第5話

「はぁ、なんで?」ヘイジは言った。


 だが、アクタガワはなにも気にしない様子で、じっと空の一点を見つめていた。アクタガワはいきなりわきにしゃがみ込んだ。


「ヘイジと話したいことあんねん」


 ヘイジはアクタガワの表情が真剣になった一瞬を見逃さなかった。


「ここじゃあだめなのか」


「うんそやな、飲みながらでしか話されへんことやねん」


「わかったぞまた女がらみだろう。どうせお前のことだからめんどくさいメンヘラに捕まったとかだろう。いいよ、行こう。そのかわりおれの愚痴を聞いてもらうしお前の悩みも打ち明けろ大笑いしてやる。もちろんお前のおごりで」


 アクタガワはまた空を睨んだ。不安そうに、なにかを待っているように。


「おい、アクタガワなにやってんだ?」


 アクタガワは面を喰らったようにヘイジに顔を向けた。


「アクタガワ、お前いつも変だけど今日は一段と変だぞ」


「なんや?」


「だから二度も言わすな、いつも変だが今日はもっと変だ。変に磨きがかかっている」


「なんでもないわ、おれはいつも通りやで、あとな、ヘイジの愚痴より聞いてほしいことがあんねん。重要な話しやねん。それも最近みつけた一級品の酒が飲めるっていうしゃれたバーで聞いてほしいんや」


「こんな昼下がりにやってるバーなんてあるのかよ」


「ある。だから見つけたんや」


「めんどくさくなってきた。おれじゃなきゃだめか」


「そう言われると別に誰でもええんやけど、なんとなくヘイジや。それに酔っぱらわずには聞かれへん話しやねん」


 アクタガワはヘイジをじっと見つめていた。その目を見ているうちにひょっとしたらアクタガワについて行けば少しは気が紛れるかもしれないとヘイジは思い始めていた。


 しかしそう簡単に能天気な気持ちにはなれなかった。


「でも明日も面接あるんだよな」


 情けない声で言った。


「関係ないやん、おまえらに明日こーへん。だから気にすんな」


「ふざけやがって、これ以上俺をからかってみろ。大声で泣いてやる」


 ヘイジは、気を揉んでいた。


「それに重要な話しと言ってくだらないゲームで朝まで付き合わせる気じゃないだろうな」


「大丈夫や、おれを信用しろ。少なくとも地球の終わりまでは」


「あっそうかい」とヘイジは言った。


「で、それはどのくらい先の未来だ?」


 アクタガワは微笑んで、


「そうやな、あと60分ってところやな」


 そう言った。


「ずいぶん長くあるな、気に入った乾杯しに行こうぜ。世界の終焉に」


 やけっぱちに笑うと


「せやな」


 アクタガワは即答した。


 

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