第3話
彼は特別な能力など持ち合わせていなかった。ただ、ヘイジより5センチほど身長が高く。関西弁で、髪は直毛でちょっと茶色の色素がある塩顔イケメンである。
もちろん前髪は真ん中でわけていた。彼にとってはこの時代のトレンドがマッチしていて女性にはモテていた。
なんとなく普通の人と雰囲気が違う感じがするが、どこが違うと言われれば特に気になるところなどない、しばらく彼と話しているとテンポよく弾む会話でどこか楽し気な気分になることかもしれない。笑うときには、顎を軽く上げ視線を天井に向けることだろうか。
それとも、悩み事を打ち明けた時の彼の口癖がいつも決まって「なんくるなる、なんくるなる」だからだろうか。普段は関西弁なのにいきなり出てくる沖縄の方言になんだか落ち着かない気分になるのだ。
地球で作った彼の友人たちには、変わり者だが好感が持てる奴という認識だった。
つまりは、酔っぱらえば人一倍陽気に暴れまわり、酔った勢いのまま全裸で呼ばれてもいないサークルの二次会に乱入して、そこでまた酒を浴びるほど飲んだ挙句に、一番地味な学生に絡みだし、そこにいる1番近くの美人を抱く。
そう彼は一夜にしてサークルの人気者まで仕立て上げてしまうのだ。最終的にはそのサークルで一番人気のある女の子と仲良くなって部屋に泊めてもらっていたため。しまいには、一部の上位カースト男子学生からサークルクラッシャーと呼ばれていた。
ときには、奇妙に心をどこかに置き忘れてきたというふうに、催眠術にでもかかっているように夜空を見上げていることがある。なにが見えるのかと質問すると、彼は懐かしそうに慈悲深く微笑んで見せる。
「あのあたりに俺の故郷があったんやで」
と冗談を言い、すると誰もが笑いながら決まって、あの星とあの星の間にかいと更に質問をかける。
「そや、ずいぶん前になくなってしまったけどな」
と悪戯っぽくにやりと笑い、賑やかに笑って見せると、また手近の居酒屋に飛び込んで仲間たちと大量に酒をオーダーする。
そんな日の夜はたいてい散々なことになる。アクタガワはぐでんぐでんになりながら、彼女きどりの勘違い女からはやく両親に会ってほしいと決まって迫られるのである。そんなときは決まって「あかん、あかん」と言いながら千鳥足で夜の道を歩き、通りかかった警官を捕まえては「こっから11光年離れた星にはどういけばええ」と尋ねる。すると警官の数が増えて、たいてい警察署で朝を迎えることになるのだ。
実際のところ、ぼんやり夜空を見上げている時の彼は、本当に優しい顔をしていた。30年というのはどこへ現地調査しに行ったにしても長い年月だが、サブカルチャーが充実し、豊かな想像力に溢れる日本人は地球の中でも格段に面白い民族だ。
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