第37話 ドヤ街のヒーロー
出演者(イメージ・キャスト)
百地龍太郎(オーナー) 草彅 剛
百地静子(テンチョウ) 仲間由紀恵
二月の『ある日』の事である。
外は今日も冷たい雨が降る。
客足も途絶えた午後の店内。
石田が事務所に入って来る。
石田「あの~、すいません」
龍太郎がいつもの様にストコンに向かい、「新商品」の発注をしている。
龍太郎「うん? あ! ちょうど良い所に来た。石田サン、この商品どう思う?」
龍太郎は新商品のファイルを石田に見せる。
石田「え? いや、今、店に刑事が来てるんスけど」
龍太郎「ケイジ?」
石田「この人っス」
石田が龍太郎に名刺を渡す。
龍太郎は名刺を見、
龍太郎「向島警察署広域捜査課鮫島隆志・・・。ムコウジマ?」
そこに突然、背広の男が事務所に入って来る。
龍太郎「イヤ~すいません、忙しい所。店長サン、ちょっと良いですか?」
龍太郎は一瞬驚いて、
龍太郎「え! あ、はい。何か・・・」
刑事「実はですねえ、先週の金曜日にそこの公園で女の子の『誘拐未遂事件』が有りましてね。男は捕まえたんですけれど、その男、事を起こす前に、この店でT型の安全カミソリを買って『ヒゲを剃った』って言ってるんですよ」
と鮫島刑事。
龍太郎「ヒゲを剃った? 金曜日の何時頃ですか」
刑事「本人は、昼の三時から四時の間って言ってるんですけれどね」
龍太郎は石田を見て、
龍太郎「石田サン、そんな客、覚えがある?」
石田「アタシ、先週の金曜日は休みっス」
龍太郎「あ、そうか。誰が出てたんだっけ?」
石田「三原っス」
龍太郎「三原か。あの娘、覚えてるかなあ。何しろ変ったお客さんが沢山来ますから髭剃(ヒゲソ)りぐらいじゃ・・・」
鮫島刑事が、
刑事「いや、それは別に良いんですけれど。店長、防犯ビデオは回ってますよね」
龍太郎「あ、そうか。回ってます! そうだ、それを見れば直ぐ分かる」
刑事「で、保管期間は?」
龍太郎「一週間です」
刑事「と言う事は、事件がちょうど一週間前だから」
龍太郎「あッ! 有ります」
龍太郎は頭の上のビデオラックから一本を取り出し、テーブルの上に置く。
刑事「すいませんけど、できたら一週間分全部お借り出来ますか?」
龍太郎「え? 全部ですか」
刑事「申し訳無いですけど。その代わりと言っちゃナンですけど、私の方で新しい物を六本、買わせてもらいます」
龍太郎「え? いや、良いですよ」
刑事「いやいや、大切なビデオテープですから」
龍太郎「そうですか、すいませんねえ。石田サン、カウンターからレジ袋を一枚持って来てくれる」
石田「はい!」
石田は売り場カウンターに。
刑事「忙しいのにすいませんねえ」
龍太郎「いや~、お役に立てば良いですけど。この辺は事件が多いんじゃないですか?」
刑事「そうですねえ。でも昔よりは随分減りましたよ」
龍太郎「僕は、ここのお客さん全部が犯罪者に見える時があるんですよ」
刑事「ハハハハ。まあ、土地柄そう見えても仕方がないかもしれませんね」
石田がレジ袋を持って来る。
石田「はい、オーナー」
龍太郎「おお、ありがとう」
龍太郎はカセットテープを袋に入れ鮫島刑事に渡す。
鮫島刑事が、
刑事「あ、恐縮です。オーナーさんだったんですか。失礼しました」
龍太郎「え? ああ、そんな事はどうでも良いですよ」
刑事「ハハハハ、じゃ、これお預かりします」
龍太郎「どうぞ、どうぞ。お役に立てば良いですがねえ」
刑事「じゃ、突然で失礼しました」
鮫島刑事が事務所を出て行く。
モニターを見ている百地氏。
鮫島刑事がビデオを数本まとめて、レジカウンターに持って行くのが映し出される。
静子が丁寧に応対している。
ドアーチャイムが鳴り、鮫島刑事が傘を差して店から出て行く。
静かに成った店内。
すると、一台の古ぼけた自転車が店の前に止る。
紺の作業服の上下に黒い野球帽を被り、小柄で痩せた『労働者風の男性』。
その男、自転車のスタンドを立ててアーケード街の人通りを確認し店に入って来る。
男は雨にびっしょりと濡れている。
石田は床の雨水をモップで拭きながら、
石田「いらっしゃいませ~」
男は濡れた野球帽を深く被り直し、さり気無く天井の防犯ビデオの位置を確認、店内を一周する。
静子が商品の入った箱を抱え、バックルームから出て来る。
静子「いらっしゃいませ~」
商品を箱から出して棚に並べ始める静子。
と、突然!
