ラストオーダー

第4話

 そのうちやることがなくなってこの星に飽きたら、仲良くなった同業の友人に頼んで、空飛ぶ円盤にのせてもらう。こうやって、仮にいま財布の中に300円しか持ち合わせがなくとも宇宙をまたにかける就活エージェントの彼は銀河の果てを見て回ることができる。


 たったひとつの問題はこの星が他の星に比べたら気の遠くなるほど退屈で、同業の友人がなかなか見つからないことだった。


 ヘイジの気持ちの切り替え方はなんとも簡単なもので、とにかく眠ることだった。


 とにかく泥まみれになって横になり、眠け眼でときどき、意味もなさない言葉を発したり、ぶつぶつ念仏を唱えたり、めそめそと涙をこぼしたりすることだった。


 本来ならそう言った悩みや不安を打ち明け、朝まで語り明かすことができる友達や彼女に「そんなこと誰にだってあるさ」「みんな失敗から学んでいくんだよ」「あなたのそう言うところまでも愛おしい」などと励まされ、慰めてもらうことが一番の処方箋になるが、生憎、ヘイジにそんな都合のいい友達や彼女などいなかった。


 ただ一人をのぞいては。


 ヘイジがこうやってぐれている間にも地球は日周運動を続けていた。


 太陽は平等にその光を地上にふり注ぐ、どんな善人にも悪人にも、金持ち、貧乏。老若男女問わず外にいるすべての生き物にだ。


 その真実に例外はない。もちろんこの人生最大の失敗を犯したヘイジにも日光はいじわるせずにスーツについた泥を乾かし始める。


「おっす、ぼんくら」


 声がする。


 それからあまりの眩しさと熱気にうなされるヘイジの頭上に影が一つ落ちてきた。


「何してん、こんなところで」


 見知った声にヘイジは瞼を開き、太陽に目を細めながら少しずつ目を見開いた。アクタガワが心底人を小ばかにしたような笑みを引っ提げ前かがみになりながら手を差し伸べてこちらを見つめている。


「何だよ、アクタガワか。どう今年こそ卒業できそうか?」


「うぅん、無理そうやな。前期6単位しかとれてへんもん」



 と、アクタガワ。ヘイジはアクタガワの手を払いのける。


「ふん、阿呆め」


 ぼんくらに対してのアンサーが返ってきたところでヘイジは立ち上がった。


「ヘイジところで、いま暇か?」


「暇……暇かだって!」


 ヘイジは大声を上げた。


「そりゃ、面接ダメだったからね。暇ですよ。暇。どんくらい暇かしりたいか? 教えてやるよ。芸能人やユーチューバーの根も葉もない悪評を信じてSNSで悪口書いてるやつくらい暇さ。いや違う。原発賛成反対、けんけんがくがくぎゃーぎゃー言ってるやつよりも暇だよバカヤロー……このまま就職できなかったら、一生暇だよ。あぁもうビーガンにでもなろうかな。暇だから……で、なんか用か?」


「ええやん、なれば素敵やん」


 アクタガワは日常的に皮肉を言われたり、聞いたりしているためよほどひどい皮肉でないと、なかなか皮肉だと認識しない。


「いやもういいよ、なに?」


「今から飲まへん?」


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