3 目指す目標は……

 人間やモンスターに存在する切り札。

 体魔力の量が関係なく、弱者でも強者を倒せる。

 それがスキルだ。


 そしてこれが僕の――


「………ってうん? 何も起きない?」

「………何も起きんな」

「そんな事あるの?」

「いやないはずなんやが……」


 だが現に起きている。

 何故だ? 何故僕のスキルは発動していないんだ。

 まさか、僕が転生者だからなのか、ってあれ?

 

「まっ……まあ、もう発動していて気付いとらんとちゃうか?」

「そんな事あるのか?」

「勿論や。スキルっちゅうのは全部が全部同じとちゃう。人やモンスターの数だけあるんや。わいみたいに発動が分かりやすいものもあれば、分からんくらい複雑なものもある。それがスキルや」

「なるほど……」

「そう落ち込むんやないで。後で一段落ついたら、また試せばええんや」


 スライムは僕を励ますように、優しくそう言ってくれた。

 たしかに、スキルが上手く発動しなくてショックだったのは事実。

 だがそれ程落ち込んではいない。

 スキル発動と言った直後、ほんの一瞬だけだが僕の脳内で何かが起きた。

 知らない情報が流れ込むような不思議な感覚が。

 具体的に言い表せないが、多分その脳内で起こった何かが僕のスキルだろう。

 というか、そうじゃないと本当にショックだ。

 うん。ちょっと不安になってきたな。

 大丈夫、僕にもスキルはある。

 まだ発動に慣れていないだけで、時期に上手く使いこなせる筈だ。

 スキルはある、オッケー。

 

「どうかしたんか? そんなけったいな顔しよって……まだショックなんか?」

「あっ、いやそうじゃない。色々と考え事してたんだよ」

「ならええけど……。それじゃ、そろそろまた動き出そか」


 と、ポヨンポヨンと弾みながら進んで行くスライム。

 僕はその後ろへ続いていく。

 

 それにしても、スライムの姿を見ていると、なんというか不思議な気分になる。

 勿論、まだ僕がモンスターという存在に慣れていないというのもあるだろう。

 だがそれだけじゃない。

 あんなに可愛らしい見た目をしているのに、スライムの言動は凄くおっさん臭いというか。

 でもそこがスライムの良さなのかもしれない。

 ちょっと助けただけの僕を兄弟と呼び、色々と優しく教えてくれた。

 僕が転生して初めて会ったのが兄弟スライムで本当によかった。

 ってうん?

 そういえば僕、スライムの名前を聞いてなくないか?

 自己紹介の時も名乗ってなかったし、スライムってのは個体名ではなく種族名の事だろう。

 もしかして、スライムの名前ってない……いや多分名乗り忘れたのか。

 うん。多分そう。

 スライムのことだし、名乗り忘れの方が確率は高いだろう。

 まあ、もしかしたら名前そのものがないって事もあるが、そんな訳、


「名前? んなもんあるか。てか名前のあるモンスターの方が珍しいわ」


 全然あった。

 何を当たり前の事を、とスライムは弾みながら言う。

 

 となるとあれ? 僕が名乗った時驚いていた理由って………。

 ひょっとしたら、僕は無自覚でやらかしてしまったのかもしれない。

 ていうか完全にやらかしてる。

 けどまあ過去は変えられないし、別にいいか。

 名前持ちモンスターが珍しいって知らなかったしね。

 

 それにしても、なんで名前持ちは珍しいのだろうか。

 全モンスターがスライムみたいに種族名しかなければ、同じ種族間で特定のやつを呼びたい時にかなり手間になってしまう。

 種族名なんて皆の前で言ってみろ。

 皆こっち見るぞ。

 それともゲームみたいに、スライムAとかBとかで判断しているのだろうか。


「なあ兄弟。どうして名前持ちは珍しいんだ?」

「そりゃあ名前が神聖なもんやからや。わいはモンスター、つまりは魔の物。神聖という言葉とは真反対の存在や。

 だからモンスターの殆どには名前があらへん。人間たちが昔から呼んでいる種族名以外はな」

「なるほどな。それでも、珍しいとか、殆どって表現してる訳だから、名前持ちのモンスターもいるんだよね?」


 僕がそう尋ねると、スライムは一瞬だけ黙り込み、何かを考えたようだった。

 だが、少し経つとゆっくりと喋りだした。


「そうなや。いることにはいる。だが、わいらとは次元が違う存在や。よっぽどの実力があり、それこそ神にも到達する程の奴が名前を持ってる」

「そんな奴が………」

 

 僕から尋ねた訳だが、なんか神とか規模がでか過ぎる。

 というか待てよ。つまり今のスライムは、僕を神レベルの実力者だと思っているのか?

 流石に訂正しておいた方がいいな。

 なんて思っていた時だ。


「ここや。着いたで!」


 スライムはそう言うと、弾むのを止めた。

 

「ここがわいの棲家や」


 そう言えば、何処を目指しているのかとかあまり気にしていなかった。

 モンスターの争いに巻き込まれない安全な場所とは聞いていてが、なるほどここが。


 壁を掘って造られたその場所は、地面より少し下がった所にあり、入口にはダミーの壁がある。

 中へ入ると二畳程の空間が広がっており、真ん中近くの地面に小さな凹みがあるだけ。

 その他は何も無い。


「この凹みがわいの寝床や」

「寝床だけとは、随分シンプルな部屋だな」

「まあ、あんまり物は使わんからな」


 だとしてもな気がするが、部屋のサイズも決して広くはないしな。

 下手に物を置くと場所がかなり取られそうだ。


「ところで兄弟。お前さんは、これからどうするんや?」

「どうすると言われてもなあ」


 うむ。

 たしかにどうしようか。

 この世界については知れたし、スライムからの礼はもう済んだ。

 一緒にいる理由もない。

 まあだからと言って、はいさよならは絶対にしない。

 スライムは兄弟だ。それは変わらない。

 

 だが本当にどうしようか。

 今の僕には目標がない。

 行動しようにも、どう行動して何をなそうか。

 うーん。無難に外の世界を目指してみようかな?

 この迷宮で知れる事も限られている。

 だが外なら。

 それに人間にも会いたいしね。


「……外に出たい。外の世界を見たい。勿論、兄弟も一緒に」

「ああ兄弟! 分かったで!!」


 スライムはどこかやる気に満ちている。

 よし。

 それじゃあ、外の世界を目標にして、この迷宮を探索するとしようか。

 まあ、今日は疲れたし明日にでも、ね。

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