6 運命の歯車

 調べるとなると、まず目で見ることから。

 まじまじと観察するが、至って普通の道が続いているだけ。

 奥には何やらモンスターの動く影が見える。

 ただ道に向けて水鉄砲を放つと、チャポンと音を立てて波紋を広げて消えていく。

 どうやら道の目の前に何かがある事は間違いない。

 

 さて見るの次は、実際に検証。

 水鉄砲以外の魔法を使っても反応は同じ。

 てな訳で、


「スキル発動!」


 ゼラがそう声を上げる。


 作戦はこう。

 ゼラの分身体をこの道へと進ませる。

 そして数分程時間を置いた後に、僕たちの元へ戻ってもらう。

 もし無事に分身体が戻ってくれば、道の先の安全度は高まるし、戻って来なければ危険って事ですぐさま右へ進む。

 我ながら中々いい作戦だ。


「ほな、行くで」

「ああ頼む」


 ゼラの分身体が一匹、ポヨンポヨンと弾みながら左の道を突き進む。

 そして、とぷんと音を立てて、まるで水の中へ落ちていくかのように消えていった。

 不思議な事に道の先には分身体の姿はない。

 比喩とかではなく本当に消えてしまったのだ。


「さて、どうなるか」


 ただゆっくりと時間が過ぎていく。

 その間、モンスターに襲われないよう辺りの警戒は怠らない。

 

 


 五分程経過しただろうか。

 そろそろいいだろう。


「戻してくれ」

「ああ、了解」


 ゼラがそう言ってから数秒すると、とぷんと再度音を立てて、分身体が弾みながら帰ってきた。

 ぱっと見目立った外傷はない。


「どうやら、何もなかったようだな」

「ああ、となると………」

「進みたいのか? ゼラ?」


 何やら僕の隣でウズウズしているゼラ。


「いやー……ただちょっと気になるっちゅうか……行ってみたいっちゅうか……」


 声を小さくして、何処か言い難くそうにするゼラ。

 要するにこの不思議な道を進みたいそうだ。

 

 まあ僕としてはいいけど、いいかゼラ。

 勇敢と命知らずを履き違えるんじゃないぞ。

 ひょっとしたら最初に会った時に死にかけていたのは、他のモンスターの争いが原因ではなく、ゼラが変に首を突っ込んだからなのではないだろうか。


「どないしたんや兄弟。わいの顔になんか付いとるか?」

「いや、なんでもない。それよりも進むとしようか。一応、途中途中でゼラのスキルや僕のスキルを使って安全確認しながらね」

「ホンマか兄弟……!!」

「行きたいんでしょ」


 嬉しいのか、僕の周りをぐるぐると動くゼラ。

 こんなにはしゃぐゼラを見たのは、先日の名付けの時以来だろうか。

 

 僕たちはゆっくりと道の前へと進んだ。

 そしてまずはゼラからだ。

 生やした手を少しずつ伸ばして、道の目の前にある何かに触れた。

 ちゃぽん、そう音がなるとゼラはどんどんと手を押し込んでいく。

 暫くしてゼラの全身が飲み込まれるようにして消えた。


「次は僕か……」


 僕もゼラ同様に少しずつ、ゆっくりと手を伸ばしていく。

 そして何かに触れると同時にその手を押し込む。

 少し怖い気持ちもあるが、覚悟を決めた僕は目を瞑って一気に入り込んだ。



■◆■◆■◆



「スキル発動。そして治癒」


 左の道の何かに入り込んだ僕は、すぐさま魂之叡智を使って罠がないか確認をする。

 どうやらここは一本道が続いてるだけのよう。

 左右の壁や道の先の地面や天井には……よし、罠はないな。

 うーんでも何故だろうか。

 こんなにもこの空間に違和感を感じてしまうのは。


「なあ兄弟。なんか変やないかここ?」


 どうやらゼラも同じ事を思っている様子。


「そうだな、なんかおかしい」


 さて、何がこうも違和感を感じさせるのだろうか。

 辺りを見回すがそうだな、とくにこれといったものはない。

 至って普通の、この迷宮内には何処にでもある道。

 なんも変じゃないんだけどな。

 なんでだろ。


「まっ、進んでみようか」

「そうやな」


 そうして僕たちは歩みを進めた。

 


■◆■◆■◆



 七分ぐらい歩いただろうか。

 道中では常に辺りに気を配っていたが、とくに目に見えてやばそうなものはなし。

 というか、何ならこの道にはびっくりするぐらい何もない。

 あるのは壁と床と二メートル程の高さをした天井のみ。

 まじでこれだけ。

 モンスターもいなければ、何なら小石一つすらない。

 でもどうやら外魔力はいっぱいあるらしい。

 途中途中で魂之叡智を使うのだが、使った瞬間に外魔力という文字が頭の中に千個程流れてくる。

 おかけで最高に気持ち悪くなったので、ゼラに隠れて軽く吐いた。

 

