第49話
勇人@Yuto2008
前に話していたQ&Aで使う質問を募集します。
今日の20時まで、過激な内容はコメントしないようにお願いします。
やったら容赦なく消してくからよろしくね。
⟳51232 ♡156242
⤷好きな食べ物はなんですか?
⤷奥さんはいましたか?
⤷戦った中で一番強かった敵を教えてください
⤷有馬頼光さんは昔から強かったですか?
⤷必殺技はありますか!?
⤷どうやったらそんなに強くなれますか
⤷尊敬してます
⤷強くなるアドバイスください!
⤷エリート? の種類を教えてください。
⤷投げ銭させてください このお金で美味しい物食べてください
「質問ではないのがあるなぁ……」
壁に凭れ掛かりながら、小型タブレット端末を弄る。
SNSやら何やらを教えてもらいつつ、自分でも感触を知りたいのでそれを確かめるついでに電子機器──魔力を変換しているから間違っているかもしれない──の直感操作を鍛えるために必要な事だ。
ポポポポポとやかましい通知音と共に怒涛の勢いで張り付けられていく質問を眺め、その中で答えてもいい、答えた方が美味しいと思ったものを絞っていく。
ただ敵を殺すだけで許されるならこんなことはしなかったが、探索者の一人として特権を貰ったのだからこれくらいはやらないとね。興味を持ってくれた人たちに少しくらいサービスしなくちゃ。
そんな風に時間を使っていると、オートロックで閉まっていた扉の向こうから、エントランスへと誰かがやってくる。
「ふぅ、お待たせしましたっ」
「おかえり。それ持つよ」
「いいですよこれくらい。全然余裕です!」
荷物を整理し終えた霞ちゃんが、キャリーケースに諸々の衣服等を詰め込んで戻って来た。
今の彼女はおしゃれな私服に身を包んでいて、これも着替えてきたものだ。
「かわいいね。似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます……」
「髪色と合わせて映えてる。ファッションセンス抜群だ」
「……わざとやってます?」
「思っても無い事は言わないさ」
「もうっ。私だからいいですけど、他の子にそういうこと言ったらダメですよ?」
霞ちゃんも若干耐性が付いて来たのか、嬉しそうに頬を緩めながら言った。
「勿論。
そう言いながらキャリーを引いていた手を掴んで、僕が荷物を手にする。
「こっ、この、女誑し……」
「はっはっは、これくらいで動揺してたら配信に耐えれないぜ?」
霞ちゃんとも話し合ったけど、僕らは配信をあのスタイルで進める事にした。
70歳を優に超えているジジイとしては非常に心苦しい決断だった。何が悲しくて有馬くんのように同世代の男がおじいさんになっているのに、一人だけ若者との男女関係を利用した人気稼ぎをしなければならないのかと嘆きたくなる。
だけどまあ、霞ちゃん的には悪くないっぽいし、晴信ちゃんもそれがいいとのお墨付き。
問題があるとすれば僕が節操無しのロリコンエロ爺だと言われるのが確定する事くらいで、霞ちゃんはそんなつもりが無い事を理解している以上、甘んじて受け入れればそれで終わる。霞ちゃんに被害が及ぶようなら過去と今の僕の状況を全て開示すれば決着もつくだろうし、悪い手ではないからね。
あと課題があるとすれば、霞ちゃんが異性に対する耐性が無さ過ぎること。
晴信ちゃんと霞ちゃんが交互に『言われると照れる台詞』を提示しそれを相手に言っていく遊びを昨日させられたが、霞ちゃんの全敗である。
普段からクールで冷静な実力派と評され、そういう部分がウケていた彼女がこの様ではいけないと危惧した晴信ちゃんにより霞ちゃんの異性耐性を積み上げるための訓練が、昨日の夜から始まったのだ。
……始まったのだが…………
「ふぅー……平常心平常心、これは全部お世辞お世辞お世辞社交辞令社交辞令……」
霞ちゃんは髪を手で抑えるように撫でながら、ブツブツ唱えている。
おかしいな。
僕の感情は彼女に伝わっている筈なんだけど。
間違いなく本音だし、嘘偽りは何一つ申してないんだが……
「……僕は昔、何回か女性関係でやらかした事があってね」
「え゛」
「それ以来、正直に思ったまま言う事にしてる。それで大事故が起きた事も無いし、度々怒られてるけど、僕はそんなに器用じゃないんだ。言ったろ? 戦う以外はポンコツだって」
再三恥を晒して申し訳ないけれど、それが僕だ。
戦う事以外に何も出来ない無力な存在。
こんな世でなければきっと、誰かの役に立てる事も無かっただろう。
僕が役に立てる時は、誰かが不幸に包まれていると言う事に違いなく、プラマイで言えばきっとマイナスだ。
間違いない。
