戦場

 レイを連れてマーロ側の陣営まで来た。ここでは戦場に出る冒険者や傭兵を管理している。無駄に大きく作られた拠点は戦場のすぐ手前にも関わらず無駄にでかい。まあ、やってる事は戦争ビジネスだからな。こちら側が有利ですよアピールなのだろう。

 戦力もマーロ側に偏っているし、マーロ側には特に危機感もないのだろう。もあるしな。


 いくつもの大きなテントが張られた陣営の中央には、一際目立つ運営本部と大きく書かれた看板を掲げたテントがある。そこでは強面の中年が受付をしている。


「よぉ。傭兵登録か?新規だな?」


 強面でデカい身体のおっさんがこちらに気付いて話しかけてきた。


「あぁ〜。はい。私はしないんですけどね。彼女だけお願いします」


「なんだぁ?色んなやつがいるけど保護者同伴なんて見たことねぇなぁ」


 レイのことを上から下まで舐めるように見るとおっさんは鼻で笑う。


「フン。実力はA級くらいはあるな。能力だけは、だけどな」


 どうやら鑑定のスキル持ちのようだ。身体的にこれだけムキムキなら戦士とかだろ。


「なんかその言い方引っ掛かるなぁ」


 あからさまにイラついたレイが突っかかる。勇者のスキル持ちとは言ってもまだお子様だなあ。


「俺ぁ見ればわかるんだよ。テメェみたいな能力だけのやつなんてごまんと見てきた。大体皆死んじまったけどな」


「私がそいつらと一緒だっていうの?勇者のスキル持ってるんだけど?」


 おっさんはレイがそう言うと明らかに馬鹿にするように笑った。


「ガハハハハ!!スキル!!勇者の!」


 更にイラついたレイがおっさんに掴みかかる勢いで近付こうとしているのを慌てて制止する。


「何がおかしいのさ?」


「だっておかしいだろ?スキル?それに何の意味があるんだよ?確かに優劣はあるけどよ。鑑定のスキル持ちの俺ぁお前より強ぇ自信があるぜ?」


 めちゃくちゃ煽るなこのおっさん。俺の制止を振りほどいておっさんに掴みかかるレイ。掴まれたおっさんはいとも簡単にレイを床に叩きつけ捻じ伏せた。やるぅ。


「ぐぁっ!」


 カウンターに肘を置きレイを見下ろすおっさん。


「能力だけのお前じゃこんなもんだ。戦場に出たらすぐに死ぬぜ?」


 レイを起こし嗜める。倒されたことで少し冷静になったようだ。


「まぁまぁ。強くなるためにここまで来たんですから」


「あぁ?修行目的かよ?まぁいるにはいるがな。あんまりおすすめはしねぇな。ここ何年かはやべぇやつが結構いるから新人なんてすぐに死んじまう」


 おっさんは俺のことをジロジロ見る。すごい見る。めっちゃ見る。上から下まで往復しまくってる。


「んなことよりよ。お前さんは出ねぇのかよ?」


「私、ですか?ないない。見てくださいよ、このでっぷりとした腹!こんなんじゃ戦えませんよ」


 わざとらしく詰め物をした腹をポンポンと叩くとおっさんは鼻を鳴らす。


「フン。お前さん……いや、いい。ただ俺ぁ鑑定持ちだからよ」


 わざわざ鑑定持ちを強調しなくてもわかってるって。そもそも俺がここの戦場に出ちゃったら一日も掛からずに終わらせちゃうよ?多分。


「ほらよ。この書類に必要事項を書いてくれ」


 おっさんがレイに紙を渡す。その場で書いて提出した。提出すると金属でできたお守りのような物を渡される。


「あの、これは?」


 まぁわかんないよな。これも切り札のうちの一つだからな。


「いいか。そいつは絶対に戦場ここにいる間は肌見放さず持ってろよ。絶対にだ」


 レイは俺の言葉に疑問を感じながらも腰に付いた小物入れにしまう。


「よし。これで手続きは完了だ。せいぜい死なねぇように頑張ってくれよ。開始は一時間後だからな」



【ナニーニ視点】


 救護班のテントに着くとそこはもう戦場だった。

 街を囲うように建てられた城壁の前にある救護所を担当達が右往左往して大量にいる負傷者達を治療している。

 受付はあっさりしたもので、紙を渡され、名前を書いてお守りを渡されて終わり。特に説明などなかった。


「なんだかすごい場所ですね…。昔いた教会でもここまでのものはみたことがないです」


 マリアは不安そうに呟いた。そうでしょうね。負傷者はあちこちに寝かされ、明らかに助からない者と死者はまとめて重ねられている。こんな光景見ることなんてないもの。


「あんた!!なにボサッとしてんだい?回復士として来たんだろ?サッサと働きな!!」


 恰幅のいいおばさんに急かされるようにマリアは連れて行かれてしまった。早速働かされているようだ。まあがんばりなさい。もここで成長したんだから。


【受付視点】

 やべぇ。とんでもねぇやつが来やがった。

 最初はただの新人の付き添いかと思っていたがとんでもねぇ。

 俺、ウケツケール・ミルーノは鑑定(能力)のスキルを持っている。能力が力、速さ、魔力、経験となっていて、それらが丸いぼやっとしたものの大きさで見ることができる。数値ではないので曖昧だがそこは経験則でなんとなくだけどな。そして、覚醒したことで全てをまとめた戦闘力というものも見ることができるようになった。これはオーラのような形で見ることができる。

 この新人の嬢ちゃんは能力だけならA級だが、経験が少なすぎて戦闘力が低い。俺より少ないのは一目見りゃわかる。だから軽くあしらうこともできた。だが……。隣のこいつは別格だ。中年で冴えない雰囲気出してやがる癖して全部の能力がイカれてやがる。

 今まで見てきた中でダントツだ。だってこれ程じゃなかった。戦闘力は言わずもがな。この部屋では収まりきらない程だ。見るのも疲れるからスキルを止めたくらいだ。

 こういうやつはあまりか関わらないに越したことはねぇ。変なことしなきゃいいが……。


【レイ視点】

 受付から一時間。

 広場の中央に参加者全員が集められた。

 軍隊ではないからか、纏まりもなく皆バラバラに並んでいる。


「じゃあ俺はナニーニさんといちゃついてくるから」


 そういってどこかに行こうとする師匠を止める。


「えっ?待って待って!!師匠は来てくれないの?」


 何言ってんだこいつって目をして私を見ると大きな溜息を吐いた。


「ハァ~。あのな、お前の修行のために来たんだよ?俺が行ってどうするんだよ」


 わかってる。私の経験が足りないから、ここで経験を積むって説明もされた。だけど不安なものは不安だ。


「なに、死にそうになったら助けてやるから安心しろよ。死にそうになったらだぞ?」


 なんで二回言ったんだろ?

 まあとりあえず納得して首肯するしかない。

 そんな会話をしているとぞろぞろと傭兵達が雄叫びと共に動き出した。戦場への門が開かれたようだ。異様な雰囲気だ。

 私もそれに続き戦場へと駆け出した。

 

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