男は静子の背後に回り羽交い絞めにする。
静子は驚いて、
静子「ナ、ナンデスカ!?」
男 「シッ! 静かにしろ」
石田は何も気付かず床を拭いている。
石田「店長~、咲子の洗濯物だけど、早く片付けないと~、また増えて来ましたよ」
石田が顔を上げる。
と、目の前に静子が立っている。
石田「! びっくりしたなー。店長、驚かさないでくださないよ」
静子「イ、イッちゃん。ご、強盗!」
石田「ゴウトウ?・・・あ!」
静子の後に包丁をタオルで巻いた、あの男が立っている。
すると龍太郎が新商品のファイルを広げて、事務所から売り場に出て来る。
龍太郎「店長、この商品。・・・?」
龍太郎はカウンターの三人を見て、
龍太郎「あ、ご苦労様です。あれ? 今度は防犯訓練ですか。リアルですね。すいません、僕、事務所に居ますから何か有ったら呼んで下さい」
龍太郎は事務所に。
静子「バカ! これが分らないの? 役立たず!」
男は小声で、
男 「ウルセー、カッ、カネを出せ!」
石田「どうしますか?」
静子「どうしますかって、グリコの看板じゃない」
石田「グリコの看板?」
静子「バンザイって事!」
男 「ヤカマシイー! バカな事言ってるんじゃねー。早くレジ開けてこの袋にカネ入れろ!」
男は石田に布袋を渡す。
静子「石田さん! 言われた通りにしなさい」
男のナイフの先が不気味に光る。
石田「でもー・・・」
静子「バカ! 強盗よ。早くしないと刺されちゃうでしょ」
石田「ア、・・・はい」
石田はレジカウンターに行く。
レジを開け、札を袋に入れ始める石田。
石田は静子を見て、
石田「コマカイのも入れますか?」
静子「アタシに聞いても分からないわよ」
男 「ゴチャゴチャぬかしてねえで早くみんな入れろ。刺すぞ!」
石田はキレそうに、
「ぅせーな。ワ・カ・リ・マ・シ・タ!」
石田が仕方なく、レジの小銭を袋に入れて行く。
男 「早くしろ、ハヤク! これが見えねえのか」
石田は男をキツイ眼で睨み、
石田「今、入れてんじゃないスか」
男 「ウルセー、口答えするな!」
静子「痛い! 刺した。この人、本当に刺した! またやったら警察に言うわよ」
男 「バカ野郎。俺は真剣だ!」
石田「・・・ハイ! い・れ・ま・し・た」
男 「そっちも!」
石田「え~え?」
男 「エ~じゃねー! 早くしろ!」
石田は舌打ちをして、
石田「チ、は~い」
と、龍太郎がまた売り場に顔を出す。
龍太郎「あれ? まだやってるんですか」
男は龍太郎の言葉に振り返った瞬間。
石田がカウンターの下の「非常ベルボタン」を押す。
けたたましくアーケード内に鳴り響くベルの音。
音 「リリリリリリ・・・」
龍太郎がベルの音を聴き、
龍太郎「ほう、防犯ベルの確認ですね。今日はそこまでやりますか」
若干、たじろぐ男。
男は急いで静子の腕を掴み、引き寄せる。
男 「早くベルを止めろ!」
男の小声が上(ウワ)ずっている。
龍太郎はまだ空気が読めない。
石田が、
石田「オーナー! 強盗です。警察!」
龍太郎「やっぱりそう来ますか。分かりました。私が急いで事務所に戻り、警察署に連絡する。そう云う下りですね。ご苦労様です」
龍太郎は急いで事務所に戻る。
静子「あのバカ!」
男 「動くな! 殺すぞ」
ベルの音を聞いて外に人が集まって来る。
暫くすると、誰が知らせたのか『パトカー』が表通りに停まる。
ドアーが開いて警官達が急いでアーケード内の店に入って来る。
と、カウンター越しに、
男 「来るな、殺すぞ!」
と男が叫ぶ。
一瞬、たじろぐ警官達。
警官「!・・・分かった。出る。・・・何人居る?」
石田が大声で、
