頼もしい魔術


 「頼もしいっすねレイさん」

 「呼び捨てで良いんだぞ?さんで呼ばれるのも恥ずかしい」

 「冒険者として敬意を持ってるんです」


 行動を共にしてから五匹のスライムを倒した。

 カノンもミルもかなり動けている。まあ連携を取るまでのモンスターでも無いし、普通に俺が魔術で一撃で沈めている。

 二人は二匹倒すごとに一枚の銅貨でいいとの事だから俺が頑張らなきゃいけないのも必然となる。


 「おい二人とも」

 「何だい?ミル 重そうな顔して」

 「後ろのモンスターデカくないか?」


 恐る恐る俺とカノンは後ろを見るが、特に大型のモンスターが視界に入ってなかった。

 

 「何もいないぞ ミルどうしたんだ?」

 「いや、いなくなった。すまん」


 まあ見間違いするくらいは誰にだってある事だ。

 それにしても大型のモンスターって言うならスライムが巨大化してしまったのか?

 

 うーん原因を突き止めたいが、俺には何も見えてない、つまりどうしようもないと言う事。

 周りの誰もそんなそぶりを見せず、楽しんで依頼を受けている。


 「僕も何も分からないよ、メガスライム討伐なんかやった事ないから」


 そうですよねー

 分かってましたよ。


 「いや、やっぱいる。巨大化したメガスライムが」

 「そんな事ないって…って本当にいる!!」


 まずい、メガスライムが巨大化する場合の危険性は考慮していなかった。

 どう倒すかなんて教えられていない。

 大体は巨大化する前に倒されるから聞いたこともない。


 何故誰にも見つからなかったんだ?

 こんなに人気な依頼でこんなに沢山の人がいて見つからないなんて事が本当にあるのか?

 潜伏?いやそんな知能がスライムにはあんのか?

 もしかして、人外転生した元人間のスライムか?

 そうこう言ってられる状況じゃなくなってる、やるしかねぇ。


 「逃げるぞ」


 え?

 ミルが、逃げの案を提示した。

 そりゃ普通に考えて、ギルドに戻って、要請を出した方が安全性も高い、そして何より自分の生存率が上がる。

 以前(前世)の俺なら間違いなく逃げてた。

 逃げてばっかの人生だった。

 でも今回の逃げってのは前世のとは訳が違う。正しい選択なんだと思う。

 ミルの選択は大多数の意見であり正しい選択。


 「俺は行く。二人は急いで知らせに行ってくれ」

 「どうして?死ぬかもしれないんだぞ

  ここは強い人に任せるべきだ」


 そう、それが正しい正常者の意見。でも……


 「ここで逃げるわけにはいかないんだよ

  だって…こうするべきだって俺が思ったから」

 「じゃあ俺も残る!伝えに行くのなんか一人で十分だしね」

 「おい カノン!」

 「ミルは考えすぎだって、所詮はスライムだって

  俺らは倒すのが目的じゃなくて時間稼ぎが狙いなんだから」

 

 「……分かった。絶対に危険な事はするなよ、、」


 「分かってる」

 「了解っ!」


 俺とカノンは巨大化したメガスライムに向かって、ミルはゾーラ街のギルドに向かって走り出す。


 「一応聞いておくけど、殺る気だよな?」

 「もちろんよ そうじゃなきゃやられるのはこっちだからねっ!」

 「よっしゃそれが聞けただけで安心だ」


 メガスライム討伐依頼を遊び半分でやっていた人が、続々と逃げる中で何人かが立ち向かっていた。

 その姿はまさに勇者だった。

 しかしだが、恐らくそいつらの心情を読むのであれば、

 「今、俺最高にカッコよくね?」か

 「ここは俺が何とかするだから、仲間を連れて逃げろ!」

見たいな、自分を主人公だと思っちゃって、つけ上がってしまっている、残念な冒険者だろう。

 そんな奴は直ぐに足元掬われてやられるだろう。


 「た、たすけてくれぇぇ」


 そんなこと思っていたら案の定二人の勇者気取りが、踏み潰されている。

 スライムは踏み潰している二人の男に気づいてすらいなさそう。

 

 「近くで見ると一段と大きいね俺の三倍くらいありそうだ」


 全長およそ四メートル無い位のサイズ、巨大化したとはいえ、流石に小さい方だ。

 すまんだが、踏み潰されてる二人はもう救えそうにない、俺とカノン含めたら四人の冒険者が、逃げずに立ち向かっているが、皆服がボロボロの貧乏冒険者だ。

 巨大化したメガスライムのランクは知らないが、ここにいる誰よりも強い事は明らかだ。


 「俺が魔術で奴を攻撃する、そのまま二人で斬るぞ、」

 「分かったっすよ任せて下さい。」

 「他の人は動ける人は自分の合図に合わせて動いて下さい。」


 魔術が使えて、近距離戦もいける俺がこの場の指揮を取るのは合っているだろう。しかし、、、


 「なんで、この俺がお前如きに指示されなきゃいけねーんだよ

  自由にやらせろこんなデカくなっただけの雑魚敵くらい俺一人で何とか……」


 そう言って文句を言って来た男は俺のことを無視して、突っ込んで行く。


 「たすけてぇぇ」


 当然の事ながら、攻撃は弱く掴まれてしまう。

 さっきの踏み潰された奴らよりは救えそうだが、あいつ助けたとこで戦力になるかも分からんし、逆に邪魔にもなりかねん。

 

 見捨てるか、、、


 「助けるっす 俺行きます!」

 「お、おい」

 

