名前が出てこないバンドを探して諦めた次の日
狐照
第1話
最近のお気に入りはダンジョン攻略を配信する動画だ。
井出切にはダンジョンに潜って戦う才能が無いので、憧れと同時に好奇心が満たされる良いコンテンツであった。
何を隠そう井出切は好奇心の塊で、色んなジャンルの動画や映画を好き好んで観賞してはその欲を満たしていたのだ。
「…あ、この子」
ダンジョン攻略をする者を攻略者と呼ぶが、戦う才能技術勇気と智慧があるからと言って、社会に属する人間であることに変わりはない。
だからもちろん、プライバシーにも気を使っている。
気にせず顔だし配信をする猛者も居るが、もれなく何かやらかし炎上して色々終わってしまうので、基本的に攻略者は認識が阻害されるフィルターを掛け撮影をしていた。
それでもたまーに、そのフィルターが外れてしまう事故は起こる。
そしてたまーに起こった事故まとめ動画をなんとなーく見ていた井出切は、ピアスがいっぱいついた唇が一瞬映ってしまった画面を観て、別の動画のことを思い出していた。
事故った動画の元は、若手の中でも頭角を現している二人組の物だった。
姿は真黒な人形に見えるようフィルターが掛かっているが、声が二人とも良い、その上強い、そしてイケメンそうな雰囲気。
仲の良い会話も相まって、最近人気の攻略者であった。
そんな二人組の片方には口ピアスがすごい、というのがバレた事故配信。
ファンからは神回と呼ばれており、元動画は削除されていた。
謝罪文もキチンとしたものであったから、身バレは嫌だという現われなのだろう。
だからそのピアスを元に本人を詮索するようなことは、表立ってはされていない。
一部のファンが密かに…という話は、もはや口ピアスが原因で別動画へと興味が映った井出切には関係のない所。
そもそも元動画の二人組にすら井出切は興味が無かった。
というのも、戦闘攻略に特化した攻略者はあまり好きではないのだ。
どちらかというと、ダンジョンを案内してくれる、ダンジョンで検証する、みたいな動画が好きなのだ。
だから口ピアス、口ピアス。
好奇心の塊井出切は、記憶の片隅に埋もれていた、今めっちゃ観たい動画を探し出すことで頭一杯になっていた。
何を探しているのか。
前に観たバンドのPVだ。
なんて名前のバンドだったか思い出せないが、観た記憶、それはある。
井出切はこういうことが多々あった。
そしていつもメモっておけば良かったと後悔するのだ。
だからデスクトップの前にメモとペンを用意して、ある。
だけどいつもメモしない。
これだけ印象深いんだ忘れ無いさと、観た満足感で油断してしまうのだ。
確かこの、バンドの動画を観て、その後候補が出て辿って。
記憶を頼りに検索する。
「あの、唇に一杯ピアスつけたバンドの子は何処の子だっかなー」
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