石田「人質が三人!」
男 「ウッセー! 喋るな。一人一人ぶっ殺すからな」
また一台、パトカーが停まる。
暫くするとまた一台、今度は『覆面パトカー』もやって来る。
そして、『救急車』が。
警官Aがパトカーのトランクから「ポール」を取り出す。
周囲に立ち入り「規制のテープ」を張り巡らす警官A。
覆面パトカーから刑事が二人、通りに出て来る。
店の周りには、野次馬達が徐々に増えて来る。
すると野次馬の中から一人、規制テープをくぐって店を覗く男性。
ブルーテントの「吉松」である。
吉松は声を殺して、
吉松「お~い、大丈夫かー?」
すると店の中から甲高い声。
声 「ウルセーッ、ぶっ殺す!」
警官Aは驚いて吉松を店から遠ざける。
警官A「ダメダメ! 今、店に入れませんよ」
吉松「いや、友達なんだよ。これが最後の見納めかも知れねえしよ」
警官A「ええ? 犯人の友達ですか」
吉松「バカ言ってんじゃねえ。俺がそんな男に見えるか? この店の社長とだよ」
警官A「社長? ああ、そうですか。とにかく店に近寄らないで下さい。犯人を刺激しますから」
吉松「刺激? 随分と高待遇だな」
吉松さんが何気なく店の前に置いてある『自転車』を見る。
どこか見覚えのある自転車である。
前の泥除けに『坂口勘蔵・血液型O』と書いてある。
吉松「・・・? あれ! この自転車・・・」
警官A「はい、どいてどいて。立ち入り禁止! 早くどいて下さい」
表で刑事達が打ち合わせをしている。
警官Bがパトカーのトランクを開けて「挿す又」を組み立てている。
すると、刑事達の中から一人の老齢の「刑事A」が店の方に歩み寄る。
刑事Aは店の中に入って行く。
店の中から怒鳴る声。
声 「来るな~! オンナをブッ殺すぞ」
暫く騒いでいたが急に店内が静かに成る。
男性は老齢の刑事Aと何か喋っている。
暫くすると刑事Aが店から出て来る。
刑事Aは携帯電話で誰かと話している。
吉松はまだ自転車を見詰めている。
そこに店の常連の糖尿病の木村が、吉松の傍に来て、
木村「撮影?」
吉松はいぶった化に、
吉松「強盗!」
木村は驚きもせず無表情に、
木村「そう」
と一言。
気にもせず、店の中に入って行く木村。
警官Aはそれを見て驚いて、
警官A「あッ! お客さんダメ。立ち入り禁止! 入っちゃダメッ!」
木村は怒って、
「ウンパン(アンパン)!」
吉松が焦って木村の傍に近付き袖を引く。
吉松「オイ、少し我慢しろよ」
木村は大声で、
木村「ンパンを買いに来たんだあ~ッ!」
吉松「分かった分かった。俺のハウスに行こう。甘いパンが有るからよ」
木村は店の前でジタンダを踏んでいる。
ロレツの回らない木村の言葉。
木村「ウルへー! ブカヤロー。ウンパンだーッ!」
暫くして木村は、吉松に諭(サト)されるようにして店を離れて行く。
中々進展しないこの事態。
そこにアミーゴのマネージャー、「綿引」が伊藤と一緒の駆けつ来る。
綿引は強引に刑事達に詰め寄る。
綿引「どない成ってるんですか。お客さんは中に居てはるんでっしゃろう。ケガ人はおまへんやろうな」
刑事A「大丈夫です。落ち着いて我々に任せておいて下さい」
また、刑事Aが店に入って行く。
静かな店内。
暫くして刑事Aが店から出て来て、若手の刑事Bに、
刑事A「タクシーを呼んでくれないか」
刑事B「タクシー? それ、条件ですか?」
刑事A「条件?・・・うん。まあ、そうとも取れるな。何か、富士山を見たいらしい」
刑事Aは刑事Bを鋭い目で睨む。
刑事B「フジサンて、こんな時に随分ロマンチックな事を言ってますね」
刑事A「いや、これは俺の勘(カン)だが、実家が富士山の近くに在るんじゃないかあ」