 そしてこれは僕の推測なんだが、外魔力というのはその量が濃すぎると身体に影響が及んでしまうのではないだろうか。

 理由としては、僕はここに入った瞬間から少し気持ち悪かったし、何ならゼラも、


「少し酔ってしもたか……」


 とどこか辛そうにしていた。まあ治癒しといたけど。

 とにかくこの膨大な量の外魔力による身体への影響が違和感の正体だろうか。

 よく分かんないけど本当に不思議な場所だ。


「おっ、なんやあれ?」


 僕の少し前を進んでいたゼラが何かを発見したようだ。


 少し駆け足でゼラの所へ向かう。

 すると、僕たちの視界の先で何やら青白い光が放たれていた。

 僕とゼラは互いに顔を見合って、ゆっくりとその光へと足を進めた。

 

「……こいつが光を」


 僕は呟いた。

 青白い光の正体は地面に描かれた魔法陣のようだ。

 そしてどうやらここで行き止まり。

 魔法陣の奥は壁だ。

 

「魔法陣か……せやかてなんでこんな所に」


 不思議そうにゼラはまじまじと魔法陣を見つめていた。

 そんな横で僕は小さく言う。


「スキル発動」


 こういう時こそ僕のスキルだ。

 

 発動と同時に魔法陣についての情報が無尽蔵に流れてくる。

 治癒を発動しているので頭痛はない。

 それでもやっぱりいい気分ではない。

 と、そんな事はいいか。


「なるほどな。ゼラ、これは召喚魔法陣というらしい。魔法陣に触れて魔力を流すと刻まれている魔法が発動するんだって」

「召喚魔法陣、か。これが……」

「どうかしたか?」

「いや、なんでもあらへん。それでどうする? 使ってみるか?」

「そうだな……」


 試しに使ってみるのもありかもしれない。

 魂之叡智によると、この召喚魔法陣で呼び出せるのは低級から中級までの精霊、それと悪魔にモンスター。

 それらがランダムで召喚され、召喚された者は強制的に魔法の発動者と主従関係が結ばれる。

 精霊や悪魔はモンスターじゃないのか? って思ったが、それはこの魔法陣と関係ない事だから流れてこなかった。

 

「使ってみるか」


 そうして僕は魔法陣の側へと寄った。

 生まれて数ヶ月の竜の小さな両手で魔法陣に触れる。

 そして僕の魔力を流す――


「あれ? 何これ?」


 前に気付いた事があった。

 奥の壁、その端から紫色の光が漏れている。

 

「ゼラ、ここ見てよ」

「なんや?」


 僕は一旦魔法陣から手を離して、ゼラと共に紫の光へと近寄った。

 

「この壁、行き止まりかと思ったけど奥に何かあるな」

「せやな」


 壁を軽く叩くと、コンコンと軽い音が返ってくる。


「ちょっと壊してみるか」


 勿論、スキルで警戒はしながら。


「いいかな?」

「ちょっとならええやろ」

 

 そうして僕は魔法で壁を少し破壊した。

 そして思う。変な壁はあまり壊さない方がいいなと。


「「……………おぇぇぇえ!!」」


 壁を壊した瞬間、僕たちは勢い良く吐いた。

 

「なんだ……これ!! オェええぇエエエ!!! 頭が……アガァァァァァアアアアア」


 今までにない勢いで脳内に流れてくる外魔力という文字の数々。

 頭が焼き切れそうだ。

 このままじゃあまずいぞ。

 

「なんやこれ!! 兄弟!!!! おぇぇぇええ……生きとるか!!」

「あっ……ああ……」

「あかんやん!! クソっ……スキル発動!!!」


 ゼラが大量の分身体を出して僕が壊した部分の壁を修復した。


「……っとやったか。一応、壊れた部分をわいの分身体で埋めたが……おえぇ……応急処置やな」

「ああ……助かった」


 まだかなり気分が悪いが、取り敢えずは一命を取り留める事ができた。

 しかし何だったんだ今のは。

 大量の外魔力もそうだが、とくにそれらにじって脳内に流れてきたは一体――まあ忘れるとしよう。

 てか思い出したくもない。


「どないする兄弟……わいはもうここから去りたいで……」

「それは僕もだよ。何も考えずに壁を壊すんじゃなかった。巻き込んでごめんなゼラ」 

「ええよ」


 それじゃあ、元々やろうとしていた事をしてこの場を早めに去るとしよう。


 僕は先程の余韻で少しフラつきながら魔法陣に手を置いた。

 そして魔力を流していく。


 するとどうだろう。

 突然魔法陣の光が強くなり、僕の周りを甲高い音が包みそれが辺りに反響した。

 そして目の前に白く光った出現した。


 さて何が出てくるか。

 なんて思っていると、遂にその何かが姿を現した。


「キョメー――!!!!」

「え?」

「なんや……こいつ」

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