末期状態(1)

 白歴733年、冬。


 この頃、前年の白軍中央の【洗礼】の要求に対し、各支部は揺れていた。




 スフィリーナ・白軍西支部・支部長室――。




「ミラハは金貨六十万枚で洗礼を受け容れると言っている」


 ブロテス上級司令官がニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、ゴダ支部長に言う。


「……それは誠ですか? これまでのミラハ殿の様子を見ると、俄かには……」


 ゴダが言いながらボトルを手にし、ブロテスの持つグラスにワインを注いだ。


「私が話をつけた」


「ほう」


「南は二年連続で不作に苦しんでるからな。飢餓対策で作物を買いたがっている」


「なるほど。ま、金で転ぶなら何よりですが。ただ、全額西支部ウチが出すのは……勘弁してもらえますよね?」


 ゴダが顔に笑顔を貼り付けてブロテスを見る。


「実質、西の財布は中央の財布、中央の財布は西の財布ではないか」


「ですがねぇ~……」


 苦笑しつつ、言い淀むゴダ。


 ブロテスの発言は後半部分が間違っている。現実は『西の財布は中央の財布、中央の財布は中央の財布』なのである。


「分かっている。案ずるな。中央が四十万、西が二十万。これでどうだ?」


「行けます。その一言が頂きたかった。中央がそれだけ出すなら、下を納得されられる」


 ゴダが安堵して言う。


「サード副長は?」


「あれはそれ以前の問題で、そもそも洗礼自体に反対しています。ですが、最終決定権は私にあります。最近になってようやく、あいつの使い方と言うか、手綱の握り方も何となく分かってきたんで」


「中央では、貴殿がサードを持て余していると噂になっている。特に兵からの人気がある英雄だ。注意した方がいいぞ」


「ええ、それは分かってはいますが……。私が自分でやるより全部サードに任せた方が間違いなく上手くいくので」


 ただゴダ自身が楽をしたいだけというサードの起用理由を、外面よく言い換えるゴダ。


 激戦区では赫々かくかくたる戦果を挙げた、白軍屈指の名将だ。ゴダが特にサードを欲したわけではないが、サードが勝手に中央から疎まれて西支部に左遷されてきたのだ。ならばそれを機会に重用しない理由がない。


「そうか」


「はい。……まあ、少数派に抑え込んでさえいれば最終的には何とでもなります」


 ワインを酌み交わしながら、二人の密談は進んでいく。


「……正直、去年から内乱になるんじゃないかと心配していました」


 ゴダが言う。


 南支部をこちらに入れておけば東支部と北支部がいくら吠えたところで、西支部と中央が背後から挟撃される心配もない。


 万一、東と北が挙兵したとしても、去就が明確でない勢力が存在しないことにより、敵戦力の最大値を推測できる。


 中央側は格段に事を進め易くなり、反中央側は格段に事を進め辛くなる。


「ああ、どっちつかずの南さえ何とかできれば、東と北など力で抑えつけられる。オルジェの暴走もこれで終わりだ」


「はい。こちらとしても、かなり人事に手を入れてしまったんで、それが無駄にならずに済みます」


「それはよかった」


 ゴダは洗礼に反対する者達を、サードの派閥に属する連中を除いて片っ端からクビにするか僻地のショボい役職に回したので、その苦労が報われる。


 ゴダとしてはこれでもかなり温情を加えてやった方だ。


 洗礼に異を唱えた者達は、本来なら軍法会議にかけ処刑するか、ティッキンケムの大監獄に送るかしてもよかったのだが、ゴダには発言力の強いサードの一派の者達を裁く力がない。


 サードに守られている者達だけを咎めず、そうでない者達を重罪にするのはあまりに不自然かつ不公平過ぎる。より強い反発を招くことになるし、サードに実権を奪われている、お飾りの支部長に過ぎないというメッセージを自ら発信しているようなものだ。


