2 スライムさんとこの世界
モンスターに魔法。
僕がそんな異世界に転生したと知ったのは、あの真っ暗な一本道を進んですぐのことだった。
■◆■◆■◆
「うむ……やっぱりか」
一本道を進むと、少し開けた所に出た。
そして分かった事。
どうやらここは洞窟というよりは―――
「まるで迷宮、ダンジョンだな」
辺りの壁は完全に人工物で地面も同様。
それに所々にくぼみがあって、それを押し込むと、
「アッツ!!!!」
とまあ炎やら弓やらが飛んで来る。
つまりはトラップが仕掛けられているわけだ。
これはもう完全に迷宮。ダンジョンだ。
映画とかで見たあれだ。
大きな石が転がってきたり、クリスタルなスカルがあったりするあれなのだ。
「まじかー」
僕はなんて危険な所で生まれてしまったんだ。
これは前世の諸々の知識がなければ、速攻で死んでいたかもしれない。
運がよかった。
けど、こんな所にいる時点で運は悪いよな。
うーん。なんかよく分かんないや。
取り敢えずラッキー。
「とにかく安全そうな場所に―――」
「お? 誰かいるんか!! わいを助けてくれ!」
僕が踵を返そうとした時、どこから声が聞こえてきた。
まさか……人間か?
「おい! いるんやろ! 早う助けてくれ!」
「分かった!」
っと返事をしたものの、僕の視界の中にはそれらしき姿が見えない。
それは辺りを見回しても同じ事。
どこから声が聞こえるんだ?
「そこやない。下や下!」
「え?」
言われるがままに目線を下げて辺りを見回す。
すると少し先の壁際に、瓦礫に埋れている何かを見つけた。
あれか、と僕は辺りのトラップを避けながら、その瓦礫へと急いだ。
そして着くと同時に素早く瓦礫をどかしていく。
「これで大丈夫……え?」
「いや~助かったわー。まさかわいのプルプルボディが埋もれてまうとはな。いや~びっくりびっくり」
「へ?」
「あっ名乗り遅れてしもたな。わいはスライム、勇敢で偉大なモンスターや。助けてくれてありがとう」
「……へ?」
■◆■◆■◆
「なるほどな。お前さんはまだ生まれたばかりなのか。そりゃあわいの姿にも驚くわけや!」
ガハハと豪快に笑うスライム。
見た目は、皆が想像する通りの可愛らしい普通のスライムだ。
ただ口調はあまり可愛くないけど。
スライムを助けた後、僕たちは軽く自己紹介をした。
名前は適当にユウって名乗っておいた。
前世が悠人だったし。
少し気になったのは、僕が名乗った事にスライムが凄く驚いていた事ぐらい。
そんなに変な名前だろうか?
個人的には悪くない気がするが。
あと、色々と面倒になったら嫌なので、転生した事は隠しておいた。
なんか質問されても、答えられそうにないしね。
そして何故彼が(スライムに性別はないらしいが一応)埋もれていたのかを尋ねた。
「いや~腹が減ったから食料を探しとったんや。そしたら、なんやモンスター同士の争いがあっての。その影響か知らんが、気付いた時には天井が崩れて埋もれてしもたってわけや」
「そうなんですか」
「本当えらい危なかったわ。お前さんが助けてくれなければ死んでたかもしれんな」
ガハハと再び豪快に笑うスライム。
死にかけていたというのに、なんてメンタルをしているんだ。
「そんでお前さん、なんか困ってる事はないか?」
「ん? どうしてですか?」
「わいは命を助けてもらったんや。しっかりと礼をしないと、わいの気が収まらん」
なるほど。
そういう事なら色々としてもらおうかな。
例えばそうだな、この世界について教えてください、とか。
色々と知りたい事だらけだったし、少しでも情報が増えるのなら、命を助けた分のリターンにはなる。
てかその他は思いつかない。
「本当にそないな事でええんか?」
「はい! 全然大丈夫です!!」
「よっしゃ! 任せとき!! それと――」
スライムはポヨンポヨンと弾みながら僕に近付いて、ニョキッと手を生やした。
そして僕の肩を力強く掴む。
「敬語は止めてくれ。なんかむず痒くてたまらん。これからはタメ口で頼むぜ、兄弟!」
「えっ、ああ分かった」
……うん? 何故兄弟?
