第4話
そうして二人は仲良く飲んだ。
傍から見たら井出切が若者にカツアゲされているような構図だった。
けれどそのあまりに近い距離感と弾んだ会話から、朗らか陽キャ店員があの二人待ち合わせだったんだ、と思う程の親密さが生まれていた。
そーして飲んだ。
ぐびぐび飲んだ。
井出切は楽しくって仕方無くって終始へらへらしっぱなしだった。
「カナメくん、のんだぁ、ねぇ」
「そーだね、飲んだね」
それは青年、要も同じだったようで、最初の時より表情も態度も柔らかだ。
初めて会ったというのに、二人は会話をすることを心から楽しいと感じた。
話さない時間も生まれたけれど、その沈黙も心地が良かった。
好きな物と嫌いな物が一致して気楽だった。
もっとずっと一緒に居たい、と思ったもんだから、結局二人は閉店まで飲んで、今は戸張も落ちた街を一緒に歩いていた。
井出切はもうべろべろで、ふらふらだった。
それを支える要は、顔は赤いもののしっかりしていた。
そんな様子に井出切は「あはは、お酒強いねぇ若いねぇ」つんつんその頬を突く。
「若いのかんけーなくね?」
要はその手を払い退けなかった。
それどころかふらつく井出切にしっかり密着、支え続ける。
「新陳代謝が違うんだよぉ!」
「たいして変わらないじゃん」
「かわるよぉ…ぜんはんと、こうはん…」
要は21歳だった。
井出切は29歳だった。
この8歳さは齢を取るとほんっとよく感じて沁みて、井出切はちょっとホロっとしてしまった。
「…あ…しゅうでん…むふふ、なかったぁ…えへへぇ…」
泣いてなんかないやい、と涙を拭った腕でついでにみた時計の針が残酷な時刻だった。
でも楽しかったからいいのだ、と井出切は攻略者向けの安いホテル無いかなー、とスマホを取り出した。
「うちくる?」
ところが要がそんなことを平然と言うものだから、井出切はのろのろ若者を見つめた。
なんてことなさげな顔をしていた。
若者は、今日はじめてあった、飲み屋であった年上の男を、自宅に泊めることが可能なのか。
思考がまとまらないのは、急なお誘いに驚いたから。
下心なんてなかったのだが、下心感じてなさそうな対応だったのが、何故かもやっとした。
酔ってるせいだしょうがない。
「…わかいってむきどーぉ、きおつけないとぉ」
「相手選んでるからへーき」
「へーき?」
井出切は自分を指差した。
「へーき、だから行くよ」
要の支える腕に力が籠ったのを井出切は感じた。
有難い上に親切。
馬鹿なこと、考えてる場合じゃあない。
迷惑、掛けないようしないと、と。
井出切は要に合わせ歩き始めた。
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