 そういった諸々のバランスを取るためにクビか左遷程度で収めたわけである。


 もう一つ、これはゴダの幕僚達やネリドルからのアドバイスだったが、もし万が一でも、大聖者の気まぐれが起こって中央が洗礼を推し進めることを中止・撤回でもしたら、先走って反対者を殺してしまっていては取り返しがつかない。


 仮に中央が洗礼に関する方針を翻したとして、処刑された者達や、ティッキンケムで長きに渡り幽閉されていた者達の失われた時間に対する責任を中央が取ってくれるかと言ったら、間違いなく取らないだろう。


 ただし、中央は洗礼に異を唱える者を、死罪にすることも含めた重罪に処している。


 ゴダとて中央貴族。それも名門の有力な家柄で、一族を人質として白都はくとに残してきている。無論中央には逆らえない。


 ただし、西支部が中央と同等のレベルで強硬な手段には出られない。それをすると弱い西支部は分解して機能不全になる。それはそれで西支部長であるゴダの評価に関わる。できる限り穏便に中央に賛同し、洗礼を遂行できればそれでよい。


「それでは、金貨二十万、いかほどで用意できる?」


「すぐにでも」


「おお、それは心強い」


「細かい段取りとラチェルへの金貨の護送はオボン中級司令官の部隊に担当させる」


「そのぐらいはこっちでやりますよ?」


「いや、そちらの手は煩わせん。一旦中央に金を集める。こっちから出す四十万と合わせてラチェルに運ぶ」


「かしこまりました」







 西支部は金貨二十万枚を拠出し、オボン中級司令官の部隊に託した。


 オボンがルテルに引き返して数日後、ブロテスが再びスフィリーナにやってきた。




「ミラハが是非貴殿に会いたいと言ってきている」


「ええっ!? ミラハ殿が私に?」


 驚いて思わず目を丸くするゴダ。


「ああ、そうだ」


「私あの人に物凄く嫌われてますけど、そんなことが現実にあり得ますか?」


「と言うか、貴殿は他三人の支部長全員から嫌われている」


 ブロテスが現実を突きつける。


「そうですが、あの御仁からは特に」


「冬の終わりにラチェルで中央と南支部とで会談を行うことになった」


「ほう?」


「中央への恭順を内外に示す場とするのだ。ラチェルの市民にも見せつける。その場に是非、最初から中央への賛同を貫いていた貴殿にも来てほしいと」


「なるほど」


「中央・南・西の連携を見せ、共同で中央への忠誠を誓う声明も出す」


「ほう、それはいい!」


 面白そうな話だ。


「貴殿が思っている以上に、貴殿の影響力というのは強いのだ」


「いえいえ、そんなことは。全てはブロテス殿のお力あってのことでございます」


 とってつけたようなブロテスの世辞に、ゴダは謙遜しつつも内心調子付き、ウキウキしながらワインを一杯飲む。美味い酒だ。


「当然、中央からの代表者は私ということになる。三者会談の日取りは冬の90日とした」


「90日!? レベリアの祭りの五日前ですか?」


 ゴダはソファーに深く体を預け、腕を組んだ。


「いかにも。それに合わせたのだ。大々的に声明をぶち上げ、お祭りムードの東に冷や水をぶっかける」


 ブロテスが人の悪そうな下品な笑顔で言った。人の不幸を楽しむ笑顔だ。


 南が会談を行い、中央や西と共同声明を発表し、中立から親中央に転じる。


 すぐに各支部や中央で早馬が走り、情報が白軍の各支部の上層部に知れ渡る。


 そして、民の間でも噂が走り、白女神教の巡礼者が行く先々で話を広める。


 五日あれば、冬の月95日から100日にかけて開催される東の準都市レベリアの白女神祭までに市井に情報が浸透する。


 民の間で様々な憶測が流れ、あることないこと話が膨らみ、妙なデマも流れるかもしれない。


「そのタイミングなら東や北への牽制になりましょうな。南に腹をくくらせることもできる。もう今後南は東や北とつるむことはできますまい。まあ、水面下でやられないように『目』は忍ばせにゃならんでしょうが」


