あれから 5
5
ノスティの住民たちが暴動を起こしたのは、ケスイストⅢ世に対する暴政への抵抗でもあり、はっきりとしたリザレアに対する服従の意思表示でもあった。リザレアは新しい太守を置いて取り上げた利権を復活させ、ノスティを解放した。参謀アスティの傷は徐々に回復しつつある。今回のことはまったくなにもかもが不思議で、とうとうリザレアを襲ったあの魔法も、ラウラに空を飛ばせなかった波動も、またケスイストⅢ世の言っていた、「奴ら」の正体も、掴むことはできなかった。
アスティは傷を治すためにこうして職務から一旦解放された状態がどうやらいつもの試練のあとの束の間の休息だということを知って愕然としていた。
では自分はまた死ねない……?
アスティは枕によりかかりながら放心して、そう思っていた。こうして休めるのも束の間、この休息に飽きる頃、また何かがやってくる。自分はそういう星の下に生まれた。
ある日セスラスが見舞いに来た。怒っているように、アスティには見えた。
「傷はどうだ?」
「はいだいぶ……」
そうかと彼がこたえると、しばらく沈黙があたりを支配した。だいぶ経ってアスティは顔を上げて言った。
「王。お話が」
すると彼も顔を上げた。アスティは彼を見ないようにして言った。
「私をリザレアから追放……追い出してください」
「アスティ」
予想はしていたようだ。彼は少しも動揺していなかった。
「追放のかたちなら誰でも納得できます。どうか」
「馬鹿を言うな。二千からの勇女軍はどうするのだ。それにオレ達が離れれば、これ以上の不幸が互いの間におこるのはわかっているはずだ」
「悪循環です。そうやってそれを盾にしているから今回のようなことが---------……私はこれ以上、貴方にも王妃さまにも、リザレアの人達に被害を及ぼしたくない……臆病といわれてもいいです。これ以上不幸の担い手と言われるのはもう嫌です……!」「誰もそんなことは言っていない。オレは聞いたことがないし誰も言っていない。
アスティ。オレはお前に無理強いをしているのか?」
「---------」
アスティは黙りこくった。そうではない。本当は側にいたい。預言の探索の折りだって離れているだけで不安だった。恐かった。側にいないと、だめなのだ。
「勇女軍のことも、お前の職務のことも。仕事のことや、オレたちの運命のことをかさにしてきた。だがアスティ、ただ離したくないという理由では、だめなのか?」
アスティは、なにも言えなかった。
しばらく経ってアスティはまた仕事に励んだ。すっかり疲れも取れたし、次の試練への心構えもできている。そしてまた自分が間違っていたということも。
とにかく待とう。それはとても辛い年月になるかもしれないが、セスラスや、自分を支えてくれる人達がいるかぎり、なんとかやっていけそうな気がする。
あれから。
預言は果たされ二人はリザレアに戻った。
その二人を迎えて、リザレアはまた新たな動乱を迎えようとしている。しかしリザレアの風土はそれを拒まなかった。むしろ間を置いてなにがしかの事件があったほうが、民の結束も自覚も強くなり、むしろ活気づくようだ。
とにかく、リザレアは当分退屈しないだろう。
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