「だから、僕が言ってる事は大体本当の事だと思ってくれないと困るね。事実君は可愛いし、魅力的だと思ってる。これは客観的事実であり僕の主観に基づいたものではないから、きっと説得力が──」
「わかった! わかりました! もういいから! 行きましょ、ね!?」
む。
変に誤魔化して慣れるより言われても素直に受け取れるようになって欲しいだけなんだけどなぁ。誤魔化しに慣れると、どんどん心が固まっていく。思い込みが激しくなると言い換えてもいいが、それは明確にデメリットだ。
言われたことくらい素直に受け止めた方がいい。
それはお前もだろと言われると少々苦しいが、僕は受け止める振りは出来るからね。
そこんところ彼女よりも経験を積んだ大人なのさ。
その際漏れだす感情と霞ちゃんにバレバレだという事実には目を瞑っておく。都合の良い事だけ見て都合の悪い事から目を逸らすのをあれほど嫌悪していた筈なのになぁ……
汚い大人になってしまった。
「はぁ……心臓が何個あっても足りないって」
「それは困ったねぇ」
「誰のせいだと思ってるのかなっ」
ベシベシと脇腹に軽くチョップを入れてくるあたり、多少は打ち解けて来たね。
昨日散々褒めちぎった甲斐があるというものだ。
「それで霞ちゃん、今日はどこまで行くんだい?」
「んっとね。ここから電車で渋谷の方に行くつもり」
「渋谷か…………」
思わず渋い顔をしてしまった。
渋谷──それは若者の街。
僕の時代では原宿渋谷は若者の街として名を馳せていて、朝昼夜いつ行ってもスケボーに乗ってるちょっとノってる若者が居たりした。
僕は遠巻きにそういう人を見て、『楽しそうだなぁ、僕もあれくらい人と打ち解けられたらなぁ』と羨やみ指をくわえる事しか出来なかった。
くっ……霞ちゃんも
僕のような社会不適合者とは違い、そもそも彼女は世間に受け入れられている。
可愛いし、愛想もいいし、ファッションセンスもある。
なんてことだ……最初から僕とは大違いだ……
「なにショック受けてるんですか……」
「ふふ……裏切り者め」
「何が!?」
「冗談だ」
「わかりにくい冗談やめてください」
暗にセンス無いと罵られてしまったので謝罪をしつつ、先程の話に方向を戻す。
「ごめんごめん。それで、渋谷で服でも買う感じかな」
「はい! あそこなら男性向けもあるので」
「そっか、男性向け……ん? 男性向け?」
霞ちゃんの服は男性向けなのか?
「レディースに決まってるじゃないですか」
「だよねぇ」
彼女はショートパンツを履いている。
これが男向けな訳が無いので、ということはつまり。
「……僕の服?」
「? そうですよ」
「僕、お金ないんだけど」
「それくらい出しますって。四級探索者ってそこそこ高給取りなんだから、心配しなくていいの!」
どうしよう、帰りたくなってきた。
厚意は非常にありがたい。
ただ、服を年下の女の子に買ってもらうと言うのはあまりにも情けなさ過ぎる。
「い、……いやあ、僕は別に、服は大丈夫だよ。ホラ、汚れでないし」
「埃とかで汚れるでしょ」
「……迷宮省で貰った制服とかがあるから…………」
「だーめーでーす。諦めよ?」
「ぐうぅ……!」
ダメだ、勝ち目がない。
魔力を使えば洗えるし乾かせるけど、それをずっとし続けた僕の服はかなり汚れていた。迷宮省でもらった制服が私服の役割を果たしている始末である。
そりゃあ霞ちゃんにも服を買ってやらなくちゃダメだと思われてしまう訳だ。
溜息を吐きたくなるのをぐっと堪えて、手を引く霞ちゃんにされるがままで着いて行くしかなかった。
こんな姿見られたらまた変な噂を立てられてしまうなぁ……
そう危惧する僕を横目に、霞ちゃんは楽しそうに笑った。
「……ふふっ」
「なに笑ってるんだい。僕にとっては死活問題だぜ?」
「いや、なんだかこうしてると、…………」
そう言ってから、霞ちゃんは固まった。
?
「こうしてると……?」
「──…………な、なんでもない。忘れていいから」
髪の隙間から見えた耳は赤く染まっている。
……ふぅん。
まあ、忘れてと言うなら忘れるけども。
霞ちゃんが身に着けるべきは異性に対する耐性の他に、自分の言動で自爆しまくる事も含まれるから意識してもらわなきゃ困る。
なので、僕は無慈悲に言葉を続ける事にした。
「霞ちゃん」
「な、なに?」
「デート、楽しませてもらうよ」
「…………うん……」
事実を言っただけで声を荒げる余裕すらなくなるのだから、まだまだ克服するには時間がかかるなぁと苦笑するのだった。
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