた物をフロアーに投げつける。


 石田「オマエなんか親でもないくせに母親ズラすんな。早くウセロ! クソババー」


女は黙って俯(ウツム)いている。

暫くすると、女はフロアーに投げ付けられた物を拾い、淋しそうに店を出て行く。


 龍太郎は、モニターに映った光景を見て『石田の母』だと直感する。

龍太郎は売り場に出て行き、雑誌の整理を始める。


 具流氏と目が合い軽く挨拶をする。


石田がレジカウンターの中からフロアーの一点を見詰めている。

龍太郎は週刊誌(コミック)を見ながら石田にさりげなく、


 龍太郎「どうした? ・・・今の人は母さんだろう」


石田は龍太郎の呼びかけに驚いて、


 石田「えッ? 違いますよー」

 龍太郎「そうか?・・・でも石田サンは嘘が下手だな。顔に書いてあるぞ」

 石田「え~? 違・い・ま・すッ! オーナーには関係ないっス」

 龍太郎「あの人、時々店に来てるだろう。俺、何回か見たことがあるぞ」


石田は黙り込んでしまう。


 龍太郎「優しそうな人じゃないか」


石田は何も答えない。


 龍太郎「あの人、石田サンの事を心配しているんじゃないか?」

 石田「心配? 大きなお世話です。あんなヤツ」

 龍太郎「あんなヤツ? やっぱり母さんか」


石田はきっぱりと、


 石田「違いますッ! アタシには母親なんて居ません。高校ん時、オトコを作っ家を出て行っちゃいました。だからあの女は母親なんかじゃな・い・ん・で・す!」

 龍太郎「そうじゃない。僕が石田サンと面接した時に言ったじゃないか。覚えているかなあ」

 石田「え?」

 龍太郎「母さんは母さんだ、許せるものなら許してやれって」


石田は顔を赤くして怒る。


 石田「だって、アタシ達家族を捨てたんですよ。そんなヤツ、母親なんかじゃ無いじゃないですか」

 龍太郎「そうかな。僕はそうは思わないぞ。きっと石田サンの母さんは、家族を捨てて始めて本当の母さんに目覚めたんじゃないのか? 石田サンだって高校を中退して、この店で始めて働いて、いろんな事を経験して、大人に成ったんじゃないか。人間は子供を生んで、直ぐに母親に成れる人と成れない人が居るんだよ。親だって、すべて完璧で完全な親なんて居ないよ。母さんだって自分の人生を歩いているんだ。いろんな事が有るさ。いろんな事を経験して、本当の親に成って行くんじゃないのか。父さんじゃない人を好きに成る事もあるよ。それは母さんの人生だ。でもね、それでようやく自分の置かれた立場が判ったんじゃないのかな? だから石田サンの母さんは『許される人』だよ。石田サンの方こそ、もっとオトナに成らなくちゃ。石田サンもその内に結婚して子供が生まれ、母親に成ったら分かるよ」


石田は黙って聞いている。

と、石田が、


 石田「オーナー。オーナー達って子供、居るんスか?」

 龍太郎「子供? 僕は・・・子供居たのかなあ」

 石田「え!? ナニ、それー」

 龍太郎「あ、いま言った事は絶対、店長に言うなよ」

 石田「何だか分からないけど言いませんよ。オーナーって凄く頭が良さそうだけど、やっぱり普通の人と違いますね。アタシ、オーナーみたいな人、初めて見ました。でも、ソンケイして良いのかなあ」

 龍太郎「尊敬? ソンケイなんかするなよ。石田サンにはもっと尊敬出来る人が必ず出て来る。だから、今度あの人が店に来たら 『母さん』と呼びながら喧嘩してあげなさい。あの人きっと泣いて喜ぶぞ。それがあの人に対しての石田サンの本当の親孝行だ。・・・な」


石田は俯いてカウンターを見ている。


 音 「ピンポーン」


ドアーチャイムが鳴り、店にお客が入って来る。


 龍太郎「いらっしゃいませー」


石田が少し遅れて、


 石田「ませ~」

                  つづく

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