魔術は使いたい

本を買ってから一週間が経った。

 ある程度内容を覚え、魔術も「火」「水」「土」「風」はある程度使いこなせるようになった。


 しかし、水と火の上位互換である、「炎」「氷」は全く出来そうに無い。

 依頼を受けている時、他の冒険者が魔術を使っているのをみた事は何度かあるが、上位魔術を使っていることは見た事がなかった。

 魔術を覚えられると、俺も念願のCランクが見えてくる。


 「ルド?明日の依頼の時魔術使ってみたいんだけど大丈夫か?」

 「分かんないけど、大丈夫だと思う。」


 ここでルドに聞いてみるのは魔術を使うにあたって、ルドに影響が起きてしまうのだそう。練習では少しは抑えてやっていたが、本番では手を抜くと最悪の場合死んでしまうかもしれない。

 それだけは御免だ。

 情けなさすぎる。


 「やっぱ今日行こう」

 「……よ」

 「何?駄目か?」

 「大丈夫だよ」

 「おお…すまんかった聞こえが悪くてな」


 俺は意気揚々とギルドに向かう。

 ついて早速、掲示板を見て依頼を探す。


 「おっメガスライムあんじゃん」

 「それなら大丈夫そう」


 討伐依頼 メガスライム 一匹につき銅貨二枚


 初めて受けたリザードと同じ感じの依頼だ。

 この依頼はコスパがいいと言うので有名。すぐに多くの人が依頼を受けて定員に達して受けれなかったが、今回初めて受けられそうだ。

 メガスライムは等級で言うと最低ランクのEランクでありその中でも攻撃意識の低いモンスターとしてほぼの冒険者が餌としてしか見ていない。

 かく言う俺もその一人で、戦ったことは一度もないが

 「メガスライム無いのかよ」見たいな事を駆け出しの冒険者が、口にするのを何度も聞いていた。

 

 しかし実際には放置をすると巨大化し、手がつけられなくなる事例もいくつかあって、放置は良くないと言う危険はあるわけだ。


 「よっしゃスライム討伐やりますか」


 ゾーラ街からさらに南に行き文化の無い荒野が広がっていた。つまりゾーラ街はこの国の最南部と言う事になる。

 今回剣は使わないので鞘にしまい、魔術だけで挑む。

 周りにもたくさんメガスライム討伐依頼を受けた人がいるが、多くが俺と同じボロボロの装備に量産型の剣を抱えた人ばかり。

 魔術すら使えない奴らだ。全員が剣を振るって戦っている。


 「この私レイは魔術を使えない君たちとは一味違うんだよ」


 俺は渾身のドヤ顔を近くの剣と弓で頑張ってる二人を見ながら、火の魔術を放つ。


 「ファイアーボール」


 魔術教本を読む限り、詠唱すると魔術が発生しやすいらしいが、俺は意外とすぐに無詠唱で出来たから詠唱時間が勿体無いと思ってそこはカットする事になった。



 (魔法を打つにはある一定数の魔力が必要とされる。

  無詠唱の方が難しくはあるが三日もあればすぐにマスター出来る位の難易度。

  同じ技であれば威力も殆ど変わらない。

  若干だが、詠唱の方が高いが、詠唱する時間もあって人気は無いとの事。

  最高火力の魔術は長い詠唱と膨大な魔力、魔法陣が必要となる。そしてその魔法は魔法陣無し又は無詠唱で使うことはできない。)




 俺が放った火魔法でメガスライムが溶けるように消えた。中からよく分からない丸い物が落ちたので証拠としてそれを拾う事にした。

 

 「やっぱ楽だな魔術は最高だ」


 「今の魔法っすか?」


 さっき俺がドヤ顔で見た人が魔法に興味を持ったのか話しかけてくる。もう一人の男もそいつの後ろを歩く。

 

 「ま、そんなとこだ」

 「かっこいい〜俺もやってみたいっす「ファイアボール!!」やっぱかっこいいなぁ魔術俺も魔法学校に行っとけとけばなぁ」

 

