15 ポンコツ旅人の異世界冒険譚
どうも皆さんこんにちは。
私はしがない旅人のナスカという者です。
遥か遠くにある故郷から旅立ち早五年。
そんな私は今、森を彷徨っています。
いやー困った事にモンスターから逃げている際、手に持っていた地図をどこかで落としてしまったみたいです。
まったく、これからどうしましょか。
よく知らない場所を適当に歩くのは、あまりいい事とは言えませんし、かと言ってその場に留まったままだと、助けを呼ぼうにもその手段が限られてしまいます。
私はまるっきり魔法が使えませんので、助けを呼ぶとなると喉で勝負しないといけません。
まあ引き籠もってばかりの過去を持つ私の喉からは、雀の涙程度の小さな声しか出ませんけど。
本当に困ったものです。
「はあ……」
私のため息が辺りの空気と同化し消えていく。
側にあった切り株に腰を下ろした私は、現実を逃避するためにどこまでも続く青空を見上げた。
こんな事なら、あの時家を飛び出さなればよかったと、今になって、いやずっと前から後悔の念が私を襲っていた。
「はあ……」
再度ため息を吐いた。
昔おばあちゃんが、ため息を吐くと幸せが逃げてしまうと言っていたのを思い出した。
もし仮にそれが本当なら、私の幸せメーターはゼロを突破してマイナスを駆けているだろう。
ガサガサ
「うん?」
突然、目の前の草むらから音がした。
私は背負っていた大きなリュックサックを盾にして隠れた。
魔法が使えない私にとって、超低級だろうとモンスターは強敵。
願わくば上手くやり過ごせますように!
「ここにもおらんな……兄弟何処行ったんや? って、あんた誰や?」
「ぎくっ――」
驚き過ぎて変な声を出してしまった。
「どっ……どうも……」
弱々しく声を震わせながら、私はリュックサックの裏から姿を現した。
そこにいたのはスライムさんと
しかもスライムさんの方は幽霊のような、ドラゴンのようなモンスターさんを体に縛り付けている。
「お前さん……人間か……?」
「えっ? あっはい」
私がそう答えると、スライムさんは突然戦闘態勢に入った。
「ひいぃぃぃ! 殺さないでくださいぃぃいい!」
私は再度、リュックサックに身を隠す。
たしか喋るモンスターというのは、ランクが高くとても強い魔法を使うと旅の途中で聞いたことがある。
ひょっとしたら私の人生はこれで終わりかも……。
「お前さんに聞きたい事がある」
「はい……なんでしょうか」
私は少し顔を出して、相変わらず戦闘態勢のスライムさんを見る。
「まず一つ、白い小さな竜をこの森で見なかったか?」
「見てない、です」
「そうか……。答えてくれてありがとうな」
「はっ……はあ」
そうして彼らは私の目の前から去ろと背を向けた。
あれ? 私助かった?
「あっ、あの!」
「おん?」
「私を、食べたりしないんですか?」
「なんでや? わいらにはお前さんを食う理由がない」
気付いたら私は、スライムさんたちに変な質問をしていた。
きっと、何故助かったのか知りたかったのだろう。
私には気になった事をすぐ知ろうとする悪い癖があるのだ。
これで何度命を落としかけたのやら。
「もう行ってええか?」
「あっ……それじゃあ私も、一つ聞いていいですか?」
「なんや?」
「誰かを探しているんですか?」
「まあな。わいの兄弟や」
寂しそうに答えるスライムさん。
私には悪い癖がもう一つある。
それは困っている人を見ると無視できないというものだ。
気付いた者として、相手が人だろうがモンスターだろうが助けたいと思ってしまう。
そのせいで、実際に命を落とした訳だけど……。
「あなたのご兄弟探し、私にも協力させてください!」
「え?」
「え?」
■◆■◆■◆
「ここが兄弟が最後にいたと思われる場所や」
「なるほどです」
私はスライムさんたちに付いて行き、スライムさんのご兄弟であるユウさんが、最後にいたと思われる場所に訪れていた。
その場所は酷く荒れていた。
大きなクレーターに乾いた血の跡。
そして消えかけている足跡の数々。
「少し時間をください」
「ああ……ええけど」
私はこの場所にある全てに目を通した。
そして思考を巡らせていく。
まず二つの靴跡。
サイズは二つとも27.5ぐらいでしょうか。
女性でこのサイズはあまり見ないし、この靴跡は男性二人組のものと仮定しましょう。
そして血痕の近くにあるそれぞれサイズの違うモンスターの足跡。
これは多分、モンスターの兄弟か親子のもの。
最後に全く違う、指が三本の小さな足跡がユウさんのものですか。
スライムさん……ゼラさんから聞いた話だと、ユウさんは寝ている途中、物音がして目を覚ました際にはすでに姿を消していたとのこと。
何故ユウさんは姿を消したのでしょうか。
ゼラさん曰く、ユウさん以外の足跡には見覚えがないとのこと。
そしてユウさんも多分同じだろうと。
となるとユウさんは、モンスター二匹と男性二人組とは面識がなし。
多分、ユウさんが姿を消した理由もゼラさんと同様に音によるものでしょう。
男性二人組とモンスター二匹の争いの音。
それに気が付いて、音の正体を確認する為にゼラさんたちから離れた。
となると、確認し終えた後にゼラさんたちの下へ戻ればいい。
しかしユウさんは戻らなかった。
一体何故?