吉松は刑事達の傍で聞き耳を立てて居る。
と、突然大声で、
吉松「ああ! やっぱりカンゾウだ!」
刑事達が驚いて振り向く。
吉松「あの野郎、川崎に行ったはずだが自転車で戻って来たのか。しかし・・・こんな所で」
刑事Aが吉松に近づき、
刑事A「お客サン、犯人をご存知なんですか?」
吉松「おお、知ってる。知ってるとも! 坂口勘蔵、親友だ!」
挿す又を持った警官Aが、
警官A「友人!?やっぱりそうでしたか」
吉松は警官Aを見て、
吉松「ウルセー! この野郎、冗談いってる場合じゃねえー!」
警官Aは急に丁寧な言葉に改める。
警官A「あ、失礼しました」
刑事Aは吉松を諭(サト)す様に、
刑事A「すいません。彼はまだ若いんで、ついあんな事を言ってしまい。・・・そうですか、坂口さんと云う方ですか。で、どんなモンでしょうか。お客サン。坂口さんを説得してもらいませんかねえ」
吉松「うん?・・・うん。あ、いやダメだ! ワシには親友を売るような事は出来ん」
刑事Aが更に諭す。
刑事A「お客サンの気持ちも良く解(ワ)かります。でも、坂口さんもあの歳だ。これ以上の罪を重ねたらもう二度と世間には出て来られない。何とかアンタの力で説得してもらえないでしょうかねえ」
吉松が一点を睨んでいる。
刑事A「お客さん! 親友でしょう」
吉松はその言葉に天を仰いで目を硬く閉じる。
吉松の瞼(マブタ)に一筋の涙が。
吉松「・・・、よし! やってみょう。ちょっと待ってろ」
吉松は唇をきつく噛んで店の出入り口に向かう。
吉松「あのグソバカ野郎が・・・」
ドアーをそっと開ける吉松。
ドアーチャイムが店内に響く。
するとカウンターの隅から絶叫に似た声。
男 「来るなー! 一歩でも近づいたらこのオンナを殺すぞ。俺は本気だからな!」
吉松は手を後ろに組み、外で見守る刑事達に向かって「Vサイン」を送る。
店内。
落ち着いた表情の吉松。
吉松「よ~う、カンゾウ・・・」
坂口「?、!? オマエ・・・、ヨシマツか?」
刑事達が外から覗いている。
吉松は坂口と、カウンター越しに親しげに話をしている。
老齢の刑事Aが、
刑事A「・・・上手くいったようだな」
刑事B「ですね。乗り込みますか」
刑事A「いや、その内に出て来るだろう」
野次馬がざわめき始める。
酔っ払いの男が大声で、
酔っ払い「ガンバレー! 負けるな~」
警官Bが挿す又を持って男を睨む。
酔っ払い男は、よどんな眼で警官Bを睨み、
酔っ払い「何だ、文句あるか。・・・バカ野郎、ポリ功が怖くて酒が飲めるか」
刑事Bが鋭い目で男性を睨む。
酔っ払い「あッ、スイマセ~ン。静かにしまーす」
すると、『報道関係のクルマ』が二台、店の前に停まる。
男が車を降りて急いでトランクを開ける。
ビデオカメラを肩に店の入り口に向かう報道カメラマン。
マイクを持ったニュースキャスターが続く。
警官A「あ、ダメッ。そこまで!」
これですべての「お膳立て」が整った。
するとガラス越しに、坂口が静子の腕を放し、カウンターから出て来る姿が観える。
吉松が優しく坂口の肩を抱いている。
吉松の肩にもたれ掛かる坂口。
坂口は泣いている様である。
店のドアーが開く。
吉松が最初に店から出て来る。
少し遅れて、小柄で痩せこけた『坂口』が、両手を合わせて腹の前に突き出し、堂々と表に出て来る。
その作法は、まさに『道に入った者』しか出せない、渋い「爽やかさ」さえ 感じられる。
老齢の刑事Aが坂口の前に進み出る。
刑事A「坂口勘蔵か?」
坂口は観念(カンネン)した様に、
坂口「はい。・・・お騒がせしました」
