7 次回、主人公死す――デュエルスタンバイ!

「キョメーキョメキョーメ!」

「……どうする?」

「どうしよ」


 僕たちはあの不思議な所から場所を移し、久しぶりにゼラの棲家へと訪れていた。

 海のように透き通った青の瞳で、体長五十センチ程のぱっと見ポ◯モンのドラ◯シアみたいなキョメーと鳴く謎のモンスターも一緒に。

 ていうか宙に浮けるのかこいつ。


「こいつは何なんや? 精霊かはたまた悪魔なのか」

「それなんだけどさ……」


 僕は言葉を濁しつつゼラに全て話した。


 このキョメーと鳴くモンスターを召喚した直後、僕は毎度の如く魂之叡智を使った。

 するとどういう訳か、このモンスターについての情報が一切流れてこなかった。

 またかよっと、僕はそう心の中で嘆いた。


「なるほどなあー。なんや最近そういう事だらけやな」

「面目ねえ」


 軽く返事をして、僕はキョメーと鳴くモンスターへ顔を向けた。

 僕たちの事が気になるのか、顔を傾げて不思議そうにしている。

 僕はそんな奴の頭を撫でて、魔法で適当にそれっぽいオモチャを作って渡した。

 どうやらかなり気に入ったのか、大事そうに胸に抱えている。

 その姿はまるで天使のように可愛い。

 

「まあ召喚したのは僕たちだし、こいつにも外の世界探しを手伝ってもらおう。これだけ広い迷宮なんだし、数は少しでも多い方がいいでしょ」

「せやな。よろしく頼むで、キョメちゃん」


 ゼラはそう言いながらキョメちゃんを撫でたって、


「キョメちゃん?」

「ああ、キョメーって鳴くからキョメちゃん。種族名すら分からんのなら、こいつを呼ぶ時名前があった方が何かとええやろ」

「それはそうだけど」


 安直すぎないか?

 それに名前ってそうポンポン付けていいものだったっけ。

 まあゼラに名前付けをした僕があまりとやかく言う筋はないけど。


「よろしくキョメちゃん」

「キョメーー!!」


 キョメちゃんは宙で一回転して、僕たちの周りを嬉しそうにぐるぐると回った。

 

「それじゃあ正式に一匹増えたところで……」

「外の世界探しの再開だな」

「キョメー!」



◽️◆◽️◆◽️◆



 キョメちゃんが加わってから三日ぐらい経過した。

 数も増えた事により僕たちの迷宮探索に拍車がかかる。

 まあ未だに収穫はないけどね。

 

「ってあれ? ゼラとキョメちゃん何処?」


 ぼーっとしながら歩いていたら、いつも間にかゼラたちと逸れてしまったようだ。

 僕は辺りを見回した。

 この場所は真っすぐ道が続いており、左右にも道がある。

 それが十メートル程の間隔でいくつも存在していた。

 僕は目の前や左右の道を覗いていく。

 

 すると、先程の場所から二十メートル程の歩いた所の右の道に、ゼラとキョメちゃんの姿を見つけた。

 

「あっ、いたいた」


 僕はゼラたちの元へ翼を動かす。


「おっ兄弟。何処におったんや」

「ごめん。ちょっとぼーっとしてて」

「まあええわ。それよりこれ見てみ」


 ゼラに促されて、僕は顔を左に動かした。

 そこには錆びれて赤茶色くなった大きな門があった。

 僕の体が小さいからあれだが、高さは三十メートル以上あるんじゃなかろうか。

 門全体に彫刻が施され、上下左右に鎧を纏い中心に向けて剣を翳している人物が彫られている。

 ちなみに門の中心部には太陽のような球体が。

 

「こんなのあったんだ」


 何者も寄せ付ける事のない圧倒的な迫力を放つその門を見つめて、僕は小さく呟いた。

 

「ゼラは前に見たことがあるのか?」

「いや……ないな。初めて見た」

「キョーメ」


 僕たちはみんな、この門に釘付けになったいた。

 そして僕は直感で理解した。

 ここはまずい、今すぐに離れた方がいい、と。

 一体何がそう感じさせたのか、この門なのか、それとも門の奥からひしひしと伝わってくる異様な気配からなのか。


「ゼラ……」

「ああ。兄弟の言いたい事は分かる。ただ、この奥なんやないか。外の世界は」

「それは――」  


 否定できない。

 こんな門は今までの迷宮探索で見たことがない。同じく外の世界も。

 この奥が外の世界に繋がっているかなんて分からないが、求める者としては門の奥を確認しないという選択肢はない。

 それにこんなあからさまにやばい門なのだ。

 重要な何かはあるだろう。もっとも、そういった心理を逆手に取った罠かもしれないが。


「スキル発動」


 どうやら門自体には罠はないよう。

 触れたら爆発って可能性はゼロだ。

 そして、この門は境界門という名前らしい。

 

「何かと何かを区切る役目を担う門、か」

「つまりは外と中を……」

「可能性はあるな」

「キョーメ?」


 キョメちゃんには難しかったのか、体全体を傾げてハテナマークみたいになっている。

 

