第2話

あれからカタカタ。

わりと寝ないと明日の仕事に支障が出る時間までジロジロ。

したけれど、井出切はついぞ動画を見つけることが出来なかった。


幾人か、この子か?と思うバンドの動画を見つけ鑑賞。

違う。

この子だったか?

あれこの子?

違う。

なんか違う。

これはまた新しいジャンル。

こういうのが今の支流なのかぁ。

あ、これこの間のドラマの主題歌か。


と、いう感じになってしまって。

諦めたのだ。

と、いうよりも、だ。

動画を探している内に気付いてしまったのだ。

色んな動画見過ぎてそれが頭の中で混ざって、観たと思っているだけ、なんじゃないかと。

だってこの子だ!と思ってもピアスはしてないのだ。

派手な格好はしてるけど、誰も口にピアスはしていないのだ。

だからあの攻略者の口ピアスが混ざった記憶違い。

井出切はそういう答えに辿りつき、就寝することにしたのだ。

いつもより夜更かしした所為で、悶々してたけどすぐ寝れた。




見付からなかった悲しみと、見付からなくて当然という事実と、寝不足で、井出切はぐったりしていた。

だから今日の仕事はキツかった。

やっぱり寝不足でお仕事はまともにしてられない。

気を付けなければ、と反省しつつも井出切は、その足を自宅では無く飲み屋街へ向けていた。

今日はパソコンの前に座らず飲んで帰ろうと思ったからだ。

明日休みだからと、諦めず検索しそうな自分が存在しているからだ。

酒飲んでとっとと寝て、明日は映画を鑑賞する。

そうと決めた井出切は、前に行って居心地が良かった飲み屋へ入った。


「いらっしゃい!おひとりですか?」


井出切は思わず、29歳独身童貞です!と、朗らか陽キャ店員に心の中で挨拶してしまう。


「アッハイ」


「カウンター席どぞ!」


あくまで心の中なので、井出切は若干委縮しながらぺこぺこ、言われた通りカウンター席にこそこそ座った。

それからしばらく井出切は、朗らか陽キャの接客に無駄に緊張しながらも無事に酒と食事を楽しみ始めたのだった。



「はぁ…」


二杯目のビールを一口飲んでから、井出切は溜息を吐いてしまった。

やっぱり動画のことが尾を引いていた。

酔いが回って、自制が緩んで、お腹が満たされたら、頭が好奇心で一杯。

好奇心が踊ってる。

家に帰って動画探そって、純粋にはしゃいでる。

そうしよっかなーって、井出切は思っておあいそ、しようと。


隣に誰かが座った。

わりかし近め。

だから少し椅子ごと離れてみる。

隣も気にしたのか、身が動く。

ふわっと、濃い、香水の匂いに誘われて、井出切はチラ見してしまった。


「ふぁ」


急いで口を結ぶ。

もうぎゅうって結んで変顔だが、幸い誰にも多分見られてない。

飲み屋の喧騒そこそこなので、きっと恐らく誰にも聞こえてないと信じたい。

そんな顔のままに、井出切は胸がドキドキ。

だって、記憶の中のピアスの青年、そのまんまなんだもん。

だから、どきどき。

好奇心がもりもり。

ビールをぐっと煽った。

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