第110話

本日諸事情により短めです









「────む」


 私に死者の扱いをレクチャーしていたデュラハンが怪訝な声を出して動きを止めた。

 なにかと思い尋ねようとして、気がつく。


「……来たか」


 来た。

 魔力が伝播していった。

 上から下に、円を描くように可視化されない程度の薄い魔力が。以前一度浴びた記憶のあるそれは、私達の存在を魔力の持ち主に認知させるためのもの。


 ──来た。

 今このタイミングで……来てしまった。


(なんて間の悪い……!)


 想定していた中で最悪に近い引き。


 理想はこのデュラハンともう一人の同僚が去ってからやってくる事で、次点で地上で繋がりの切れた香織が迎えに来ること。モンスター側の重要人物であろうデュラハンが居て、その指導を受けている今だけは来てほしくなかった。


 歯噛みする雨宮紫雨を尻目に、デュラハンは天井を見つめながら一人呟く。


鯨王・・の率いる軍勢を殺し尽くしただけはある。これだけの魔力波を放てる者は中々お目にかかれんぞ」

「……魔力波?」

「薄く魔力を放ち、障害物や魔力反応によって索敵する基本技だ。これはな、面白い事だぞリッチよ」

「面白い事……そうなの」

「ああ。違う文明・・・・であっても魔力技術は同じ発展を遂げるらしい」


(違う文明……? 待って。何か、大事な事を言ってるような気がする)


「一つ聞いていいかしら?」

「なんだ」

「その違う文明ってどういう──」


 愉快だと言いたげな口調で話すデュラハンの言葉をなんとか噛み砕こうと思考を巡らせながら、紫雨は続きを促そうとした。


 ────刹那、奔る閃光の奔流。


 紫雨とデュラハンを分断するように、そしてデュラハンと高宮を分断するようにそれは放たれた。

 ダンジョンを焼き消し穴を作り出す高出力の魔力。

 それは途切れず放たれており、合流を許さない。


「…………」


 ──チャンスか、ピンチか。

 紫雨は一度瞑目し考える。

 デュラハン曰く、あの魔力は自分達の位置を特定するためのもの。つまり補足されていて、その上で分断を狙ったと言うことは狙いは絞れる。


(各個撃破。これでしょうね)


 となれば次の一手は……


 ──ズガアッ!!!!


 天井を打ち砕く轟音と共に数人雪崩れ込んでくる。


 反射的に従僕のスケルトンを生み出し構えた。

 最低を想定する癖は彼女が生きた時代によるものだ。現代より十年前は未だ情勢は安定しておらず、ダンジョンに潜るのは今よりも危険だった。

 配信や魔力に対する研究も不十分、ダンジョンで死ぬことはそれすなわち行方不明で処理される事を意味する。

 運良く誰かに発見されるなら幸運だった。

 ゆえに彼女は最低を考える。

 己の身に降りかかる最大限の不幸を。


(鬼と出るか、蛇と出るか)


 魔力を漲らせ待ち構えた。

 砂塵の中で動く四つの魔力。

 その中の一つ、最も莫大な魔力を持った影が動いた。


「──ん、なるほど。当たりを引いたね」


 砂塵の中から現れた一人の男。

 先日関東にて戦闘を交え、紫雨が蘇生してしまった土御門香織の友人であり、かつて世界を救った勇者。


 勇人と視線を交えた刹那、彼女は悟る。


(……格が、違いすぎる…………)


 魔力総量。

 そして制御力。

 出力に至っても、全てリッチである紫雨を凌駕していた。


「君が雨宮紫雨で間違いない?」

「……なんでそれを」

「時間がないから手短に。彼女はこちらで保護した」

「……!」


 目を見開く紫雨。

 それを見て、勇人は間に合った事を確信する。

 分断するうち一体に絞り、それが敵だった場合は九十九に任せる。勇人が知る魔力反応は二つで、片方が雨宮紫雨だと賭けたのだ。


 そして彼らは賭けに勝った。


「瀬名ちゃん、霞ちゃん!」

「はっ!」

「はい!」


 勇人の後ろから二人の女性が歩み出る。


 その二人を見て、紫雨は思わず身を硬直させた。


「は、……え? なんで」

「……久しぶり、お姉ちゃん」



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