第47話
勇人@Yuto2008
初めまして、勇人です。
これから色々投稿していきます。
たまにアンケートとかQ&Aをやったりするので、良かったらフォローしていってください。
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⤷んほおおおお! 勇人さんきたあああ!
⤷好きです結婚してください。
⤷おかえりなさい!
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⤷おかえりなさい、貴方が守った世界を見て行ってください。
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⤷DMに画像送りました! 良かったら使ってネ♡
⤷リプ欄怖すぎる
⤷とんでもない事になってて草
⤷火消し頑張ってね職員さん
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⤷スクショしとこw
「……えーと、晴信ちゃん」
「なに?」
「いや、僕のタブレットで何してるのかなと思ってさ」
「……戦争?」
「えぇ……」
ダカダカダカダカ。
とてもSNSの設定変更をしているようには見えない速度で画面を力強く叩きながら、彼女は無表情のまま答えた。
「冗談。でも、あんまりよくないものもあるから、先に処理してる」
「別に僕は気にしないぜ? ネット初心者だけど煽り耐性はあるし」
「そういう問題じゃない」
心配してくれるのはありがたいけど、本当に気にしてない。
それくらいで傷ついてちゃあ50年前生きていけなかったからね。誹謗中傷罵詈雑言ドンと来いって感じだ。
「よくない」
しかし晴信ちゃんにはあっさり僕の意見は切り落とされて塵と化した。
彼女、かなり強かだ。
最初の一回挨拶を兼ねた投稿をしてからすぐにタブレットを貸してと言われてそのまま30分、ずっと操作を続けてるので、まあなんとなく察した。本当に気にしないんだけどなぁ……
「霞が気にする」
「……それは確かに」
「……私も気にするよ」
そう言われてしまっては如何する事も出来ない、お手上げだ。
どの道タブレットを取られているし、僕は特に急ぐ用事もない。それなら別の事に時間を費やした方がいいね。
晴信ちゃんと柚子ちゃんに借りた教材を机に広げて、内容に目を通していく。
ダンジョン発生前と発生後では違う事が多すぎる。
魔力が技術として昇華されたのもそうだし、人類圏が変わり過ぎてる。僕が生きてた頃は農業特区なんて無かったし、当然ダンジョン特区なんてものもない。なんとなく予想は出来るけど、知識として身に着けておきたい。
「…………ねえ、勇人さん」
「なんだい?」
ここまで黙っていた霞ちゃんが名前を呼んだ。
目を向けると、そこにはまたもジトっとした目で見ている彼女の姿が。
「なんか……晴と仲良くない?」
「え、そうかな。そう見える?」
「見える……」
怪しい……そんな事を言いながら、霞ちゃんは僕の周りをぐるぐる回った。
誰彼構わず手を付ける男だと思われてないか?
勿論そんな訳はなく、僕は普通に振舞っているに過ぎない。
誰かに好かれようとするのはもう許して欲しい。こういう生き方しか選べなくなっちゃったから。
「う~~~~ん……?」
そして何度か僕と晴信ちゃんを交互に見る。
「別に何もない。勇人さんの事は尊敬してるし、敬語を使うべきだとも思ってる」
「じゃあなんでいつも通りの口調なの?」
「……それがいいって言われたから」
事実だ。
敬われるのはすごく嬉しいけど、日常的に関わる人にそんな一々へりくだった態度で接されるのは少し心苦しいからね。
霞ちゃんにもそう言ってあるし、なんなら皆不知火くんみたいな対応をしてくれないかなとすら思ってる。
「……なんか晴に甘くない?」
「そんなつもりはないけど……」
訝しんでくる霞ちゃんには困ったものだ。
そういう
「…………」
「んっ……なんで無言で頭撫でるんですか!!」
「若いなぁって……」
僕がそういう感情で見てないのはわかってるのに何を心配してるんだか。
「仲が良いね」
「はは、そうだろ?」
「~~~っ……!! もう、知らない! お風呂入ってくる!」
バタン、と扉を閉めてドタバタと去っていった霞ちゃんを見送りながら、それとなく部屋の内装を観察する。