 ゴダが感心しつつ言う。


「そんなことはどうでもいい」


「えっ?」


「ただ私の個人的な楽しみというだけだ。東の連中が困るところを見たいのだ」


「なるほど」


 確かに、白女神祭を直前に控える東支部への嫌がらせにはうってつけだろう。


「貴殿の予定はどうだ」


「ああ、全然大丈夫ですよ。私暇なんで! ダーッハッハッハッハ!」


 ゴダが豪快に笑う。


 ブロテスもそんなゴダの様子を見てニヤニヤ笑っていた。







「貴様ぁっ! 黙って聞いてりゃ何だ支部長に向かってその口の利き方は! クビにするぞクビに! クビクビクビクビクビィ~ッ! エヘン! エヘンッ!」


「お好きにどうぞ。それで支部が回るならば」


「ぐぬぬぬぬぬ……! くっそぉ~っ、生意気な……生……ふぇ、ハ、ハ、ハーックション!」


「風邪ですか?」


「まあ季節の変わり目だもんなあ」


 ゴダは胸ポケットからハンカチを取り出し、思いっきり鼻をかむ音を支部長室の中に轟かせた。


 サードはこの会談そのものをかなり疑いの目で見ており、今からでも参加を断った方がいいと言ってきた。


 曰く、あくまで洗礼は中央の主導・責任で進めるべき。西が責任の一端を担ぐような行動は慎むべき。洗礼が他支部で進まない責任をこちらに転嫁されかねない。


 曰く、西は洗礼は受け容れるとしても、あくまで粛々と中央の命令を実施する立場というだけである。西支部が表立って他の支部に洗礼を奨励するような行動を取るのは話が違う。


 曰く、ブロテス上級司令官如きが白軍屈指の女傑であるミラハ支部長を調略できたとは非常に考えにくい。端的に言うとそんな馬鹿な話はあり得ない。


 曰く、何か全体的に、どうにも胡散臭い。何か裏があるか、そうでなければブロテスの現実認識能力にとんでもない瑕疵かしがあるか。何かよく分からんが、とりあえず首を突っ込むべきではない。


 曰く、サードは中央にいた随分昔から、ブロテスがどういう人間かを良く知っているが、どう考えても南支部を洗礼推進派に転換させるような力も知恵もカリスマもないし、白軍でそこまで積極的に張り切って頑張ろうとするタイプの人間でもない。


 曰く、そもそも中央だって馬鹿じゃないんだから、ブロテスみたいなアホにそんな大役を任せるはずがない。


 曰く、ミラハ支部長は金を積まれて兵を洗礼に差し出すような人物ではない。ブロテスの言っていることは信じられない。


 曰く、ゴダがやる気を出して色々やり始めると、大抵ろくな結果にならない。もう余計なことせず大人しく支部長室に座っといて下さい。


 曰く、この前の金貨二十万も、体よくタカられてるのではないか?


 曰く、金を一旦白都に集めるって、中抜きされてるんじゃないか?


