わたしの飼い主さん

わたしの飼い主さん

　わたしはウサギといっしょなの。

　さびしいと死んじゃうの。

　だからわたしの飼い主さんはね、電話したらすぐに出てくれるとうれしいの。

　じゃないと、うわーってなって、こうなっちゃうの。

　わたし、飼い主さんのこと、大好きだよ。

　お兄ちゃんからはね、お前はだまっていればカワイイけれど、しゃべるとバカがバレるから口を閉じろって言われているけれど、飼い主さんにはなんでも話せちゃう。心が近く感じるからかな。シンくんより好き。

　シンくん？　シンくんはね、前の飼い主さん。

　なぐらないし、欲しいデパコスとかすぐ買ってくれた優しいわたしの飼い主さん。

　でもセックスはあわなかった。テクのよさを自慢していたけれど、すっごくネチネチしてしつこいの。

　もっとわたしがわたしでなくなるような激しいのが好きなのに、気持ちいい？って途中でわたしの顔を見ながら言うから、そのたびにわたしはわたしに戻っちゃって、すごく萎えた。セックスも長すぎて、あえぐマネに疲れちゃったのを、気持ちよすぎて天国にいるってかんちがいしていたし、それに何度もお尻はやめてって言ったのにやめてくれなかった。

　だから、もうイヤだって言ったら、君はだまされているとか、僕が救ってあげるとか、やっぱりしつこくなんか言ってきたから、お兄ちゃんに言ったらなんとかなったんだ。

　今まで何人の飼い主さんがいたって？

　分かんない。あ、でも初めての飼い主さんはお兄ちゃん。

　バカなわたしをずっと面倒見てくれるの。初めても、お兄ちゃんとだった。

　中学生になる前に「こういうのは早めに覚えた方がいい」って言われたからやってみたけれど、すごく痛くて死ぬかと思った。

　お兄ちゃんはさ、顔はいいけれどセックスはすごく下手。なのに、自分は上手いって勘違いしているからほんとだめ。

　でも、わたし、バカだから、お兄ちゃんに捨てられたら死んじゃうから言えない。他の女の子もお兄ちゃんにきらわれたくて、言えないんじゃないかな。

　いろんな飼い主さんがいて、初めはすごくいいなって思うけれど、だんだんとなんかあわないって気づくの。

　歩く速さがあわなかったり、ご飯を食べ終わるタイミングがあわなかったり、メッセージのタイミングがあわなかったり、がんばったメイク褒めてくれなかったり、いろいろ。

　みんなの悪いところをぜんぶとって、いいところだけ集めたら完璧なのにな。

　今までの飼い主さんは、みんなお兄ちゃんが連れてきてくれたけれど、飼い主さんはね、わたしが初めて自分で選んだ飼い主さんなの。

　ずっとわたしのこと見ていたでしょう。気づいてた。

　それにね、飼い主さんはわたしと似ているの。

　どこか物足りなくて、でも何が足りないのか分からなくて、どうしようもなくて、どこにも行けない迷子の顔をしているの。

　だから、わたしと同じだって見ていて安心するの。

　ねぇ、だからわたしを見て。

　うつむかないで。

　なんだ、飼い主さん、泣いているの？

　ふふ、かわいい。

　飼い主さんはね、今までの飼い主さんの中で誰よりも一番わたしを大切にしてくれているよ？

　セックスは本当に下手くそだけれど、今から絶対うまくなれるから。

　こういうのは慣れと向上心なんだって、前の飼い主さんも言っていたよ。

　お兄ちゃんと話したい？

　やめておいた方がいいよ。

　そういう飼い主さん、前にもいたけれど、大変なことになっちゃった。

　お兄ちゃん、怖い人とよくつるんでいて、危ないことに手を染めてて、人をはめたりするのも大好きなんだよ。

　お父さん？

　パパは優しいから大丈夫だよ。

　いつもお兄ちゃんに内緒でお小遣いくれるし、おいしいごはんにも連れてってくれるし。

　でも、飼い主さんぐらい、いっぱいいるから、どうしよう。

　何番目のパパにする？