第3話 無力な神

神は考えた。そして書を記した。自らの過ちを記したのだ。かつての過ち、神を魔の王と称し、人間たちを騙し、生贄を捧げさせたことを。


人間たちは思い出した。過去の苦しみを。勇者を讃える像は消え去り、神を憎んだ。人間たちは力を持っていた。神が与えた魔法の力である。元は世界に彩りを与える力であった。すでに、彩のない世界にもはや彩りを求めるものはいなかった。


人間たちは科学を作った。世界の根源を求めた。人間たちはついに突き止めた。世界の根源とは神であった。


人間たちは根源を取り戻した。魔法で神を殺めたのだ。神を殺めた者は勇者と崇められた。彼は傲慢に取り憑かれた。


彼は荘厳な教会を建てた。人間たちは彼を崇めた。彼は従わぬものを罰した。


人間たちは彼を憎んだ。彼を殺そうと考えた。ある科学者は気づいた。自分たちが繰り返していることに。彼は、二度と繰り返さぬよう星の周りに月を創った。


人間たちは月を眺め、怒りをおさめた。月の上では兎が餅をついていた。祝祭では餅を投げた。うさぎからの贈り物として人々は有り難がった。


世界は平和になった。


そしてまた、人間たちは月を作った科学者を崇めた。神を作った科学者である。


しかし、世界に混沌は訪れなかった。人間たちは知っていた。人間たちの過ちを。混沌を引き起こした過ちを。


二度と混沌は訪れぬ。







世界とは永遠の混沌と平和の繰り返しだ。



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