第128話
まえがき
TSさせたらめっちゃ反応よくて笑っちゃった
「呼び出して申し訳ありません」
「気にすることはないよ。ちょうど暇してたところさ」
朝から霞ちゃんもどっか行ったし会議も昨日の時点で終わった。
現時点で僕がやるべきことは警戒態勢を保つことだ。
いつでも出動できるように備えている所に忠光くんからの呼び出しだ。応えない理由がなかった。
それに気を遣って呼んでくれたに違いない。
今回の案件は
「紫雨くんは結局どういう扱いに決めたのかな」
「原則として一人での行動は許さず、最低でも一級探索者相当の実力者が必ず随伴することで着地しました」
「そのくらいは配慮しなきゃダメか」
「ダメですね。彼女の自己申告ですが、人類に対する殺害衝動が残っているのは危うすぎる」
そうなのだ。
雨宮紫雨は理性を保っている僕と同じタイプだと思っていたが、実は彼女は『殺害衝動』を抱えていたのだ。
人類に対する殺害衝動。
これは僕も持ち合わせているもので、エリート個体……いや違うな。モンスターには基本的に備わってるものなんだと思う。リッチの適合がもっと進めば無視できない影響が出てくる筈だ。軽視してると気を抜いた瞬間に襲ってきてナチュラルに思考誘導されるので、これが厄介極まりない。
本人がどれだけ気をつけていても来る事があるんだから、外部から誰かが抑えるしかない──合理的だね。
問題があるとすれば、一級相当の人員を遊ばせていく余裕がこの国にはないって事。
そして一級相当の実力があると認められている奴がちょうどここにいるってことだ。
「一応聞いておくんだけど、随伴する一級相当ってのは誰が該当するんだ?」
「はは、聞きますか?」
「一応ね、一応」
「皆さんご存知、
「だよねぇ」
そんな事だろうなとは察していたけど、まあやっぱりそうかぁ……
いやね、彼女を見守るのに文句はないんだよ?
僕と紫雨は同じ種族、リッチの能力を有していてノウハウを教わるのにも都合がいいし実力的にも一級中位くらいは保証されてる。手元にいれば暴走しても無力化出来る可能性が高まり被害を抑えられる確率も増えて良い事尽くしだ。
それじゃあどうしてお前は躊躇ってるんだと思うだろう。
紫雨くんは霞ちゃんの姉だ。
それが一番の問題でありネックなのだ。
いや、弱みになるようなことじゃあない。
単に気持ちの問題ではあるんだけど、それがまた……なんと言えばいいか。
このまま彼女を受け入れてこれまで通りの活動を続けていくと、僕はハーレムクソジジイだし姉妹の間に入る間男だし百合の間に入り込む男だし想い人がいる癖に女を侍らすクソ野郎になってしまう。
いやすでに前述の半分くらいは当てはまってるのだ。
これ以上罪を重ねて香織に嫌われないだろうか?
霞ちゃん関連で誤解を招き危うく彼女を闇堕ちさせる所だったのに、これに加えて、さらにもう一人女性を仲間に加えて『このクソ男女好き極めてるな』と思われないだろうか?