 曰く、ネリドルやルベール参事官、アムラン統括官辺りも『何か話が都合よく出来過ぎてる。大丈夫かな?』と訝っていた。


 曰く、何かもう色々と意味不明でおかしい。とりあえずやめといた方がいい。


「うるさいうるさいうるさーい! このゴダが歴史に名を残すのだ!」


 結局、ゴダはサードの諫言より、大手柄を得る一大チャンスと、南支部に恩を売ることを選択した。


「サードよ、指をくわえて見ているがいい。お前に政治的決着ってもんを見せて……っておい! 誰が下がってよいと言ったか! 待てコラ!」







 冬の月90日。会談当日。


 西支部と中央の代表者の一団は、護衛の兵を引き連れラチェルの目前まで来ていた。


 西からの代表者はゴダとネリドル。そしてカゼッタ。


 それら代表者の乗る馬車を護衛するのは、最強の双子・エールとアールに率いられた(兄のアールは証持ちだが)、ゴダ直属の護衛兵団十数名。


 サードは会談云々の話以前に、そもそも洗礼に賛同していないので不参加である。ただし、監視役として副官のカゼッタをねじ込んできた。


 ゴダやネリドルが会談の場で余計な約束をしないようにと目を光らせるための、サードのせめてもの措置であった。


 ゴダにとっては大きなお世話であった。


 いよいよラチェルの北側の門が視野に入ったそのとき。


 一団の馬車の元へ数匹の馬が走ってくる。


 オボン中級司令官とその部下達数名だ。オボン中級司令官はブロテスの副官であり、腰巾着だ。


 中央の馬車が止まる。


「止まれ」


 ゴダもすぐに自分が乗る馬車の御者に命じ、馬車から飛び降りた。


 護衛のエールとアールも後を追い、やや遅れてネリドルやカゼッタも続く。


 ゴダはオボン率いる早馬や中央の馬車の元へ走り、馬車の中を覗き見る。


「ブロテス殿! 火急の要件です! 至急中央へお戻り下さい!」


 手綱を握るオボンは鬼気迫る様子で馬車の中のブロテスや、オボンと同じ腰巾着のオヒガン中級司令官に言った。


「何だと!? これから南との会談を控えているのだぞ」


 オヒガンが驚いた様子でオボンに言い返しつつ、ブロテスに視線を流した。


「構いません。これは最優先命令です! 中央が問題解決にブロテス殿のお力を必要としております!」


 オボンはオヒガンに構わず、ブロテスに訴えかけた。


「何があったのだ!」


 ブロテスがすぐに馬車から降りると、オボンも下馬し、ブロテスの耳の側で小声で何やら言葉を交わす。


 すると、ブロテスが幾度か力強くうなずいた。


「何とっ!? それは大変だ! 分かった! 直ちに戻る!」


 オボンが馬に乗り直すと、その後ろにブロテスが乗る。


「オヒガンお前も来い!」


「ハッ!」


 ブロテスの呼びかけに応じて、すぐにオヒガンが馬車から降り、他の馬に乗る伝令兵の後ろに同乗した。


「ブ、ブロテス上級司令官殿!?」


 ゴダは呆気に取られてブロテスの名を呼ぶことしかできない。


「ゴダ支部長! そういうことだがすまん! 会談は貴殿に任す! 全て話の道筋はつけているから会談自体は筋書通りの茶番だ! 貴殿の手柄とせよ!」


 馬上からブロテスが言う。


「ハッ! このゴダにお任せ下さい!」


 大きな声でハキハキと即答するゴダ。


 ネリドルとカゼッタは怪訝な顔でブロテスとゴダを交互に見遣る。


「ではさらばだ! 馬を出せオボン!」


「ハッ!」


 オボンや他の伝令兵達が手綱を引くと、馬達が一斉にいなないた。


 ブロテスとオヒガンを乗せた早馬の一団は、蹄の音を響かせラチェルの門前から去って行った。







「そこの馬車! 止まれ!」


 北門に差しかかると、御者の目の前で突然衛兵の長槍が二本交差する。


 まるで不審者をせき止めるような振る舞いだ。


 当然代表者の馬車がこの時間に北門から入ることは南支部側も分かっているはずだ。


 門番にそのことが伝わっていないはずがない。


「んん~?」


 ゴダが不思議に思い首を傾げ、馬車の窓から顔を出す。


「ようこそ。案内役を務めるナバと申します」


 門番達の中から一人、名乗り出てくる者。


 随分と若い少年だった。ゴダはてっきり高官が出迎えると思っていたが、目の前の兵士はどう見ても白軍学校を卒業したばかりの新兵のように見えた。


「君が案内役?」


 ネリドルが驚いた様子で問うが、ナバと名乗った少年兵士はその問いかけを無視して自分の話を続けた。


「あ、馬車の軍旗や軍章、全部外すか隠してもらっていいッスか? 西の奴らがラチェルに来てるって知られると迷惑なんで。それと、中に入ったら一切馬車から顔出さないで下さいね。見られるとマズいんで」