 なんか見ていて可愛いな、服はボロボロでダサいが少女みたいな無邪気さに顔つきも幼く見えて身長も低いし、そう言う趣味の方からはとことんモテそうな人だ。


 「おい、恥ずかしいぞ人前でそんな事、すいません…

  こいつミーハーなところがあって」

 「問題ないです。それより二人はチームを組んでたりとか?」

 「そんな所ですかね幼馴染なんですよ俺達、金が無くて今すぐにでも金が必要で、簡単な討伐をやっている者です。

  貴方みたいな、本気で冒険者として活動をしているわけでは無いです。」

 「そうなのか?」

 「これ終わったらまた村に戻って家の手伝いをしなければならないので」

 「やだよ俺、魔法使いたい。まだ帰りたくない」

 「そんなこと言ってんな。だから連れて来たかなかったんだぞ」

 「じゃあミルだけ先帰ってればいいじゃん、俺はここに残るから」

 「お前、冒険者がどれだけ危険か分かってんのか?」




 ………俺はここから立ち去っていいものなのか無言で立ち去るのもどうかと思うが、二人はムキになって俺なんか見てすらいないだろう。

 時間だって限られてるし、俺はこの場を離れる事にした。


 「あの、どこ行くんですか?」

 「メガスライムを狩りに」

 

 ギクッ…さっきの可愛い少年の方が、立ち去ろうとした俺に話しかけて来た。

 なんで気づくんだよ、あんなに口喧嘩してたのに、俺にして欲しいことがあんのか?

 チームは今は組みたくない。せめてCランクになってからなら組んでもいいが、


 「一緒に行きませんか?人が増えれば探すのも楽になるし」

 「銅貨の分配はどうすんだ?俺も生活があるんだ君達と同じで遊びに来てる訳じゃない、」

 「そうだ諦めろ」


 いいぞ、少年。そのまま諦めさせてくれ……




 えーそのまま説得されること数分俺と幼馴染の男が折れて同行する事になった。


 「何、俺も遊びでやって無いって、遊びに来てたじゃん」


 ルドが俺が話しかけれないタイミングをしっかり選んで、俺に追い打ちをかける。

 恥ずかしい。


 「カッコつけるのはいいけど、ほどほどにね(笑)」

 

 くそ、ここぞとばかりに言って来やがる。

 言い返してやろうにも、二人が横にいるせいで話しかけると変な奴って思われる。それは嫌だ。もっと恥ずかしい。



 「まだ名前言ってなかったすね。

  カノン・ヴァル・ストラクトっす来年二十っす。

  カノンって呼んでください。

  冒険者としては半年くらいですけど仲良くしてくれると嬉しいっす」


 「ミル・エンズ、こいつと同じ村出身の農家の息子で、三つ下と五つ下の妹がいる。

  冒険者としては射手をやっていて、援護をしてます」

 

 まさかの同い年、もう一人の人は結構大人しめのイケメンって感じだ。教室では端でメガネ掛けて本読んでる、ミステリアスな雰囲気を漂わせている。

 しかし実際話してみると、案外聞き上手で、カノンを手懐けるだけあっていい性格をしている。

 そして、自分の身内事情を平然と話すタイプだ。


 「俺はレイ、Dランクの冒険者、依頼を受け始めたのは本当数ヶ月前だからほぼ二人と同期だし同じく来年二十だ。

  魔法は覚えたばっかで使える魔術も簡単なのばっかだからメインは剣って感じです」


 (因みに練習段階では火は中級の魔法を使えている。

  まだルドの安全性を考慮して、超初級の魔法を中心として使用している。他の水、土、風はまだ、超初級相当

 段階は超初級から超級の五段階で分けられる。)



 「おお!同い年っすか

  じゃあ丁寧な話し方やめましょう。気は使わない方が互いに楽だから、ね?」

 「そうだな よろしくレイ。」


 「こちらこそ ミルとカノン」


 来年成人を迎えるちょっと変な奴、三人衆でイージークエストのメガスライム討伐をする事になった。

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