第3話 魔王様と勇者の事情

「さて、真央さんは晴れて私の家の使用人となったわけですが、貴方にはまずやるべきことがあります。何か分かりますか?」


 ひとまず自分の部屋を割り振られ、荷物を整理し終わった俺はレミに呼び出されていた。


「……掃除?」

「ブーです」

「コミュニケーション?」

「違います」

「魔王風の演技?」

「あなたは別に魔王になりたいわけじゃないでしょうに……。いや、実際に魔王なんですけどね?」


 そういうことじゃなくて……、とレミは混乱した様子でぶつぶつとつぶやく。


 ……まぁ気持ちはわかる


「こほんっ、話が逸れました。とりあえず今から貴方には戦闘訓練を行なってもらいます」

「戦闘訓練?それこそいらないんじゃないか?強くなっちゃったら本当の意味で魔王になっちゃうだろ」


 俺のそんな言葉にレミは複雑そうに顔を歪める。


「そうもいかないんですよ貴方は命の危機に立っているんですから」


 ……命の危機?それは前回過ぎ去っただろう……?


「……誰に狙われてるんだ?」

「勇者ですよ」

「え?でもこの前金森のやつと約束しただろ?俺の命は取らないって」

「……そう簡単にはいかないんですよ」


 俺の言葉にレミは紙とペンを持ってきて図に書いて説明してくれる。


「勇者が沢山いることは知っていますね?もちろん貴方の討伐隊意外にも」

「あぁ、実際あの時いなかったレミが勇者なわけだしな……」

「そうです、そして私以外にも日本、いや世界中に勇者は存在してるんですよ。それに勇者の全員が全員仲良しこよしな訳ではないんです。それぞれの国の、そして個人の事情が勇者という職業には絡んでますから。……つまり、日本という小さな国のたった五十人と約束したところで他の勇者に命を狙われないなんてことは無いんです」

「マジかよ……。……ちなみに魔王はどれくらいいるの?」

「今のところ貴方一人です」

「えぇ……。勇者はそれだけいて魔王は一人かよ……」


 これ、もし戦うとしたら明らかに不公平すぎないか?数の暴力で潰されて終わりだよ……。


「そう、そしてもう一つの問題にそれが関わってくるんですよ」

「え?魔王が一人しかいないことが?」

「そうです。そもそもですね、勇者の存在意義は魔王を倒すことにあります。最近は警察の真似事のようなものもやっていますが……。しかし大半の勇者は魔王を倒すことを第一目標として死に物狂いで取り組んでいるのです。……ここまで言えばわかりますよね?」

「……全世界の勇者が俺の命を全力で狙ってくる、と……?」

「そういうことです!魔王がもう一人か二人くらい居れば同盟を組むなり、戦力を分散させるなりいろいろできたのですが、残念ながらそういうことはできません。なので貴方一人でそういう輩を捌かなければならないのです」


 なるほどな、そりゃあ戦闘訓練が必要だ。というかするしかない。そうしないと俺が死んじゃうしな。


「んー、でも分からないことがあるんだけどさ、勇者がそれだけいるんだったら何で何もしてない状態の魔王を叩くんだ?別に悪さしてからとは言わないが、そこまで敏感にならなくても良いんじゃないか。魔王が全員が全員悪い奴なんて保証はどこにもないし。それに最悪の場合、数の暴力でいけるだろう?」


 しかしレミは俺の言葉に首を横に振る。


「ある実話に基づいた昔話があるんですよ」

「昔話?」

「……その昔、魔王と勇者が手を取り合っていた時代があったそうです。その魔王は明るい性格で皆に優しく、その魔王の力を使って多くの人助けをしていました。そんな魔王に人々は感謝し、勇者たちも大きな信頼を寄せていた。……しかし、ある日その魔王の態度は豹変した。突如として暴れ出した魔王は強大な魔王の力を振るい街を破壊し、山を更地に変え、海を蒸発させた。世界中の勇者たちはそんな魔王に約1万の軍勢で挑みましたが……、残ったのはたった3人。魔王はなんとか討伐されましたが、もうその時には世界はガラクタ同然でした」


 ……なるほどな。確かにそんなことがあったんなら納得だわ。話の中にちょっとした違和感があるとしても、似たようなことが起こったのは事実だろう。魔王の強さも1万は倒してないとしても少なくとも5000は間違いなく倒している。


 どおりで討伐隊の結成が早かったわけだ。


「もっとも、私はそんな話信じてませんけどね」

「え?そうなのか?」

「もちろんです!というかもし信じてたら貴方を使用人として雇ったりなんてしませんよ」


 そりゃそうだ。


「さて、こんな嘘っぱちな伝承はどうでも良いんですよ」

「嘘っぱちって……」


 絶対勇者である人物が言うべき言葉じゃないだろうに。


「では、早速訓練といきましょうか」

「お、おう。……でもどこでやるんだ?」


 家の中は論外として、庭でやっても俺の魔法なら家まで被害が及んでしまう可能性がある。


「付いて来てください」


 俺はその言葉通りレミの後に続く。彼女は家のベランダから外に出ると、庭の木々の間を分け入って行く。


 ……ここの庭こんなに大きかったのか、全然気付かなかったな……。


 ……いや、気付かれないようにしていたのか。今考えると、あからさまに”ここまでが私の庭ですよ”と主張するように綺麗に木が植えられているしな。


 それから、狭い木々の間を進んでくと、やがて拓けた場所にたどり着いた。


 そこにあったのは見渡す限り一面の花畑だった。赤、黄、青、紫、様々な花が野原を色鮮やかに染めている。


 これはすごいな……。これだけの花畑は世界を探してもそうそうないだろう。


 ……まぁ、ゲーム脳の俺には、綺麗とかそういう感想じゃなくてもっと別のことが思い浮かんだんだけど……。


 ……これはあれだ、ポケ◯ンxyのポケ◯ンの村だ。森を抜けて花畑のある平原に着く。まさにそれ通りである。


「それじゃあ行きましょうか」

「そうだな、まずは洞窟を探そう。ミュウ◯ーを捕まえにいくぞ」

「そんなものありませんよ。何言ってるんですか……」


 レミは俺の言葉に呆れながら歩いていく。……なるほどな、レミは妖◯ウォッチ派だったのか。


「それで?どこでやるんだ?ここでやったら花が全部吹っ飛ぶぞ?」


 レミはその疑問に小さく笑みを作ると俺に見せつけるように手のひらを広げるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悲報、魔王俺氏、メ◯カリで売られる。〜値段は398の模様〜 たつのおとしご @tatunoko_s

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