「いいものがあるかも、って事だ」

「キョメー!」


 どうやらいいものという言葉に反応したキョメちゃん。

 可愛いやつだ。


「さて、どうしようか。開けて奥に進むとしても、このサイズの門は僕たちにはちょっと」

「わいがスキルを使えばなんとかっちゅう感じか」

「あるいは門を少し破壊するか」

「そっちの方が楽やな」


 てな訳で、門の端を少し破壊するとしよう。

 また奥から大量の外魔力が流れてくるかもしれないから、警戒して少し距離を取って壊す。


 では発動、中級魔法『衝雷インパルス

 僕が使える最大火力の魔法で、今まで一度も実戦で使った事のない魔法だ。

 まあ戦いはあの毒巨大蟻たち以降してないんだけど。

 

 僕が右手を翳すと背後に山吹色に輝く魔法陣が出現する。


「衝雷!」


 直後、門に向かって雷の矢が放たれる。


「よし。丁度いいんじゃないか?」


 僕たちがしっかりと通れるぐらいに門の端が壊れた。

 その後、すぐにスキルを発動させる。

 うん。外魔力は溢れてこない。

 それに何かやばそうなモンスターが出てくる気配もない。

 取り敢えずは大丈夫そうだな。


「入っても大丈夫だよ。勿論、警戒は怠らずにね」

「了解」

「キョメー」


 おっと、一つ言うのを忘れてしまった。


「一応キョメちゃんはお留守番ね。門の奥に何があるか分からない以上、キョメちゃんには危険過ぎるから」


 と、僕はキョメちゃんの周りに魔法で小さなテントを作り出した。


「キョーメ! キョメ!」

「いい子だからそこで待っててね」


 そう騒ぐキョメちゃんを一瞥して、僕とゼラは門の奥へと進んだ。


「ええんか?」

「大丈夫。安全って判れば、キョメちゃんも一緒に連れて行くよ」


 少し不安そうなゼラを説得する。

 勿論僕にだって不安はあるが、もし仮に戦闘となった場合、戦えないキョメちゃんを守りながらじゃ僕たちも、キョメちゃんの安全だって保証できない。

 それで全滅したんじゃ、色々と報われないしね。

 僕たちがキョメちゃんから離れている間に、他のモンスターに襲われても大丈夫なよう魔法で防壁(テント)を作った訳だし、何より僕たちは門の奥で長居するつもりはない。

 パーっと行って、シャーって帰る。

 それだけだ。


「お邪魔しまーすって、暗いな。何も見えない」

「《ファイヤ》 これでちょっとは見えるやろ」


 ゼラが魔法で灯りを燈す。だが、それでもまだ暗い。

 目の前には何処までも続く深淵が広がっている。

 外の世界を探すにしろ、これほどの暗闇じゃ埒が明かない。


「スキル発動」

 

 なにかと便利な僕のスキル、魂之叡智を使って安全確認。

 これなら暗闇でも多少は何があるか分かるだろう。

 うーんと、ええ土に石に、魔鉱石? なんだそれ。

 それに前方に一箇所、そこだけ外魔力が大量に存在したいた。

 量だけで言えば、キョメちゃんを召喚した場所の例のあれ並み。

 それだけで気持ち悪くなったので僕は即座に治癒を使った。

 

 しかし、外魔力って辺りを漂うものじゃなかったっけ?

 あんなに一箇所に集まっているのは初めて見たぞ。

 変なの。


「まあ安全そうだな。ゼラ、キョメちゃんを呼びに行こう」

「了解。それにしても暗いな。もっと灯りが欲しいわ」

「逸れないようにしよう。これじゃあ合流も難しいだろうし」

「そうやな。なんなら手でも繋いだろか?」

「やめろ恥ずかしい」


 と、僕たちがそう踵を返した時だ。

 

「キョメー!」


 突然、背後でキョメちゃんの声が響いた。

 それと同時に何故か体中を駆け巡る嫌な予感。

 急いで振り返ると、キョメちゃんが闇に向かって叫んでいた。

 

「キョメちゃんのやつ、何をしてんねん」


 そう近寄りに行こうとするゼラを引き留める。


「どないしたん?」


 僕がなんでそんな事をしたのかは分からない。

 でもきっと、これは本能が働きかけていたのだろう。

 ただひたすらに、やばいと。

 

「キョーメ!」


 再度、キョメちゃんの鳴き声が響いた。

 状況が嫌な方向に変化したのはこの時からだ。


 突如として辺りに明かりがつく。

 

「なっ……!?」

「ヒッ――」


 それを見た瞬間、僕たちは呼吸を止めた。

 いや、恐怖でする事すら忘れてしまったのだ。


 門を見た時に直感で離れた方がいいと理解した訳が分かった。

 今までにない勢いで、全身がうるさく危険信号を出している。

 しかし僕は一歩も動けなかった。

 すぐさまこの場から去りたいのに、一歩でも動けばこの世から去ってしまう。

 

「グルル……」


 奴は低く唸った。それと同時に僕は死を覚悟した。


 僕たちの目の前にいる巨大なグリフォンが、殺気のこもった鋭い眼光で歩みを寄せてきた。

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