現地の勇者達が見た【モノ】
――時は少し遡り勇者Side――
「こっちだよ!!」
後からついてくるであろう2人に声をかけながら木の根を飛び移るように森の中を駆け抜ける。
「待って〜///」
女の子かと思うほど高い声の男の子が必死に後に続いて行く。
森の中を走るには不釣り合いなヒラヒラのドレスを着ている。
「………」
男の子よりもさらに少し後をついていくように無言の女の子。
この子は走っているわけではなく空間を移動している。
昨日の夜に神託があった。
いつものように女神様からだ。
声しか聞くことしか出来ないけど、とても心地好い響きで聞いていて癒やされる。
そしてその神託はいつも絶対で、従えば確実に正解へと導いてくれる。
「魔王が間もなく復活する。」
「魔王を倒さねばこの世界は終わる。」
「街に行き仲間を集めよ。」
「山の頂の聖剣を手にせよ。」
「己を鍛え技を磨き上げよ。」
女神様のお告げに従って生きてきた。
全ては……
「魔王を討伐の暁にはどんな願い事も1つ叶えてあげよう。」
女神様から告げられたこの言葉のため。
昨日の神託はいつもとは違った。
なんか………違った。
「あの〜…いつも頑張ってるの見てるけど、ちょっとお願いがあって〜……いい……かな?」
話しかけられるタイプの神託だった。
「あの〜……ちょっと言いにくいんだけど〜……私の上司が〜…あの…魔王討伐の切り札的な感じ?…の人……呼んじゃったらしいのね。
……それで〜……その人と一緒に……魔王討伐に行ってくんない?」
何だろ?
すごく嫌そうな感じが声からヒシヒシと伝わるんだけど……
「女神様の命ならば!どんな事でも!」
今まで女神様にはお世話になっている。
今更断る理由など無い。
「あ〜…ありがとね。タチアナちゃんならそう言ってくれると思ってたんだ。でも〜……あんまり無理そうだったら……無理しないでね?詳しくは言えないけど……もしかしたら……ねぇ?」
露骨に嫌そうな感じが出てきてる。
「今のメンバーでは魔王は倒せないのですか!?」
そんなに女神様が嫌そうなら無理に合流しなくても良いだろう。
「んー〜……今のままだとちょっと……足りない……かな〜……?悔しいけどその人が居て何とかなるかなぁ~……って感じ?」
さっきから何故疑問形?
女神様が困惑してる……
よっぽど問題ある人なのか?
「女神様!宜しければ詳しく教え下さい!何とかしてみせます!」
「やる気あるのは良いことなんだけど〜……やる気だけじゃ無いことなのよね〜……まぁ…会えばわかる……かな?」
………?
全くわからない。
女神様は何を伝えたいのだろう?
「あ……ごめんなさい……時間切れだわ〜
とりあえず起きたら空を見上げて〜
運が良ければ例の人に合流出来るわ〜
運が悪ければ人だった肉を発見出来るわ〜
肉だった場合は………
………頑張って♪」
……何を!!!???
そう思った時には目が覚めた。
そして神託の通り空を見た。
光る球が空から落ちてきて……
―――ドスン!!―――
何かが落ちた音と地面が振動したのが伝わった。
慌てて2人を起こして問題の地点に向う。
2人には悪いが、急がないとここは魔王の領域内だ。
「
スキルを使いさらに急ぐ。
周りの景色が物凄い勢いで後に流れて行く。
女神様から頂いたこのスキルがあれば大体は何とかなった。そしてこれからも。
感覚的にはそろそろかな?
そう思っていたら……
「チン◯には気を付けて。触ると
突然の神託。
目の前の木にぶつかりそうになる。
「え!?チン……?なんですか!!?」
「チン◯には気を付けて。触ると
情報が多過ぎる!!
いきなり女神様どうした!!?
何!!?何!!?え!?
混乱したまま森の中を駆け抜けていたら木々が不自然に倒れて地面が
ここだ。
そして中心に……
光に包まれた……全裸のオッサンがいた。
腰に手を当て堂々と立っていた。
そして満面の笑みだった。
股間には子供の腕みたいなモノが付いていた。
一気に血の気が引く……
コイツは…
危険だ!!!
そう思うより早く剣を抜いて喉を貫きに行っていた。
数多の魔物を葬ったこの聖剣は、魔王にも効果あると女神様のお墨付きだ。
キン!
と剣先が光の壁に遮られ届かない!!
「くっ!!くそ!!死ね!!」
剣を振るう!
両手に1本づつ聖剣を持ちありったけの力で斬りつける!
細身だが突くだけでは無く切れ味も鋭い聖剣は、数多の物を切り裂いてきた。
しかし…
キン!キン!キキン!!
固い何かを斬りつける様な音とともに剣が弾かれる。
「クソクソクソ!!チクショウ!!」
剣を振るえど光の壁に阻まれる。
……もしかしてこれは魔法の防御か!?
ならば壁の先に剣を通せば本体を貫ける!?
魔法使いが使う魔法防御は経験済みだったので女神様から貰ったスキルも使いつつ攻撃方法を切り替える。
「
移動に使っていたがさらに重ね掛けする。
これで全ての動きが早くなる。
聖剣を2本揃えて右肩の位置に構えて集中して…
「
2本揃えたまま一気に右上から左下に斬りつける。
すぐさま左下から右上に切り上げる。
体に纏っていた力を剣に移し斬りつける事で、剣先よりも遙か先の空間を斬ることが出来る技だ。
習得者はそう多くない。
しかし……手応えはあれどオッサンはピクリとも動かなかった。
後にある岩が削れただけだった。
「ハラペコ?トンコツミソ?」
すっとぼけた顔でこっちを見てくる!
次こそは!
右手の剣を右の腰、左手の剣を左の腰の位置に構えて集中する。
「
両の腕から繰り出される高速の連撃は、空間すらも超越して相手を貫く。
魔法の壁を展開されたとしても、壁の先の相手を貫くこの技ならば確実に……
貫け……てない……
突きを繰り出す度にオッサンの奥の岩が削れるだけで、オッサンは無傷だった。
それどころか「ヤサイマシマシ?」とか笑顔で煽ってくる。
繰り出した突きは確実に空間も超越している。
その証拠にオッサンの後の岩はすでに何度も削られて半分以下のサイズにまでなってきている。
しかしオッサンは無傷だ。
こわい。
泣きそうになりながら剣を繰り出し続けていると不意に目の前の空間に文字が浮かんだ。
『その男は敵じゃない。攻撃を止めて。』
その文字を見た瞬間……
涙が溢れてその場に座り込んでしまった。
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