妙に古めかしい──この場合の古めかしいとは、どことなく昭和の時代を彷彿とさせるという意味──内装。
畳や箪笥、背の低い机と座布団。
8畳くらいで、人が何人もいたらちょっと狭く感じる程度。
一人で生活するなら十分すぎる広さで、こんなにいい部屋を貸してもらっていいのかもう一度訊ねる。
「晴信ちゃん」
「なに?」
「本当に寝泊まりしていいのかい?」
そう、この部屋は僕らが宿泊していたホテルではない。
晴信ちゃんが東京で暮らす時に使ってる家、その一室だ。
どうしてこうなったか簡潔に説明すると、霞ちゃんと同じ部屋に寝泊まりしているのがバレた。僕が漏らした訳ではなく、霞ちゃんが普通にポロッと漏らした。あの子の所為にしたくはないが、流石の僕も擁護できなかった。
以下、わかりやすい事情説明。
『そういえば霞、ホテルに寝泊まりしてるって言ってたけど、着替えとかどうしてるのよ』
『え? ……そういえば、どうしよう』
『勇人さんは着替えいらないの?』
『老廃物出なくなっちゃったからねぇ』
『お風呂も入らなくていいの、羨ましいなぁ……なんかいい匂いもするし(肩辺りに顔を寄せながら)』
『…………アンタちょっと距離近くない?』
『え? そ、そうかな』
『そんなんだからあーだこーだ言われるのよ!』
『一緒の部屋で過ごしてるからなんか慣れちゃって……』
『は?』
『え?』
『……あっ』
そこからはもう怒涛の展開だった。
赤面しながら必死に否定する霞ちゃん。
僕と霞ちゃんの関係を疑ってくる柚子ちゃん。
なんとなく事情を把握したっぽい晴信ちゃんが代替え案として家にみんなで泊まろうと提案してくれるまで、そりゃもう大変だった。
同じ部屋に寝泊まりするくらいならと僕もその場では承諾したのだが、冷静に考えれば、19歳の女の子が一人で暮らしてる家に寝泊まりする方がヤバいのではないかと思った頃には後の祭り。
今ここにこうして至るという訳だ。
僕の懸念を他所に、晴信ちゃんは何ともないような表情で答える。
「平気。私の家だし」
「とは言ってもねぇ……親御さんが嫌がるんじゃないか?」
「……? もう大人だよ、私」
至極当然と言った様子でそう告げた。
そうだね、年齢的には大人だね。
責任も自分でとれるし、一人の自立した人間なのは間違いない。
でもこう、常識的に考えて、男を家に連れ込むのは非常によろしくない事だろ?
「……ああ、なるほど。勇人さん」
「なんだい?」
「現代だと男女の性差はそんなに考慮されてないよ」
──……おっと?
「ダンジョン発生前はレディファーストとか、そういう概念があったのは知ってる。今はない」
「そりゃまた……なんで?」
「魔力があるから」
「あっ」
あ~~、なるほどそういう事か……
確かに魔力の有無で性差なんてどうでもよくなる。力の強さなんて魔力で補っちゃえば関係ないのは、それこそ午前中の検査を準備してる職員さんでそれはわかっていた筈だ。
「そりゃあ……そうなるか。いや、当然だね。なんでわからなかったんだろう」
「……一度形成した常識を塗り替えるのは難しい。勇人さんは真面目で勤勉な人だから、大丈夫だよ」
自分の浅慮さに呆れてしまった。
晴信ちゃんの励ましが申し訳なさを加速させる。
「それじゃあ今って女性専用車両とか……」
「ない」
「そっかぁ……」
でもそれだと、魔力に優れた人間は強者だから振舞いに気を配ったりする必要があるように思える。
一級探索者の人達を見ればそれは一目瞭然だ。
不知火くんも不遜な態度を取っているように見えるけれど、彼は礼節を重んじているちゃんとした人だった。現代には現代の価値観、か……
「だから気にしないで。私はもう大人だし、勇人さんの事を信じたからこうした。それでいい」
「……わかった。でも、嫌になったら言ってくれよ? すぐに出てくから」
「その時は遠慮しない」
こう言われてしまっては、僕も引き下がるしかない。
霞ちゃんが妙に大人びてたのもそれかぁ……
あの娘の場合ダンジョンに興味を割きすぎて冷めてるのかと勘違いしてた。
「それもある」
「あるんだ……」
「……良い事思いついた。ちょっと待ってて」
「?」
そう言って立ち上がり部屋を出て行って、すぐに戻って来た晴信ちゃんの手には大きな本が。
本って言うか大きな冊子?
