火竜《イフリート》

迷宮に入って結構順調に進んで行った、入ってすぐのモンスターは中階層にいたモンスターより強かった。

 シュナさんがフォローを入れてくれているというか、めちゃくちゃにしてくれているからなのか。


 「おい、頑張りすぎだシュナ援護だけって言ったじゃねーか」

 「あんたが遅すぎるからよ

  このまま死なれても困るから助けてるだけ最初から手は出してないわ」


 師匠はシュナさんに対して依頼になると、呼び捨てで呼ぶらしい。連携を取るのに敬語で話すと遠慮してしまうから、対等な関係を作るための行為だそうだ。


 「全然いませんね魔石を落とす魔物」

 「そうね 私も魔石の採取依頼を受けたことはあるけどかなり時間がかかった記憶があるわ」

 「飯はあんのか?」

 「…無いです」


 俺はそんなに時間がかかる依頼だと思っていなかった、当然飯なんて持ってきてるはずが無かった。

 二人も持ってきてない。シュナさんは要らないと強がっている、師匠も確認しただけと言うだけでそれ以上何も話さなかった。


 「レイ、ちょっと僕やばいかもしれない」

 

 (どうした?)

 「暗所恐怖症なんだよ

  少し休憩させて貰うね、頑張って信じてる」


 俺は大声で「よっしゃあ!!」って叫んだら、シュナさんに「何?急に変な声上げて」と言われた。


 「自分を奮い立たせてる為のルーティンです」って嘘をついた。「変わってるわね」とだけ言われてスルーしてくれた。

 実際、スゲー奴ってのはどの世界線でも少し変わってる人がなってるもんだ。暗いとこで一人で叫んでるのを俺が見ても流石にビビるけどね。


 「休憩するか?」

 「大丈夫です食べ物もないんじゃ早く終わらせた方が良いと思います」

 「だがな、疲れた身体じゃいざって時に持たないもんだ」

 「つまり、あんたが休みたいって訳ね

  最初からそう言いなさいよ恥ずかしい」


 俺も勘づいてはいたけど、口にする事ができなかった言葉をあっさりとシュナさんが言った。

 師匠はここで強がると思ったが、「休憩しよう」と言って座り込んだ。


 「私はその間ここら辺で敵を見ておくわ

  ゆっくりしてなさい」

 「じゃあ 俺もやります」


 「あんたは休憩しておいて、疲れてなくても

  あいつはあんたに良いとこを見せようとあれでも、いつになく張り切ったんだ、

  ここで、あんたが休憩しなかった時、自分があいつの立場になってみて?」

 「分かりました。お言葉に甘えて休ませてもらいます」

 「良いのよ 存分に甘えなさい」


休憩中。


 「相変わらずシュナはスゲーよ」

 「どうしてそう思うんです?」

 「見りゃ分かるだろ、さっきより動きが全然速い

  あれでも多分全力は出てない

  俺が前に依頼で死にかけた時の方が何倍も速かった…」

 

 その言葉に俺は驚愕した。

 あれでも俺からしたら十分に速い、短剣では無く普通の剣を使ってのスピード、魔法でも使っているのか。

 

 シュナさんは自分勝手に見えるけど、それだけ余裕がある人なんだ。

 他の人をよく見ている。自分はどうすれば良いのか、どこまでやって良いのか、悪いのかを自分ではなく、周りを見て自分が合わせている。その差が自分に余裕を生み、気を使う事ができているのだろう。

 いつものチームでのシュナさんも恐らく周りに合わせて自分は他人を補完する役割を担っていると思う。

 自由になった時にどうなるんだろうと気になっていた。



 「それじゃそろそろ俺らも動くとするか」

 「了解です 早く終わらせましょう」


 

 二人は休憩を終えて、さらに深くに向かっていった。

 


 恐らくここがこの迷宮の最深部であり、ここに依頼の魔石を持つモンスターが現れると思われる場所に来た。

 

 情報なら深ければ深いほどレアモンスターは現れやすいが、危険な魔物も多く出現する。だがここで探し続けるしかない。

が、ここは寒さが厳しい、かなり下に進んだこともあってか明かりも無い。


 「ファイアボール」


 俺は手のひらに火を出し、灯りと寒さしのぎの役割をする。

 このくらいの魔法ならルドを起こさずに済むだろう。


 「目の前に何か……伏せて!」


 すぐ先にひらけた場所があったと思った瞬間に…シュナさんの声が聞こえ俺と師匠は即座に反応する。

 目の前には地下に住む火を吹くドラゴンがいた。

 しかも、大きさといいさっきの火力といい、間違いなくAランクを超えている魔物だ。

 


 「火竜イフリート

  こいつは標的じゃ無いわ、逃げる?」

 「……」


 俺は黙り込んでしまった、シュナさんが逃げるのを提案するくらいだからもっと強いのかもしれない。

 場所も残念な事にひらけた場所で戻るとしたら、さっき通った道を戻らないといけない、そうすると、魔石も見つからない。


 「戦いま…」

 「やるしか無いでしょ!!」

 

 俺が勇気を振り絞った、丁度のタイミングで師匠が嬉しそうに声を上げる。

 そして、剣を出しながら一歩ずつ前に進んでいく、、


 「一人じゃ勝てないわ、この相手は私も加勢する。良い?」

 「シュナがそこまで言う相手なら力は借りさせて貰う」

 

 シュナさんも進んで行く師匠を不安に思って付いて行った、その場で立ちすくんでるのは俺だけだった。

 やっぱり俺はずっと変われてなかった。

 依頼で危険に晒された事なんて、滅多に無かったし、俺はそんな依頼を遠ざけてばっかだった。

 最近で巨大化スライムの時、変われたと思っていた。

 しかし、それは思い違いだった。

 カノンとミルにいいとこを見せたかったんだ。俺も良いカッコつけだったんだ。

 今の状況は頼れる師匠と出会った中で一番強いシュナさんがいる、それだから俺は安全だって今!そう思っている。


 (努力するんだろ俺!また逃げんのか、

  今逃げてその後に後悔しないか?)


 いや、絶対に後悔する。


 「ルド起きろ、強敵だ。」

 「起きてるよ 見えてる、逃げなかったんだね」

 「決まってんだろ

  逃げたら俺は変われないってずっと分かってるからな」

 

 二人のところに俺は焦って走って行く。


 「俺も協力させて下さい。」

 「レイ達なら絶対来るって思ってたぜ」

 「カッコつけれる相手じゃないわ

  気を引き締めて」


 シュナさんの声に俺と師匠は前を向き、気を引き締めた。

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