第Ⅲ章 かつての仲間
ヒュウウウ……
不吉な予感の前兆のような激しい風が外で荒れ狂っている。風は物凄い速さで空を渡りそのたびに月の蒼い影が地上に光をおとす。
男はバン、と机を叩いた。握った拳は震え、白くなってもなおとまらない。
「なんということだ……」
不気味に、低く呟くその声すら、表で近付こうとしている嵐の前にかき消される。
「あの方が……あの方がお亡くなりとは!」
ヒゥゥ……
風がまた唸り、表の上空にいくつかの影が奔ったが、男は気が付かない。
「許さん……許さんぞ!」
ギィと扉が開いた。反射的に振り向いた彼は鋭い声で誰何した。扉の向こうには黒い闇しかなかった。
「何者だ」
男は興奮おさまらぬ声で再び問うた。息がきれているのは今の今まで激していたから。 闇の向こうから声だけが響いた。共通語なのだが、ひどくなまりがあって聞き取りにくい上に、くぐもっていてほとんどは聞き取ることができない。辛うじて聞き取ったその言葉は、お前と同じ目的をもつ者、ということだった。
「私と同じ目的だと……?」
声はさらにこたえる。お前と同じように、あの女と、あの男と、あの国に一矢報いてやりたいと願う者。我々はお前と同じ者だ。
「我々……複数なのか」
声はこたえなかった。そして策を授ける、そう言ったのみだった。もうすぐお前と志を同じくする者が現われる。それは我々とも志を同じうする者。その者を受け入れ、あとはその者と話し合うのだ。そして復讐をとげるがいい。
「……そやつはお前の手の者であろう」
警戒して男は言った。闇の向こうで声がくつくつと笑った。不気味な声だった。さしもの男もこれには鳥肌がたつのを感じずにいられなかった。声はひとしきりたつと言う。そうではない。まったくの他人である三者が、利害の一致をみただけ。そして今から訪れる者は、復讐をとげるのに充分すぎる能力を持っている。
「なんだと……」
身を乗り出した男の顔をなまぬるい風がくすぐった。空気が動き、声の持ち主が遠ざかっていくのが気配でわかる。
「待て!」
成功を祈る……。
声が完全に消えた。茫然と立ちすくむ男、開き放たれた扉、表で荒れ狂う嵐。いったいどれだけの時間がたったのか、男はハッとして顔を上げた。
ひとりの男が立っていた。後ろに従者らしき者を三人従えていて、男も含めて全員が黒一色を纏っていたが、男の清冽なほどの黒に比べて、従者たちの黒は、瘴気すら放っていた。
「---------お前が?」
男は信じられないように彼を見た。この男は!
そして黒衣の男は黙ってうなづいた。しばし両者に流れるけだるい沈黙。
「そうか……ふ……ふふふふ」
男は呟いて笑いだした。成功を祈るだと! しないわけがない!
「ははははは……そうか」
黒衣の男は近寄った。そして言葉を交え、自分たちを引き合わせた者の正体、そしてこれからの自分たちの策を話し合う。
カッ……
雷が彼らを照らした。雨がぽつりぽつりと降り始め、不吉な前兆のように不穏な音で風が吹き荒れる。
瘴気が、砂の地を覆おうとしている。
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