 見捨てられない奴なのか、それとも人間想いのただの善人なのか、どう考えても無策で勝ち目の無い突撃だ。

 動きは悪く無いし構えも様になっている。が、負けるだろう。

 もし、カノンが死んで俺だけが生き残ってしまったら、、ミルに合わせる顔が無い。

 何とかカノンだけは死なせてやるもんか。


 「トルネードスクリュー」


 俺は魔力を大きく使い、風魔法を使う。スライムはバランスを崩し、握っていた手を弱めた隙にカノンが、掴んでいた手を斬る。


 何とか救出には成功した。

 さらに踏み潰された奴らも足が動いた事で動けるようになったが、二人とももう死んでいた。



 「風魔法も使えるんっすか?」

 「この程度だけど一応」

 「流石っす、めっちゃ尊敬っす」

 「お、おう ありがとう」


 こんなに褒められるとやっぱ嬉しい。

 しかもこんな可愛い少年(同い年)に、

 

 「ありがとうありがとう、貴方は命の恩人です。

  是非、この勇者である私とパートナーを組んで貰えますでしょうか」


 おーおーまじかよ

 いきなり告白みたいな感じで、カノンを招待するじゃないか。

 ちょっとダサいなさっきまであんなに反抗してイキって、すぐやられて、助けられてこのザマ。

 宿事件の俺よりダサくないか?


 「俺、君みたいな人とは仲良くなれないっす

  あと、俺には大好きで大切な親友がいますので

  今、この時だけ一緒に戦って下さい」

 「ま、任せて下さい!!」


 こいつ、俺よりヤバい奴だ。マゾヒストなのかも知れない。

 何とかカノンによって大人しくすることができた。

 あとは倒すだけだ。

 ミルが救援要請に向かっているだろうが、まあかなり時間はかかるだろうし、倒す方が楽そうだ。

 


 「さっき言った通りに動いてもらうが、大丈夫だな?」

 

 他の人に合図を送るが頷いてくれた。

 それじゃ行くとしますか


 「ファイアボール」


 俺はメガスライムの目元を狙いファイアボールを放つ。

 ダメージを入れるのと視界を奪うのを目的とした攻撃だ。


 「うおおおっ」


 おっ

 さっきのマゾヒスト思ったよりいい動きをしている。

 これなら何とかなりそうだ。


 「やべ、助けてくれ…ありがとう助かるぜ」

 

 やっぱ危険を顧みないところが難点だ。

 もう一人も弓を使って遠くから援護してくれているが、本当に少しだけの援護だ。

 ちょっとその弓矢じゃあの敵は倒せ無さそうだ。

 と思ったら弓矢を背中につけ、服の中から短剣を取り、飛び上がる。

 そして、無言でモンスターの顔を切り裂く。

 かなりのダメージが入っていそうだ。

 

 「おおお…凄い、速いっす今何が起きたんすか?」

 

 その男はその勢いで巨大化したモンスターの動きをまるで読み切ったかのように綺麗にかわす。

 剣のリーチも短い。

 つまり、攻撃を与えるには隙を晒す事になる。


 「レイと言ったな?土魔法は使えるか?」

 「ええ、初級なら」

 「十分だ。では奴の近くに土の壁を作ってくれ出来るだけ高く斜めに」

 「やってみます!」

 「タイミングは任せた」


 これは重役を任された。

 それにしてもあの人は何者だ?仲間がいたように見えないし、もしかして俺と同じく、ソロプレイヤーか?

 しかも、あの動きはCランクかも知れない。

 ソロでCランクを超える冒険者は百人もいないと言われている。

 そんな凄い冒険者がまさかこんなとこにいる訳、、無いか


 考えてる内に走り出していた俺は言われた通り、壁を作る。


 「ロックウォール」

 「上出来だ」


 俺の作った壁を踏み台にして奴の顔付近に到達するが、短剣は届かなさそうだった。

 それをいち早く判断して素早く対応をとる。


 「誰か足を止めてくれ」

 「了解っす 任せてください」


 カノンが待ちわびていたのか、元気いっぱいに走るスライムが片足を上げた瞬間逆の足を斬る。

 バランスを崩した。


 「ナイスだ」


 すかさず短剣をスライムの顔面に投げつける。

 上手く命中したが、まだ生きている流石に大きいだけあってしぶとい。

 短剣を投げ、近接武器を失い、大ジャンプも下り始めた時、男は背中の弓矢を倒れながら振り絞る。


 「レイ見たらないで、カバー!」

 「おう、サンキュ ルド」


 俺はルドの言葉で止まってしまっていた足を動かし、カバーの動きをする。

 しかし、放った弓矢は正確に身体の中心を貫いていた。


 「す、凄いあの人何者なんですか」

 「分からない」


 倒し終わって、淡々と丸い物を拾って立ち去ろうとする男に俺は話しかける。


 「助かりました。すいません名前聞いてなかったのですが…」

 「スルガト、」

 「スルガトさん恐縮なんですが、チームとか…」

 「組んでいるぞ、すまんな」


 ちょっとだけ残念だったソロのCランクを期待してしまっていただけに落胆が大きい。


 「ランクは」

 「最近だがBランクに上げさせてもらった元はソロでC止まりだったのだが、、」


 

 それだけ言ってゾーラ街の方角に戻って行った。

 まさかの元ソロプレイヤー!!!

 しかもCランク!!!!

 凄い偉大な人にこんな所で出会ってしまった。

 感激だ。

 その姿はボロボロの服を着ているが、何故か綺麗に見える。

 無愛想な立ち振る舞いも強者故のって奴だ。

 スゲー憧れる。


 「あの人、やっぱ凄いっすか?」

 「ああ めちゃくちゃ凄い人だった」

 

 「お二人さん迷惑かけたな俺もそろそろ帰るわ、じゃあな」


 マゾヒストの男も帰って行った。

 俺もカノンも疲れ切ったので帰る事にした。

 

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