表紙には『第36期探索者養成専門高等学校』と書いてあり、つまるところこれは……
「卒業アルバムだね?」
「その通り。ここ見て」
数ページめくって見せたクラス名簿は、僕が学生だった時とそこまで変わらない顔写真と全体写真が写っていた。
「私達は三人とも同じクラスで、学年の1、2、3をずっと争ってた。と言っても霞が入学してからずっと1番で、私達は2番争いをしてただけだけど」
晴信ちゃんは無表情、柚子ちゃんは綺麗な笑み、霞ちゃんは口角が吊り上がった歪な笑みと見事にそれぞれの特徴が表れている。
少し意外だ。
晴信ちゃんはこういう時取り繕うタイプかと思ってたんだけど。
「私は跡取りでもなんでもないし、教育は受けてるけど厳しくあれもこれもって言われてる訳じゃ無いから」
「なるほどねぇ……」
「それより、この男子。この人が霞に3回告白して玉砕してる」
おおう……
別に顔立ちは悪くないし、何ならハンサムだと言える顔をした男の子を指差しながら続けた。
「霞の断った文言、なんだと思う?」
「うーん……『私より強くない人とは付き合わない』とか」
「……すごい。なんでわかるの」
「えぇ……凄い適当言ったんだけど」
霞ちゃんは一体何を目指していたのだろうか。
ていうかこれ、不知火くんが言いそうなセリフだよね。
「惜しい。不知火一級じゃなくて、宝剣一級の真似。有名」
「有名!? こんなこと言ってたのが広まってるの?」
「うん」
うわあ、そうなんだ……
「私が言いたいのは、この頃から霞は私と比べても遜色ないくらいにはリアリストだったって事。異性と気軽に付き合わず、付き合うなら結婚する人じゃないとダメ、って感じの将来設計を組み立ててた」
「単に現実的な思考をしている……ってだけじゃないんだね」
コクリと頷いた。
「なんていうか……生き急いでた」
十何年も前にダンジョンの中で消息を絶った姉を探す。
それをモチベーションに人生を捧げられる少女が、生き急いでない訳が無い。死にたくないと言いながら、ダンジョンという危険地帯に足を踏み入れるんだから間違いない。
「今の霞はそうは見えない。焦りとか緊張とか、そういうのがあんまり無いから」
「そう……なのかな。リラックスはしてると思うけど」
「あんな風に感情的になる姿は見た事ないから。今の霞の方が好きだよ」
そう言って柔らかく微笑んだ晴信ちゃん。
本当に霞ちゃんの事が好きなんだね。
かけがえのない友人ってのは、大切なものだ。
彼女らの友情を壊さなくて良かったと安堵するとともに、僕のような異物が入り込んでしまっている事が申し訳ない。
「だから余計大人びて見えるんだと思う。柚子を見ればわかるけど、誰でもって訳じゃ無いから」
「はは、確かに」
語る彼女の表情は穏やかだ。
でも。
だからこそ感じた事がある。
晴信ちゃん自身も、大人にならざるを得なかった理由があるんじゃないかって。ただ良家に生まれたから、というだけでは無いような気がする。勘だけどね、何の根拠もない勘。
お金持ちで名の有るお家の娘なのに、こんな普通の一軒家で一人暮らしをしてる所とかが引っ掛かった。
──とはいえ、それをいきなり聞く程無神経じゃない。
もし彼女が話したいと言った時、黙って受け入れるくらいの事は出来るように考えておこう。
「それでね。こっちのページに旅行写真があって」
「どれどれ。……おお、ジャージ姿だ。晴信ちゃんはこれかな?」
「……あんまり見ないでね。恥ずかしいし」
「かわいいじゃないか。似合ってるぜ」
「やめて」
ちょっと肩を寄せて彼女らの青春を見せてもらっていると、そのタイミングで霞ちゃんが戻ってくる。
さっきまでの会話は聞かれて無いかな。
まあ、やましい事を話してた訳でもないし聞かれてても構わないけど。
「は~~、いいお湯だったぁ……晴、上がった、よ…………」
「お、だってさ。行ってきなよ」
「うん。タブレット、使っても大丈夫だから」
「ああ、ありがとう」
スタスタ歩いていく晴信ちゃんを見送り、なぜか扉で固まってる霞ちゃんに冗談交じりに訊ねた。
「霞ちゃん」
「え゛……あ、え? はい、なんですか」
「『私より強くない人と付き合わない』って、どういう考えでそうなったのか教えて欲しいんだけど」
「…………ヱ?」
卒業アルバムは閉じておいた。
これ以上僕が一人で見ていいものじゃないと思ったからだ。
僕に思い出があるように、彼女らにも思い出がある。無遠慮に踏み荒らして良いものではない。少なくとも、聞かせてくれたこと以外は。
ただ結論から言えば、勝手に学生時代の黒歴史をほじくり返された事に気が付いた霞ちゃんが怒り狂い、晴信ちゃんが戻ってくるまでひたすら謝り倒す事になった事だけは伝えておきたかった。
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