「ゼラさん、ユウさんってどんな方でしたか?」
「そうやな、優しくて勇敢な奴や。たしかこう言っとったな」
「……?」
「目の前で苦しんでたり、消えそうな命があるのなら、僕はそれを気付いた者として無視するわけにはいかないって」
それを聞いて、私はユウさんに不思議な共感を覚えた。
多分、私とユウさんはどこか似ているのだろう。
そう思えて仕方なかった。
「ありがとうございます」
お礼を言い、私は再度足跡に目を通した。
そしてユウさんの足跡を追っていく。
最初は側の草むら、そして次はそこから少し前に出た大きなクレーターの辺り。
最後はその右側。
段々とパズルのピースが嵌っていくみたいに、私の頭の中で全てが繋がっていく。
「……ユウさん。あなたに一度会ってみたい」
頭の中の、私の想像でしかない彼に触れ、私はそっと目を閉じた。
カチッと最後のピースが嵌る音がした。
「ユウさんは多分、ファンバニル王国にいます」
私は目を開いてゼラさんを見つめた。
「ファンバニル? それはなんでや?」
「全部私の推理ですが、まずこの靴跡の二人組とモンスター二匹。
このモンスターたちは二人組に襲われていたのでしょう」
「そりゃあまあ、血の跡とか見れば大体想像はつくっちゅうか、しかしなんでそれがファンバニル王国に?」
「まあそれは置いといて」
「置いとくんかい」
一息ついて私は話を続ける。
「二人組はハンターと呼ばれる人たちの可能性が高いです。
モンスターを狩れるのはギルドでのクエストや、王国の騎士団たちのみ。
理由はモンスターは我々人間からすれば、貴重な資源で食料だからです」
「じゃあなんで二人組はハンターなんや?」
「それはギルドでクエストを受けるには、最低でも四人一組のパーティーを作らないとですし、騎士団がモンスターを狩るのも、国が襲われたとか、そういった場合のみです」
「なるほどな」
「ハンターというのは大金さえ貰えれば無理矢理モンスターや亜人、人間など攫う輩と聞いています」
「たしかに、この足跡の正体はハンターの可能性が高いっちゅうわけや」
「ユウさんは多分、ハンターに襲われていたモンスターを助けようとしたのでしょう。
そしてユウさんは、ゼラさんの話を聞く限りだと世にも珍しい凶暴性の低い竜種。
お金第一の彼らにとって、ユウさんという存在は大金そのもの」
そう、だからユウさんはハンターに攫われた。
最後に、と私はユウさんがファンバニル王国にいるかもしれない理由を語る。
「ハンターが攫った人たちというのは、依頼主に引き渡される場合や奴隷売買のオークションにかけられる場合があると聞いたことがあります。
ユウさんの場合は後者でしょう。
奴隷売買は違法、そんな事はすればすぐさま騎士団に捕まります。
しかしそれは法が存在すればの話です」
「どういうことや?」
「ファンバニル王国の地下には、無法都市があるという噂があります。そこには法が存在しないので、違法な売買などが頻繁に行われていると」
「無法都市……そこに兄弟がいる」
「はい。ですがすいません。噂なので確証はありません」
「うーん」
今話した全ては私の推測。
証拠は殆どないようなものだし、結局は想像の域を出ることはない。
ただもし、少しでも可能性があるのなら。
「よし。ファンバニル王国に向かおう」
「えっ? 本当ですか?」
「ああ勿論や。兄弟がそこにいるかもしれないという可能性が少しでもある以上、向かわんわけにはいかんからな。それに、わいらの元々の目的地はファンバニル王国やし」
「はっ……はあ」
「それじゃあ、早速向かおうか」
そうしてゼラさんたちは進み始めた。
私と彼らはここでお別れ――
「何をしているん? 早う行こうや。えっと……」
「ナスカですって私もご一緒していいんですか?」
「勿論や。それに言ってたやろ、ユウに会いたいって」
あの独り言を聞かれてしまったのか……。
恥ずかしい!
「さっ、行こうか」
「はい! ポンコツですがこのナスカ、全力でお供させていただきます!」
そうして私たちはファンバニル王国を目指して、歩みを進めた。
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