■◆■◆■◆
「とまあ、こんなもんやな兄弟」
先程いた場所で、またモンスターの争いがあると危ない。
ということで、スライムの言う安全な場所へ移動している道中で、この世界の話を聞いた。
ハッキリ言って驚いた。
いや驚いたどころの騒ぎじゃない。
天地がひっくり返った気分だ。
取り敢えず、スライムから聞いたこの異世界の情報を整理するとしよう。
まず、この世界の名称はヴェルド。
ヴェルドは剣や魔法、モンスターが存在する世界。
そして主に東と西に別れており、東が主にモンスターの住む世界。東界と呼ばれ、またの名は魔界。
西が西界と呼ばれ、主に人間や知性を持った凶暴性の低いモンスター、通称亜人たちが住む世界。
一応西界にもモンスターはいるが、東界のと比べると弱いらしい。
そして東と西に分かれた理由というのが、昔起きた人とモンスターの大戦争。
長く続いたその戦争を終わらせる為に、世界を大きな壁で分けたとか。
「まあ、昔の事はよく分からんわ」
ってスライムは言っていた。
次に異世界といえばの魔法について。
魔法の発動には空気中を漂う外魔力、そしてモンスターや人間の体内で生成される体魔力が必要不可欠らしい。
また体魔力の量は発動する魔法の威力に直結する。
体魔力の量が少ないと、それ相応の魔法しか使えない。
ちなみに人間やモンスターは生まれた時から大体の生成できる体魔力の量が決まっているらしい。
魔法の種類は幅広くあり、詠唱なしで簡単に発動出来る威力の低いものや、詠唱を必要とする高威力のもの。
威力の低い魔法は、超低級魔法や低級魔法、中級魔法と呼ばれ、威力の高いものは上級魔法や超上級魔法に最上級魔法、そして伝説と呼ばれる聖神級魔法なるものが存在しているとか。
試しにと、スライムは低級魔法である
水が少しピュッと出る魔法だ。
ちなみに、魔法を使い過ぎると体魔力が底をついて、体が動かなくなるとスライムは言っていた。
なんでも、体魔力は人間やモンスターの動力源、いわばバイクとかでいうエンジンだとか。
そりゃ底をつきたら動かなくなるわけだ。
そして次にこの世界の人間たちについてだが、スライムはこの迷宮生まれで迷宮育ちらしく、あまり人間たちには詳しくなかった。
なんでもこの迷宮には人がまったく来ないらしい。
だが、それでも知ってる事を教えてくれた。
この迷宮の外、人間たちが住む世界には冒険者という職業があるとか。
戦士や剣士、魔法使いなどがパーティーを組み、ヴェルド中にある迷宮や未開拓の地を探索する。
スライム曰く、前に一度だけ、この迷宮で冒険者を見た事があるらしい。
でもすぐモンスターにやられてしまったとか。
そして最後はモンスターについて。
モンスターにはそれぞれ核と呼ばれるものがあり、それを破壊されるか、身体が再生できない程の傷を受けると消滅するらしい。
また核の位置はモンスターによって変わる。
あと、モンスターは魔力を食らうとか。
体が小さければ外魔力で済むらしいが、大きくなると体魔力も食べる。
つまりは、人や他のモンスターを食べるという事。
なんとも恐ろしい。
そしてモンスターにも魔法同様に低級や中級、上級や超上級に災害級、魔王級に聖神級といったランクがある。
ちなみにスライムは超低級。低級ですらなかった。
ランクの高いモンスター程、体魔力の量が多くて高威力の魔法を放ってきたり、知性を持ち、本能ではなく頭を使って戦うとか。
またモンスターの中には群れをなすものや、単独で行動するものがおり、単体だと低級でも群れだと中級みたいなやつもいるらしい。
あとモンスターは成長と同時に進化を遂げるとか。
これは人間にはないらしくモンスター特有のもの。
そして進化をすれば勿論強くなる。
体魔力の量も増えて、使う魔法の威力も上がる。
とまあ大体こんな感じ。
「いっぺんに喋ってもうたが、大丈夫か兄弟」
「ああ……」
大丈夫かと聞かれても全然大丈夫じゃない。
僕は今、生きていた中で一番ワクワクしている。
「それとな兄弟。最後に人間やわいらモンスターに存在する切り札を教えたる」
「切り札?」
「ああ……スキルについてや」
スライムはポヨンポヨンと跳ねるのを止め声を潜めた。
そして辺りを見回しながら僕にスキルについて教えてくれた。
「スキルっちゅうのは、人間やモンスターの一人一人、一匹一匹がそれぞれ持ってるもんや。そしてこれには体魔力や外魔力も関係あらへん」
「つまりは体魔力の量が低く、低級魔法しか使えない人でも――」
「ああ、ものによっちゃ、上級魔法を使う奴を倒せるかもしれんな」
なんと驚いた。
正直、体魔力の話を聞いて量が少ないと人生詰みじゃないかとか思ったが、まさかスキルで上手く世界のパワーバランスを保っていたとは。
「あんまり他の奴に見せるんは危険やが、わいと兄弟の仲や、見せたるで」
「本当か!」
「ああ、誰もおらんよな……よっしゃ! スキル発動」
スライムが小さくそう言うと、ポヨン、ポヨヨンとスライムの姿が増えていく。
その数は十どころじゃない。
二十、いや三十以上はある。
「これがわいのスキルや。能力は大量分身やな」
「すげぇ……けど、魔法にも似たようなのがあるんじゃないのか?」
素朴な疑問をスライムに尋ねた。
たしかに能力は凄いが、魔法でも同じ事はできそうだ。
「まあ魔法にも分身するものはある。だが兄弟言ったはずや。スキルには体魔力も外魔力も関係あらへん。つまりは体魔力が底をつかない」
なるほど。
魔法で分身するなら、分身体を作るのとそれを維持するので体魔力を使うだろう。
勿論、分身体の量を増やせばその分の体魔力を消費する。
体魔力の量が多ければあれだが、少なければいずれは底をつき分身が消える。
だがスキルの場合は体魔力関係なく分身体を作れる。
ならば無限に分身体を作ることだって可能なのだ。
待てよ強過ぎないか?
「その顔、分かったようやな」
スライムが僕の顔を覗き込んでニヤリと笑った。
「そうだ。お前さんのスキルはどんなもんなんや?」
「あっ、言われてみればたしかに」
「なんや、お前さんも知らんのか。それじゃあ後で、誰も見てない所でこっそり使ってみ。わいはどっか別の方を向いて――」
「スキル発動」
「ってえぇぇぇええええ!!!! わいの話聞いとったんか!!?」
辺りに響く程の大声を上げたスライム。
そんなに驚く事だろうか。
「聞いてたよ。でもそっちは見せてくれたんだし、僕のも見せなきゃフェアじゃないでしょ。兄弟」
「おっおう……たしかに?」
「それじゃあ、僕のスキルを見てみよう」
ワクワクする胸を抑えながら、僕は初めて、自分のスキルというものを目にするのだった―――
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