第8話
「名刺入れは持ってるか?」
アクタガワが不意にヘイジに尋ねた。
ヘイジは、頼んでもないのに注がれるカクテルを飲み干そうと苦しんでいたが、怪訝そうにアクタガワに顔を向けた。
「持ってるけど、いま必要なのか?」
驚くのはすっかりやめていた。もうどうにでもなれというきがしていたのだ。
アクタガワは頷いて、「柿ピーあるやん、つまめ」とせかす。
とそのとき、入り口のドアから慎重な様子でどんどんと鉄でできたドアを叩く鈍い音が響いてきた。
「なんや、どうぞ」
入ってきた男は二人組で、一人の男は二人に向かってこう言った。
「すみません。警察なんですけど、店内で暴れた若者がいるって通報があったんだけど君たちかな」
ヘイジはむせそうになり、あわてて立ち上がった。アクタガワは、調理場から飛び出して詰め寄り、挙動不審のヘイジを横目に慣れた手つきでポケットから身分証明書を警官に手渡して、
「よくてみぃ00や」と言った。そう答えるとアクタガワは男の階級章を確認して後ろで控える中年の男となにやら話し始めたのだ。
おそらくこの店のマスターがさっきの電話で通報したのだろう。警察官が現われた時には、この世の終わりだと思ったが、アクタガワと警察官の会話はスムーズで時おり笑顔が見える。このままアクタガワに任せておけば心配ないと高を括った。
「なぁアクタガワ」
「なんや」
「お前、さっきまで楽しそうに話していたよな」
「あぁ、おれお喋り好きやから」
「じゃあなんで……おれたちはパトカーで連行されているんだよ‼」
宇宙の就活生 ~地球消滅から始まるハローワーク~ うさみかずと @okure
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