「どういうことだ?」


 ゴダが問う。


「いいからまず、早いとこしまってもらえます? 話はそれから」


「あ、ああ……。おい」


 仕方がないので、ゴダは取りあえず一団の兵達に命じて、西支部を示す琥珀色の軍旗や軍章を馬車の中に隠させた。


「はい。馬車はこっちで引きますんで御者さんも中入って。さあ、さあ! 入った入った!」


 ナバが馬車の御者を務める兵を強引に下馬させ、馬車の中に突き飛ばした。


「お、おい! 無礼ではないか!」


 ネリドルやエールが馬車から降りてナバに詰め寄る。


「はい、あんたらも大きな声出さなーい。見られない内に入った入った!」


 彼らも南の門番達に背中を押され、すぐ馬車の中に戻された。


 最後にナバ自身が馬車に入ると、門が開いた。


 馬車は無理矢理御者を交代した南の兵の手によって準都市ラチェルの中央通りへと進んでいく。


「貴様、見たところ新人のようだが、私を誰だと思っている。無礼ではないか」


 怒鳴りつけてやりたいところだが、この後ミラハとの会談が控えている。


 ゴダにとっては不本意極まりないが、とりあえず南支部側のリクエストに沿う形で小声でナバに抗議する。


「もちろん知ってますよ。西の支部長さんでしょ?」


「だったらなぜ」


「俺はただ上の命令に従ってるだけなんで。文句あるならミラハ支部長に言って下さい」


 ナバがそっけなく言う。


 もうこいつに何を話しても無駄だ。ゴダは直感的にそう感じ、黙った。


「しっかしまあ、無謀と言うか何と言うか……。まさかマジで来るとは思いませんでした」


 ナバがおもむろ言う。


「えっ?」


 ゴダが聞き返す。言っている意味がよく分からない。


「あの文面から、遠回しにお断りしてるって、伝わりませんでした? それでよくあんな大金出せますよね。いいなー、西はお金持ちで! まあ? くれるっつうんならもらっときますが。いいよなあ、そんなことに金をジャブジャブ使える余裕があって」


 ナバの口から、チクチクと棘のある嫌味がどんどん噴き出してくる。


『あの文面』とは一体何のことを言っているのか。そもそもミラハの方からゴダに会いたいと依頼してきたのだ。こちらはミラハの要請に応じ、招かれてこのラチェルに来ているのだ。


 やはり、このナバという新兵、別件の客人と混同しているのではないだろうか。


「おい、誰と勘違いしてるんだ。私は西支部長のゴダだ。お前んとこのボス、一番偉い人と大事な話をしに来たんだよ。お前やっぱ分かっとらんだろ。入って一年目かお前?」


 再びゴダが確認する。


「分かってますよ。分かって言ってんですよこっちは。ま、どうしてもって言うなら、会ってみりゃいいんじゃないッスか? 頑張って下さい。無駄だと思いますけど」


 ナバが言う。


「お前それ以上喋るな。これ以上支部長を愚弄するなら斬る」


 エールが腰の鞘に手を伸ばす。


「いいけど、俺アンタより強いですよ?」


 ナバも応じて、腰の鞘に手を伸ばそうとする。


「よせ!」


 ゴダがエールを押さえ、カゼッタが両者の間に割って入る。狭い馬車が揺れる。


「エール君。今はやめよう。ミラハ支部長に聞こう」


 ネリドルがエールに言う。


 ネリドルは先ほどからずっと、しかめっ面で腕を組み、脚を組んで座っているままだ。


 エールは殺意を帯びた目でナバを見ながらも、とりあえずは大人しくなった。


「……一つだけ聞きたい」


 カゼッタが口を開いた。


「なんすか?」


「ミラハ支部長から申し込んだのではなかったのか」


「いやいやいやいや、あり得ないでしょ。そっちはどうなってんですか一体」


 ナバが呆れたように言った。


 そうこうしている内に、馬車は南支部の敷地内に到着した。


 ゴダは凄まじく嫌な予感がした。

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