第111話
姉妹の感動の再会────ということで、たっぷり時間を与えたいんだけども。
もちろんそんな余裕はない。
状況は想定していたよりも良かったがどう転ぶか予測不可。
なにより、魔力で強制的に遮っているとは言え、これがいつまでも持つとは考えてない。それこそあと数秒で破られてもおかしくない。
「九十九ちゃん! 回収して撤退!」
「はいっ!」
「加減はするな!
「──っ、はい!!」
彼女が一人抜けるのは痛手だが、雨宮姉が無傷で手に入る上に霞ちゃんも問題なく戻せる。これ以上ない成果。仮にここで僕がくたばったとしても、雨宮姉が人類側に移れば最悪は免れる。
「では失礼します!」
「ぐえっ!!」
「あっ」
躊躇のない全力タックルを背後からモロに喰らい女の子らしくない声を上げながら霞ちゃんは腕に抱えられた。
……死んでないからヨシだ!
非常事態だし彼女の傷なら簡単に治せる。
問題ない。
後で治すから我慢してくれ、霞ちゃん。
大丈夫、君は強い子だから。
「雨宮紫雨! 詳しい話は上で聞け!」
「──……わかった。気を付けて、底の見えない奴がいる」
「情報どうも。後は任せろ」
九十九ちゃんに抱きかかえられて即座に離脱した三人を見送る。
……今回、最低限の目標はクリアした。
もしも上で彼女が暴れた場合は、控えている二級探索者達と九十九ちゃんが足止めを行う手筈になっている。緊急時が故に戦力が足りてないが、一応関西から不知火くんを引っ張ってきているらしい。
僕らが潜った時はまだ到着してなかった。
今頃空の旅の真っ最中だろう。
いくら不知火君でも海の上を走ったりは……しないよね?
なのでまあ上の備えも最悪なんとかなる。
なんとかならなかったら……
────ザンッ!!!!
金属音でもない鋭利で甲高い音がダンジョンに響く。
その音は正面の魔力壁から発生しており、続けて数度、ザンッ、ザザザンッ!! と鳴ると、魔力壁がボロボロと打ち崩れていった。
速いな。
それに鋭い。
先日の獣人型の比じゃないね。これが彼女の言っていた底知れない相手か?
「──いや、いや。なるほど、そういう事だったか。ようやく見通せたぞ」
壁の向こうから姿を現すのは全身鎧に身を包んだ漆黒の騎士。
魔力は……想定より多い。
五十年前に相手した連中と遜色ない。
警戒を一段引き上げながら、情報を探る。
「へぇ、何を見通せたんだい? 今日僕らがここに来たのは偶然だし、君みたいな化け物がいるとは考えてなかったんだが?」
「元より、全て上手く行くとは考えていなかった。だがお前のようなイレギュラーが居たのだから、もっと底を想像しておくべきだった。それが俺達の失敗だ」
答えになってない。
独り言だ。
だが僕らの事を認識してない訳ではない。
奴は今自分の中で情報を整理している最中って事だな。
そうなると仕掛けたいが……
無理だな。
こいつは思考をしながら戦闘態勢を維持してる。
生半な相手じゃない。
瀬名ちゃんには任せられない。
もう一体は前回遭遇したうちの一体だろうから、九十九ちゃんが戻り次第か──待てよ。
高宮、だったか。
彼を元にしたあのエリートには空間移動の能力があった。
この魔力の壁だって超えられた筈だ。
なぜ仕掛けてこない?
…………そっちか?
泳がされていた?
考えれば確かに都合が合わない。
リッチの能力を持つ貴重な戦力をわざわざこの地に呼び寄せた理由は?
それはわからない。
だが今優先するべきは──
「瀬名ちゃん」
「はい」
「何も聞かず、黙って僕に従える?」
「なんなりと」
騎士風のエリートに聞こえないよう小声で話しかけ、承諾を得たので彼女の背中に手を当て膝を抱える。
「ひゃっ! ……あ、あの?」
「ごめん。僕の想定が甘かった。今から上に投げ飛ばすから、彼女らの護衛をしてくれ。戻らなくていいと九十九ちゃんにも伝えてね」
「……勇人さん、何を」
「頼んだよ」
「ゆっ────」
そのまま、有無を言わさず彼女を上へとぶん投げる。
かなり速度が出てるけど瀬名ちゃんなら大丈夫だろう。
これで彼女らが巻き込まれることもない。
魔力のレーダーを再度展開すると、やはりと言うべきか、さっきまで居たエリートは移動していた。
そう、九十九ちゃん達の元に。
だが、全てを読んでいた訳じゃないだろう。
もしそうならわざわざ彼女を一度僕らの手元に渡さない。
もっと露骨に罠に嵌める。
そうなると……これは、あの男が最善手を打っただけかな。
「さて。良かったの? 放置してさ」
「む? ああ、別に構わん。我ら……いや、違う。
「ふぅん……俺達ってのは、君みたいな少し外れた奴らの事?」
「それはお前達が確かめればいい」
残念、吐かないか。
まあ、別にそれはいい。
寧ろこれだけで十分な情報をくれた。
連中──僕ら人類を元にしたエリートたちの事か?
この騎士からは彼らと比べ物にならない魔力を感じる。
間違いなく強い。
五十年前のエリートと戦う感覚で居た方がいい。
仲間はなし。
敵は強い。
ここを抜かれればまた人類は後退するだろうね。
だが今は前と違う。
僕には守るべきものがある。
そして、守るべきものは、ただ守られるだけじゃなくなった。
彼ら彼女らは自分達の足で立てるようになった。
不安はない。
剣を握る。
僕の作った武器の中で最高傑作と言えるそれを見て、そして騎士もまた、背負った武器を抜いた。
「こんな立場で言うのもなんだが……名乗っておこう。俺はデュラハン。仲間達には黒騎士と呼ばれている」
「僕は勇人。前の戦いで勇者なんて呼ばれ方をしたこともある、混じりものだ」
デュラハン──黒騎士は、嬉しそうに叫ぶ。
「勇者……ククッ、勇者か。
ここでも?
何が言いたい。
聞き逃せない単語ばかり吐き散らしていく。
だが、いつまでもそれに気を向けていられない。
この相手は、黒騎士は────間違いなく強者なのだから。
「行くぞ、勇者よ!」
漆黒の魔力と共に瘴気を溢れさせ、剣に漆黒を滲ませた黒騎士は高らかに謳い上げた。
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