もしそんな印象を抱かれてしまったら僕も闇堕ちせざるを得ない。
そんな風に無駄な心配をする僕を見て、忠光くんは笑いながら言う。
「奥方様に怒られてしまいますか」
「奥……あのなあ、結婚どころか付き合ってすらいないって言ってるだろ」
「ご冗談を。……え? 本当に?」
「本当さ」
頼光爺め。
次会った時は一発入れてやらないと気が済まない。
会いにいく理由がまた一つ増えてしまった。
「それは、……父も喜びますね」
「命日になるかもしれないなぁ」
「殺しても死なないのが父なので、存分に友情を深め合っていただければよろしい」
「もし死んだら蘇らせて自分の喪に服させてやるさ」
──流石にやらないけど。
たわいのない会話をしている内に、目的地に到着した。
まあ、ここは簡単に言えば冷凍庫だ。
緊急時の避難所件対策本部も兼ねているので、各地の迷宮省には食材だったり資材だったりが補完されていて、ここはその中の一室だ。
腐らせてはいけない物を保存する氷室だと言えばいいか。
要するに、僕にとっての大切な人が眠っている部屋だ。
「こちら鍵になります。部屋を出た後戻していただければ」
「ん、ありがとう。助かるよ」
「お気になさらず。父の、娘の、そして国の受けた恩はこの程度では返しきれませんから。それと中には監視カメラを取り付けてありますが、これから勇人さんが出てくるまではオフに切り替えますので」
「そこまでしてもらうのはありがたいけど、大丈夫?」
「この程度握りつぶします」
「頼もしいなぁ」
鍵を受け取って扉の中に入る。
すぐにひんやりとした空気が──いや、これはひんやりという次元ではない。
流石に冷凍庫と呼ばれるだけあって気温で表せば氷点下。
これだけ冷えてれば死体も腐りにくいだろう。
一緒に入ってもらったスケルトンくんは無事かな。
「お、居た。スケルトンくん、お待たせ」
佇むスケルトンに声をかかれば、すぐにカタリと音を鳴らした。
この一角に入ってこない限り戦闘行為を行うなと命じておいたけど何事もなかったようだ。職員の方々には迷惑をかけて申し訳ないけど、守ってくれて助かった。
そしてその隣で横たわる人間に視線を向ければ、そこには真っ青で生気のない顔色をし目を瞑ったままの香織が居た。
「……あらら。冷え冷えだな」
当たり前のことを呟きながら彼女の頬に人差し指で触れる。
もう動くことはない死体。
朽ちていくのを、腐していくのを見ていくことしか出来なかった筈なのに、彼女は生きている。僕の魔力で香織は蘇るのだ。
五十年前じゃ考えられなかった奇跡だ。
いや、今でも考えられない奇跡だな。
単にとてつもない程運に恵まれているだけだ。
手のひらを広げて、頬に手のひら全体で触れる。
そのまま魔力を送り込む。
これは蘇生する用ではなく彼女の身体を温める用だ。
流石に不死者と言えども寒いものは寒いし暑いのは暑いからね。目覚めていきなり身体中の水分が凍ってました、となってしまうと動けなくなってしまうかもしれない。
パキ、パキパキ……と音を立てて削れていく氷。
ん……大体人肌くらいの温度になった。
冷蔵庫内の一部だけが温まってる状態だから、全体に影響はない。
かといって長居して良いとも思わないし、早めに退散するべきかな。
今度は頬ではなく、温まった手を握る。
彼女が眠る寸前に言った言葉を思い出す。
『私はな、幸せなんだ』。
君はそう言ったよな。
そして僕に愛する男だとも言った。
男気溢れる、彼女らしくない直接的な告白だった。
ああ、いや。
ある意味では香織らしいか。
追い詰められたり余裕がなくなった時、君はいつもそうだった。迂遠で遠回りな言い方を避けて、出来るだけ簡潔に伝えようとしていたな。
僕も答えるべきだろうか。
……考えるまでもないな。
じんわりと魔力を浸透させていく。
香織の肉体にただ魔力を込めるんじゃなく、臓腑を再度動かすように、以前霞ちゃんにやったように流し込んでいく。
しばらくそうしていれば肌の色は良くなってくる。
傷は元々ないから判断しにくいけど、間違いない。
香織の蘇生に成功した。
「……ん…………」
ぼんやりと、そしてゆっくりと目を見開いていく。
嬉しさで手を強く握りそうになるのを必死に抑えながら、そして、喉が震えないように感情を堪えながら、僕は誠意いっぱいの歓喜を込めた言葉を吐く。
「お目覚めかい、お姫様」
「…………言うようになったな、勇者さま」
「君のおかげさ。わるーい姫に誑かされてね」
手を引いて、身を起こすのを手助けする。
同じ高さに目線を合わせるために片膝ついて気障な体勢で手を握ったまま、目と目を合わせて互いに言った。
「
「
────カタカタと、スケルトンが動いた……ような気がした。
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