第2話 魔王様のご主人様

「はぁ、憂鬱だぁ」


 あれから、俺は値段交渉されることなく落札され、今はその落札した人のところに向かっている。東京から南西へ。新幹線にも勝るに劣らないスピードでただ同じ景色の空をひたすらに飛び続ける。


 それから2時間くらい経った頃、金のシャチホコが見えたところで俺は地上に降りる。


 さて、地図ではこの辺だったが……。俺は団長(仮)から送られてきた地図を頼りに家を探す。


 おっ、あったあった。


 俺は一際大きなその家を見つけると、少し躊躇いながらインターフォンを押す。


 さて、どんな人が出てくるのだろうか。男か女か、はたまた子供か老人か。あっでも、あのオカマだけは嫌だな……。


 と、そんなことを考えていると、ガチャリと扉が開く音がした。俺がそちらに目を向けるとそこには金髪ロングの碧眼娘が俺を出迎える。


 えっ⁉︎可愛すぎなんだが?


「えーっと、悪のマオウさん?」

「あくのまおです!俺悪事なんてしてませんよ!」

「あ、すいませ。つい……、出品の名前も魔王で、金森さんからも漢字でしか送られてこなかったもので……」

「あー、なるほど。こちらも怒ってしまってすいません……」


 相手の礼儀正しい態度に釣られてついぎこちない返事になってしまう。突然の俺のそんな態度に彼女はワタワタと慌て始める


 かわいいなぁ。


 ちなみに金森さんとはあの団長(仮)のことだ。本名は金森誠司かなもりせいじらしい。なんともありふれた名前である。


「あ、謝らないですださい。私が悪かったですから、……あっ、えっと私の名前は園崎そのざきレミです。レミと呼んでください、私もマオさんとお呼びしますから。あ、あと敬語もいりません」

「あぁそうか、よろしくなレミ。……でもレミの方は敬語取れてないぞ?」

「これは元からなんですよ」 


 フフフッ、と小さく微笑むレミ。


 ……何だこの可愛い生き物は、天使か?


「じゃあ、入ってください。私が家を案内しますから」


 俺はその声に惹かれて、そのままレミに続いて家に入る。


 レミの家はそれはもう大豪邸だった。俺が前まで2LDKのアパートに住んでいたのだが、それの50倍から100倍の大きさはあるのではないのだろうか。


 ……よく考えたら50倍から100倍ってかなり変わるよな。まぁ、俺も詳しい大きさなんてわからないからしょうがないよね。


 内装はあまり豪邸という感じがしない一般的なレイアウトだったが、ソファから絨毯、ベッドまで、全てが一般的なものとは比べ物にならないほど良い品質だった。俺の素人目でもわかるくらいには。


 一通り家の説明が終わった後、レミは俺の役割を言い渡した。


「真央さんにはやってもらいたいことが二つあります。……まず一つ目はこの家の執事をやってもらいたいのです」

「執事?」

「そうです。ただ執事というのは名目だけで、家事をやってもらえたら何でも良いです。別に正式な服とかあるわけではないですし、もちろん口調もそのままで構いません」


 執事か……。まぁ、居候の対価として考えれば条件として全然悪くないんじゃないだろうか。俺の場合家事くらい魔法ですぐ終わるし。


「なるほどな、もう一つは?」

「もう一つはもっと簡単です。私と友人になってください!」

「友人?それくらい全然良いけど……」


 そんなこと頼まれなくてもそうするつもりだったし。レミとは歳が同じくらいっぽいからな。……でも何でそんなことを?


 ……もしかして、


「……友達いないのか?」

「……」


 図星らしい。


「……大丈夫、大丈夫。友達がいないことは悪いことじゃないから」

「違うんです!友達いますから‼︎ちゃんといますから‼︎」

「お、おう。じゃあ何で黙ったんだ?」

「……私ってお金持ちじゃないですか」

「……あー、なるほど」

「早くないですか⁉︎」


 つまり金目当てのやつだとか、そういう下心を持った人か多くて本当に友達と呼べるようなやつは少ないってことか。


「だから友達になってほしい、と」

「まぁ……その通りですね」


 レミは解せなさそうな表情で答える。俺は鈍感系主人公にはなれそうにないな。


「……でも、そんだけのために俺を買ったのか?自分で言うのもなんだが、俺は男だし魔王だぞ?」

「あぁ、安心してください。私に手を出した瞬間首ちょんぱですよ」


 レミは親指を自分の方にたてると首の前でそれを横移動させた


 ひっ‼怖すぎるだろ……。


「それにそもそも私にとって真央さんは都合の良い人なんですよ」

「都合の良い人?」

「はい、見ての通りこの家でには使用人がいません。あまり自分のプライベートエリアに人は入れたくないので。そんな私にとって貴方はうってつけの人材なのですよ。普通は何人も雇わないと掃除が行き届かないところを、貴方なら魔王の力で一瞬で掃除できます、洗濯だって庭の手入れだって全て同じです」

「なるほどな、確かにそれは俺向けだ」

「それに真央さんはなかなかにイケメンでしたので、もし真央さんがブサイクだったら私も買っていなかったかもしれません」

「お、おう、そうか」


 レミにそんなことを言われ、俺は照れながらもなんとか返事をする。レミは俺の反応を見て、あらためて自分の発言を振り返ったらしく今更ながら恥ずかしがる。


 きまずい沈黙……。


「そ、それでですね!私の話受けてくれますか?」

「……ちなみに断ったら?」

「金森さんのところに強制送還かと……」


 それはやだな……。それにこんな可愛い人が俺のご主人になったのだ。断る理由もない、か。


「謹んでお受けします、お嬢様」

「ふふふっ、身を粉にしてあたらいてくださいね」


 こうして、魔王16歳はメ◯カリを経由して、可愛いお嬢様の執事兼友達として働くことになった。売られた時はどうなるかと思ったがなんだかんだで楽しい生活になりそうだ。


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