修行

【レイ視点】

「まあいいからかかってこいよ。わからせてやる」


 そういうと師匠は木の棒、いや枝をひゅんひゅんと振るわせた。

 ちょっと流石に舐め過ぎだよね。これを折ることが修行?こっちは剣だよ?すぐに終わらせてやる。


 私は勢いよく飛び出した。マリアはそれに合わせて強化魔法を掛けてくれる。いつもの流れだ。

 強化魔法で加速し勢いを増した剣を師匠の手に持つ枝に叩きつける。するとキィーンと甲高い音がした。枝を見ると切れるどころか剣を止められていた。


「お前さぁ……。舐めてんの?」


 師匠が枝を振り払うと剣と腕が弾かれて身体ががら空きになる。そこに枝による一撃。


パァァァアン!!


 鋭すぎる一撃が私の腹に入る。まるで物凄く長い鞭で叩かれたかのような衝撃に倒れ込み悶絶した。


「ぐぁっはぁ!」


 枝を指でひゅんひゅんと振るわせながらこちらを見下ろす師匠。


「お前は敵の武器に狙って攻撃すんの?ねえ?」


 確かに枝を狙った。でも枝を切れればいいんだからそうするでしょ。


「殺すつもりで掛かってこいよ。お前らなんてなにしたって俺に傷一つつけることもできねぇんだからさ」


 流石に舐めてるのは師匠だよ。私達だってそれなりにやってきたんだ。勇者のスキルもあるんだ。

 怒りに身を任せてとにかく師匠に斬り掛かった。まるで指揮者のように枝を振るわせ私の攻撃を全て防ぐ。


「ほれ、どうした?どうした?どしたぁ!」


 めっちゃ煽ってくるけどそれどころじゃない。全然当たる気がしない。それどころか私の身体に何発も当ててくる。


「おいおい。聖女様は見てるだけか?回復と補助だけが仕事じゃねぇぞ!」


 そう言われてようやくマリアも援護のアイシクルランスやファイアーボールを飛ばす。が、そのことごとくを枝で叩き飛ばし、私の前へと肉薄する。


パァァァアン!!


 前にいたはずなのに一瞬で後ろに周られ背中を叩かれる。


「ぐぅっ!!」


 痛みに悶絶する。だけどこの叩き方は……!


パァァァアン!!


「はぁぁあ!!」


パァァァアン!!


「いっ!!」


パァァァアン!!


「……いぃ!!」


パァァァアン!パァァァアン!!


「ぎも゙ぢぃ゙いい!」


 そう。この叩き方はまるで私が贔屓にしている嬢の技の上位互換!!!


パァァァアン!!


「イッぐぅぅぅ!!」


 あまりの良さにそのまま意識を手放した。


【マリア視点】


 私は何を見せられているんだろう……無表情で鞭で叩く師と鞭で叩かれて悦ぶ弟子。


「イッぐぅぅぅ!!」


 最後に絶叫して倒れ込み、腰を浮かせて痙攣して気を失ってしまったレイ。いや、これ修行の一環なんだから真面目にやりなさいよ!!


「あ〜。そういやこいつこういうやつだったな」


 なんか納得してるし。ていうか、なんかこっちに向かってきているんですけど??


「さぁ、相方がやられたぞ?お前はどうする?」


 どうするもこうするも、レイがやられた時点でほぼ負けは確定。そんな相手に私が逃げ切れる訳もない。


「えっと……どうしましょう?」


 と言いつつ右手で氷の矢を飛ばし距離を取ろうとする。


「おっとっと。お前は穏やかそうに見えて腹黒いよな」


 枝で簡単に弾かれたけど距離さえ取れれば光の魔法で目眩まししてファイアーボールをぶつけるとかそう考えていた瞬間に後ろから声がした。


「さぁ、どれくらい保つかな?」


 枝を振り上げる師匠。


「あれ〜、待って、私は叩く方が…」


 パァァァアン!!


 背中を叩かれた瞬間に地面にのたうち回って悶絶する。あいつこんなの気持ちいいとか頭おかしいでしょ?!

 そんなことを考えながら師匠を見上げると枝を振り上げる。逃げようにも痛みで動けない。この状態じゃ回復魔法なんて無理。次この痛みは死ぬって。

 そう思った時、師匠の枝が半分程に折れて飛んでいった。何かが飛んできて枝に当たったのだ。その何かが飛んできた方向を見るとナニーニさんが弓を左手に構えて右手をひらひらと振っていた。

 いやもう本当にありがとうございます!これからはナニーニ様、いえお姉様と呼ばせていただきます!!


【ナニーニ視点】


 あ〜。駄目だわあの子達。実力で言えば確かにレイはA級くらいはありそうだけど、ドラゴンとか格上相手に戦ってきてよく今まで生きてたなってレベル。全体的に雑なんだよね。流石に近接じゃ私でも勝てないけど、距離を取ってしまえば楽勝ね。

 まずレイは何も考えずに突っ込みすぎ。余程マリアの補助魔法を信用しているのかわからないけど、あの程度の補助では最下級の魔族とも戦り合えない。あの人の持っている枝を斬るなんて今のままでは一生掛かっても無理でしょうね。


 ほら言わんこっちゃない。レイが叩かれて悦んじゃってる。あ〜、ついにはイッちゃった…。何アレ。

 マリアは補助だけじゃなくてもっと援護もしなきゃ。魔法で牽制して隙を作る。そこを前衛が攻めるみたいな基本もできてない。隙を作ったところで今のレイがそれに気付くかは別だけど。

 まあすぐにやられちゃうよね。マリアが悶絶して床をのたうち回っている。あー追撃しようとしてるな。これ以上はトラウマになるよ。あの人ちょっと加減が分からない所もあるからね。しょうがない。

 私は弓を構えて矢を放つ。彼が振り上げた枝を捉え、両断した。なんかジト目でこちらを見てるけどしょうがない。逆に感謝して欲しいくらいだわ。


「ちょっとちょっと。邪魔しちゃ駄目だよ〜」


 こちらにゆっくりと歩きながら文句を言うカムリ。


「あなたねぇ。人に教えるの下手になったんじゃない?」


「えっ?そんなことないと思うけどな…。いやでも久しぶりだけど…」


「前から上手くないけどね。レイちゃんはそれでよかったかもしれないけど、マリアちゃんはダメよ。それ以上やったらトラウマになっちゃうよ?これからのことに支障が出る」


 カムリは頬をポリポリと掻きながら、そうかなぁ?とか呟いている。


「朝からやり過ぎたら修行なんてできないよ?ここからが本番なんだから」


 私がそう言うとカムリは二人を回復魔法で回復させる。


「ほら、起きて起きて!」


 回復した二人は同時に飛び起き、マリアは自分の身体を触って無事を確かめていた。レイはなんか股に手を挟んでモジモジしてる。この子基本的にやばい子なのね…。

 そんな二人の様子を見てカムリが手を叩く。


「さぁ、ここからが本番だ。レイは戦場に出てもらう」


 覚悟を決めたようにレイは頷く。まだ手は股で挟んでいるけど。


「マリアは救護班に行ってもらう。激務だからな。頑張れよ」


 マリアも覚悟を決めた顔で頷く。この子は基本真面目なのよねぇ。


「じゃあ行こうか」




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