刑事A「コンビニ強盗未遂、監禁の現行犯で十五時十六分逮捕!」
腹の前に合わせた手首に、黒く冷い『手錠』が掛けられる。
報道陣のフラッシュが一斉にたかれる。
警官達と救急隊が一斉に店内に入って行く。
警官Bが、
警官B「皆さん怪我はないですか?」
石田「無事っス」
静子は髪の乱れを整えがら、
静子「大丈夫です」
警官B「あれ?・・・もう一人は」
石田「ああ、奥の事務所で仕事してますよ」
警官A「シゴト?」
警官Bが奥の事務所を見に行く。
龍太郎が段ボールを敷いてグッスリと寝て居る。
警官B「店長さ~ん。店長ーッ! 起きてくださーい」
龍太郎がおもむろに目を覚まし、
龍太郎「あ~、痛ててて。あッ! オマワリサン。すいません。寝ちゃいました。終わりました?」
警官B「は~?」
表通りでは、坂口が刑事Aと刑事達に深々とお辞儀をして覆面パトカーに乗ろうとしている。
すると、坂口が突然振り向く。
集まった「ドヤ街の野次馬達」に大声で、
坂口「みなさん! お騒がせしました。また・・・」
野次馬達は熱い拍手と惜しみない声援を坂口に送る。
野次馬「よッ、頑張れー! よくやったー!」
警官達が野次馬達を退かす。
警官C「はい、開けてー。ほら、そこ! ジャマ」
野次馬「うっせッ!タコ」
坂口は刑事Bに頭を押さえ込まれ、車に押し込まれる。
車内で悪びれず、堂々と座っている坂口。
前席に座った老齢の刑事Aに、
坂口「また、お世話に成ります」
と頭を下げている。
坂口を乗せた覆面パトカーが走り出す。
後に続いて走り出すパトカーや救急車。
吉松はニュースキャスターに囲まれインタビューを受けている。
暫くして記者達に解放され、電柱の後ろに身を潜める。
吉松は泣いている。
吉松「バカ野郎・・・、よりによってこの店をヤルなんて・・・」
静かになったアーケード街。
綿引と藤井が、店内で静子と石田に事件の経緯を聞いている。
そこに、安倍巡査長が大汗をかきながら自転車で現場に到着する。
巡査長が店の入り口に自転車を停めて、独り言を言いながら急いで事務所に入って行く。
巡査長「いや~、忙しい。引ったくりだの万引きだのって、体が幾つあって足りやしない」
事務所内。
安倍巡査長が事務所で、元気そうな静子を見て、
巡査長「おお、奥さん!ご無事で。ハハハハ、そうですか。良かった~。じゃ、また後でちょっと署の方へ」
静子「はい。あ、あの~、店が忙しく成るんで私だけで宜しいですか」
巡査長「勿論ですよ。それから・・・」
安倍巡査長が携帯ガスコンロをもらいに来た吉松を指差し手招きをする。
巡査長「ちょっと、アンタ! 大手柄ッ!」
吉松は右手でウチワを扇ぐような仕草をして、俯きながら去って行く。
巡査長「あッ、ちょっとアナタ! 顎鬚のアナタ、ダメッ! 今日は離しませんよ」
綿引が売り場に出て来る。
レジカウンターの隅に呆然と立ち尽くす龍太郎を見て、
綿引「オーナー、大丈夫でっかー!」
龍太郎「あ、すいません。お騒がせして。本物だとわ・・・。いや~、しかしこの店はいろんなお客さんが来ますねえ。落ち着いて仕事も出来ゃしない」
綿引「すんまへんなー。でもこの店、切り盛り出来るのはモモチのオーナーさんしかおまへんでー。で、オーナーも危ない目に?」
龍太郎「いや、私は事務所で商品の発注をしてました」
綿引が目を丸くして、
綿引「アッラ〜! やっぱりオーナー、違いまんナー。ハハハハ」
*『坂口勘蔵』
略歴 前科四犯 (窃盗・無銭飲食・詐欺・強盗)
つづく
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