EP.アシェリー




 俺は気になってアシェリーさんに聞いてみる事にした。



 「アシェリーさん少し話しいいですか」

 「何?良いけど手短にね」



 2人は場所を移す。

 俺はもっとこの軍の事を知らなければいけない。その為に、ビビってはダメだ。自分の行動でなんとかするんだ。


 「で話は何?」

 「さっき7番隊の人が「飯で釣っておいて」って言ってたんですけど、もしかして伝えてないのですか」

 「ええ勿論よ。伝える必要が無いもの、魔王を倒し平和を望んでいるのではなく、この現状、何もしなくてもご飯がもらえるからいる奴を少なくとも私はチームだと思っていない。」


 アシェリーさんはそう言っているがメルトさんやゼロちゃんはそれを賛成しているのか、それにどうしてこうも残酷な事をあっさりと言ってしまう事ができるのか。

 俺はアシェリーさんの底知れぬ怖さを思い知る事になる。



 「メルトさんはそれを黙認してるんですか」

 「いえ、私が一任されてる、メルトは戦闘時の指揮をする。彼は魔王に復讐をする事だけに囚われてるから、これ以上メルトには苦労させたく無いの。

  だから私も悪になって黙認もするし残忍な扱いもする。私は助けるつもりはない。

  けど結局メルトは助けると思う。メルトにとってはひとりひとりが大切な仲間だからね。」

 「それは止めないんですか」


 少し間が空く。


 「……そうね。助けるのを防ぐ程バカじゃないわ。」

 

 メルトさんは仲間に優しくするのも、口数が総大将なのにアシェリーさんの方が多いのも全部、全ては仲間からの絶大な信頼の為。窮地の時には安心できる存在がいる。

 それだけでまだ頑張れる、勇気を与えてくれる精神的支柱、背中で全ての仲間を引き連れて行く。

 だからアシェリーさんはメルトさんの存在をより崇高な物にする為、悪を演じている。

 でもその意見は強ち間違いじゃない気もする。メルトさんもアシェリーさんならと信頼をしているから任せられている。



 「メルトさんは勇者と言うよりは英雄ですね」

 「そう見えるだけよ。

  メルトから「勇者」を取ったら何も残らない、だから勇者なんだと思う。」


 「勇者しか無いから勇者ですか逆に全てを手にした人は何なんでしょうか」

 「さあね 考えた事もないわ。」

 「アシェリーさんはメルトさんとはどう出会ったのです?」


 俺はメルトさんの事が気になる。その為に周りの人達の関係性も知りたい。


 「私はメルトの事を1番よく知ってる。昔の事だって、どうしてこんな一見無謀に見える魔王討伐に取り憑かれているのかも、、ね」

 「そ、それはどうしてですか教えて下さい!!」

 「悪いけどそれは私からは言えないわ。知りたいなら本人に聞きな。

  昔を思い出していい時間だった

  私も非情だったかもね

  レイもしっかり休んでおきなさい」



 メルトさんの過去はかなり気になったが言いたくないと言うのなら仕方ない。

 俺も珍しく早起きした事だし、久々に依頼を受けるとするか、ギルドまで遠いな。

 どうしようかな、誰か一緒に行ってくれる人いないかな。

 俺がソワソワしていると、ガルファーを含んだ数人が俺に近寄ってくる。その中には俺と同じ部隊にいる人もいた。


 「何してんのレイ」

 「ガルファー、いや今暇だったから依頼でも受けに行こうと思ってたんだけど場所が分からなくて」


 俺はまた余裕で嘘をついた。

 ギルドの場所なんか看板で矢印があるのなんて説明されているのに、素直に着いてきてほしいとは言えない俺は嘘で誤魔化す。


 「ギルドの場所が分からない?

  看板を見れば分かると思うけど……まあ着いて来いよ。丁度俺達も行くつもりだったからな」

 「ありがとう」


 助かった。看板と言われた時はドキッとしたがガルファーはいい奴だ、俺の念が通じたのか何事も無く、他の人に勘付かれない様に言ってくれた。


 「で、どんな依頼受ける予定だったんだ?」

 「村近くのモンスターの処理があれば、無かったらその場で考えるつもり」

 「お前2番隊だろ?余裕あんなら休んどけよそんな追い込んでも後しんどくなるだけだ。

  どうせ魔王さえ殺せばモンスターの力も弱くなるだろ」


 今は魔王がいるせいでモンスターも幅を利かせている。諸悪の根源である魔王さえ殺すことが出来ればモンスターも今よりずっと人間世界に近寄る事はできなくなって、食料難になりいずれ、絶滅を辿るだろう。

 その為には魔王を倒す事が最優先事項でありモンスターの処理は今じゃ無くていいと言う判断だ、ガルファーは。

 それじゃ守れた命が無駄に失われる。


 「いや村の近くにモンスターの巣窟があるのは危険だ魔王を殺せばいいのは分かってるし同感する。けどな、まず俺は1人の冒険者。人の命を守る為に魔王を倒すならこの行動も正当なはずだ」

 「まあ人が死ぬのは嫌だしな俺達は護衛の依頼を既に予約してたが、4人じゃ多いから1人誰か…」


 ガルファーが他の3人を見ていると1人の男が名乗りをあげる。それはこの中で身長の1番大きい、それにこの人は俺と同じ2番隊の人。


 「俺、レイの依頼に行っていいかな?同じ部隊になったし交流も兼ねたいな」

 「おお!それがいいなモリアならそっちも安全だろ」



 俺はガルファーの強いと言う言葉を信じる。見た目は大柄だが猫背だし線も細い、お世辞にも力がある様には見えない、それでも2番隊にいるだけの何かはあるのだろう。その力を見る為にもモリアはベストだ。


 「…よろしく、レイ、、俺はモリア魔剣士

  俺は足が遅いから武器に頼ってるだけの冒険者、力になれる様に精一杯頑張るよ」

 「お、おうよろしく!俺はレイ…俺も遠距離何だけど今回は近接やるから援護は頼むぜ」

 「大丈夫、俺に任せても」


 モリアはマイナス思考が激しい人のようだ。実際にまだこの目で実力を見ていないから何とも言えないが、こう言う人に限って凄い能力を持ってるんだ。テスト出来なかった詐欺と同じ。期待をしてしまう。





 村の周辺、モンスターが出現しやすいと言われた場所に着くと、びっくりする事に何体かのモンスターが出迎えてくれていた。

 俺がゆっくり剣を抜き、構に入ろうとすると肩を叩いて、モリアが止めに入る。


 「このくらい俺がやる。これは交流会だからまずは一撃お披露目させて貰う。衝撃に気をつけて絶対に…」


 大剣使いだ。ゆっくりと下からぐるりと剣を上に持ち上げるこんなに悠長にやってるとモンスターも当然向かってくる。大丈夫かと焦って俺は援護に入ろうとするが、逆にそれが危険だった。

 モリアの振り下ろした剣から地面が揺れて割れたかのような衝撃が走る。剣の方向にまるで衝撃波の様な凄まじい魔力圧力がモンスターに一直線に進む。

 かろうじてそれをモンスターは避けるもまさかの流れる様な回転横振り、俺は1発目で焦ったので、攻撃のタイミングに合わせて避ける事ができたが他のモンスターは衝撃波に一掃された。

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