2日目昼 タチアナの夢

「私は13歳以下のガキに興味は無い!」



子供だった肉塊を踏みつけ、高らかに宣言するタチアナだが、やっている事は猟奇殺人犯のソレなんだが。

この娘なに?

こわい。





完全にドン引きしてる俺を横目にの叫び声が響く。














「「!!!」」








タチアナの足下の肉塊が動いたと思った瞬間、風が吹き抜けた。



そしてタチアナを突き飛ばし、巨大な盾で肉塊を圧し潰すヒタチ。


風の正体は反対側で寝ていたはずのヒタチだった。



グチュっと言う様な気持ち悪い音の後にドガンと爆発がして、地面が少し抉れた。



改めてヒタチは怪力だと思う。



地球ではクレーンに吊るされた鉄球を落としたような凹みが、ヒタチの盾の一撃で作られたのだ。







肉塊は


「ギ……ギィ……グ……グェ……」


と声にならない声を上げながらドロドロと溶けていった。





ヒタチがタチアナを突き飛ばし、盾の一撃を落とす瞬間、タチアナに向かって銀色の光が伸びた様に見えたのは気の所為では無いはず。


ヒタチが銀色の光ごと盾で叩き潰していたから、おそらくあれが二つ名の魔物の最期の抵抗だったのだろう。




………なんて名前だっけ?


え〜っと……


フェミニストかアルケミストか……なんかそんな感じ。




あ〜……でもあれ二つ名だから本名みたいなのあったのかな?



もう死んでいるから確認出来ないけど。



しかし……完全に子供に化けてて魔物だとは思わなかった。

皆は気がついていたみたいだが、あんなのが連続で襲ってきた時俺だけだったら対処不可だな。



「流石だね……恥ずかしながら、俺は完全に騙されてたけど………皆は気が付いてたってわけだ。」



「ハイ///」

とヒタチ(♂)は照れながら笑顔で返答。

笑顔はカワイイ。


「まあな」

とコモリはドヤ顔で返答。

おや?口調が戻ってる?


「……え?」

とタチアナ。














え?


お前気がついていなかったんかーい!!


まてまてまてまて。


お前さっきの子供がただの人間だったら、子供が嫌いだからって初見で子供殺ししたただのヤバイやつだぞ!!??



嘘でも「知ってたさ」とか言っておけよー!!







「……………し……知ってたさ。アレだろアレ。あの……アイツだったんだろ?わかってたさ!」


何かしどろもどろ〜!!


絶対にわかってなかったー!






『タチアナの事は置いておいて、不自然な点に気がつけば本物の子供ではないとわかるはずです。』

「タチアナはいいとして、ヒタチも気が付いてたと思うが、はおかしいと思うだろ?」


久々に空間に浮かぶ文字が出てきたな。

そしてコモリの口調が完全に戻った。





「確かに魔王に近づいているが、この近くに村とか無いのか?」

気になったので聞いてみる。

村とかあれば食料とか恵んで貰えるかもしれないからね。




『ありません』

「ねぇな。」

コモリが答える。


「そもそもこの世界では瘴気が溜まりやすいところは3箇所くらいしか無く、魔王復活するとしたらその内の何処かになる。復活した魔王はさらに瘴気を溜め込み強くなる。獣だって瘴気溜め込んだら魔物になるんだ。


瘴気溜まりやすいこの辺りで村があったら、自殺志願者か頭がおかしい奴らの集まりさ。この辺りでは子供は魔物の餌みたいなものだぞ?」


コモリは呆れた口調で説明してくれた。




昨日まで(俺の中で)解説担当だったタチアナは遠くで手を耳に当ててペコペコしている。


まるで営業周り中にサボったのがバレて電話で謝罪しているサラリーマンだ。


おそらく神託でさっきの行動言動についてお叱りを受けているのだろう。











タチアナはしばらくそっとしておこう。



「魔王は瘴気の塊だからな。弱い魔物も魔王の近くにいれば強くなれる。下手すれば二つ名持ちくらいに強くなるやつもいる。元々二つ名が付いているやつもさらに強くなりたくて魔王の近くに集まる。




………ここからは大変だぜ?」


コモリは小悪魔的な笑顔でニッとしながらこちらを向く。

カワイイ。

けどその話聞くとこわい。

大丈夫かな俺?



そういえばそんなに大変な旅なのに何で皆頑張っているんだろ?



「今更だが……皆は何故魔王討伐を?討伐後の願い事もすでに決まってるのか?」


命懸けの旅だ。

皆それぞれ思うところがあるのだろう。



「私には夢がある」



急にタチアナが話に参加してきた。

さっきまで散々女神様に怒られていたせいか、鼻水を啜り、目が潤んでいた。

袖で涙を拭って鼻水を強く啜った後で、大声で叫んだ。

空気が震えた気がした。


「私は魔王討伐したら女神様に頼み込んで……















のハーレムを作る!!!」














「その経緯は?」

突っ込む事をやめた。

タチアナらしいと言えばらしい答えが来たので、冷静に返す。



「え……け…けいい?」

タチアナは狼狽うろたえている。

アレ?

経緯とかわからない?



予想して無い返しだったんだろうな。

突っ込み待ちだったのか?





「夢はわかった。その夢に結びつくのか。そこが知りたい。」



「そういう事か。まかせろ。」

誇らしげにタチアナは答える。






…………何を?



「あれは私がまだ子供だった頃の話だ。」



こっちの疑問を無視して語り出すタチアナ。


もう彼女は自分の世界に入っているみたいだ。



「私の村は貧しくてな。毎日食うにも困るくらいだった。ある日酷い日照りが続いて村が全滅の危機に面した。そんな時に遠く離れた領主が、私の村の子供たちを身請けする話を持ってきた。」



なるほど。地球でも昔良くあった話だな。



「村としては口減らしにもなるし、僅かでもお金になるならそれで少しは食いつなげると喜び、私達は村を出された。私達は領主のところで使用人として働く事になった。


しかし領主は人を玩具にして愉しむのが趣味だったらしく、私も玩具にされたのだ。その頃から年上の男性には恐怖があるのだ。」



金持ちってのは普通に飽きて、普通から逸脱した趣味嗜好に走る事もあるって聞くな。

そのケースか。




「領主は次第に金で雇った使用人を森に逃がし、追いかけて狩る事を遊びとして始めた。

昔からいる使用人はそのままで、だ。」



アメリカで似たような事してた犯罪者いたなぁ……




「私は森の中を彷徨いながら逃げていた、たまたま力尽きた冒険者の装備が落ちていた。その時、女神様から『選択の神託』をいただいたのだ。苦しい人生と戦うか楽に殺されるか。私は戦う事を選んだ。そして……加護を得た。」



領主と戦うか、楽に殺されるか。か……


確かにその環境なら領主に勝ってもその後の人生は楽にはなれないだろうな。


村にも戻れないだろうし。



「私は加護を得た後も、女神様から様々な神託をいただいて今にいたる。


もちろん魔王討伐の報酬として好きな願いが1つ叶う事もだ。








だから私はハーレムだ!!

ハーレムさえあればいい!!!」

タチアナは誇らしげに宣言する。







…………タチアナちゃんはアホの娘なのかな?

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