修行方法

 翌朝。

 ギルドの前に集まっていたレイとマリアにナニーニを紹介し、お互い挨拶を済ませると早速転移の魔法陣へ向かう。


「師匠!どこへ行くんですか?」


 レイが質問をする。なんだ最初の時と違って随分しおらしいじゃねえか。可愛い奴め。


「修行するにはうってつけの場所だよ。まぁ楽しみにしてなよ」


 ギルドの中にある転移の魔法陣は世界各国の主要都市と繋がっていて、ギルドに使用許可を取り金を払えば冒険者なら誰でも使う事が出来る。今回はそれを使ってある場所へ行く。

 全員が魔法陣に乗るとギルドの職員が魔法陣を起動する。するとあっという間に目的地に着く。

 部屋の感じはギルド内だからかあまり変わらないが、外に出ると異様な雰囲気を感じる。


「なんですか?この感じ……?殺気立ってるというかなんというか……」


 マリアがそう感じるのも無理はない。なぜならここは戦場だからだ。正確にはこの街の周辺が、だが。

 タイリア国、マーロ。

 長い円形の壁に囲まれた大都市だ。国といっても街はこのマーロしかなく、周りは荒野が広がっているだけで何も無い。文字通り不毛の地なのだ。だが、街の近くにある鉱山から武器や防具、魔法関連の物に使われる鉱石、魔鉄鋼が採れる。タイリア国は魔鉄鋼の産出が世界一で豊富な資金がある。その金であちこちから強引に食料品やら何やらを買い漁って自国に流通させている。その分、近隣諸国には物資が行き渡らなくなり物価が高騰するなどして市民の生活に影響がある。それ故に近隣諸国がそれを奪おうとして常に戦争状態にある。が、豊富な資金があるが為に冒険者やら傭兵やらを絶えず雇い続けることで自国民を極力減らすことなく戦争を続けていた。


 そしてたちが悪いことに戦争を続ければ続ける程近隣諸国に他の国経由で魔鉄鉱が売れるのでいつでも終わらせることができる戦争を終わらせずに続けている。まあ、言ってしまえば戦争を続ける国も仕掛ける国もそれを認めている国民も皆悪いんだからどうでもいい。


「さて、修行方法だけどね。一日の始まりに二人で俺と手合わせをする。その後、レイは戦場で戦ってもらう。要は経験を積む。死なないように気をつけろよ?」


「人とやるの…?」


 レイは少し戸惑っているな。悪党ならまだしも相手は普通の兵士やら傭兵だからかな。甘い。

 この戦場に居る奴らの強さはピンキリだが、冒険者が傭兵として来ている場合、同じ理由で来ているやつも多い。給金もよく修行できる場所。なんならここでの生活に慣れ過ぎてずっといるやつもいる。


「あの……私は…?」


 マリアがおずおずと聞いてくる。


「お前は回復士として後方支援に徹してもらう。回復の経験を積む。あと、死体の修復もしてもらう」


「死体の修復……ですか?」


 この世界の戦場では割といるんだよね。死体の修復士。戦場で死んでも綺麗な状態で故郷まで届けますみたいなね。そういう保険もあるから大体皆入っている。


「そう。死体の修復はいいぞ。相手はもう死んでいるから好き放題できる。内蔵なども修復しないとすぐに腐りだしてしまうから治さないといけない。人の中身をより理解し、深めることで回復魔法の効果も劇的に上がる」


 元々教会でシスターをしていたらしいので少し思うところはあるのだろうがどうでもいい。これが一番早いからだ。


「あの…師匠。ここでの修行はどこを目指しているんですか?」


「正直、お前らがどの程度を求めているかはわからんが、とりあえずS級程度の強さを目指す」


 S級なんていうが実際はそんなに珍しくない。実は冒険者なんてもんはS級になってようやく一人前と言われるくらいなのだ。A級までは冒険者の基礎。S級になるには単純に強さが必要だ。さらにそこから超S級、特S級となる。特まで行くと脅威として国に管理されるくらいだ。世界でも数人しかいないが。

 俺は周りをキョロキョロと見渡すと落ちていた太さ五ミリ、長さ二十センチ程の木の棒を親指と人差指で摘む。


「とりあえずの目標は俺の武器、この木の枝を折ることかな」


 ひゅんひゅんと木の枝を振るわせてみせると、レイが少し憤りを見せる。


「流石にちょっと舐め過ぎじゃないですかね?」


「そう思うか?お前らなんてこれで十分。お前らの武器はそのままでいいけど鎧は脱げ」


 マリアが不思議そうな顔をした。


「えっと、なぜ鎧を脱ぐのか聞いても?」


 まあそう思うだろう。そりゃそうだ。脱いだら防御力減るしね。でもそれは弱いやつの考えなんだよなぁ。


「いいか?上の領域に行けば鎧諸共ぶった斬ってくるやつなんてざらにいる。鎧ごと叩き潰してくるやつもいるし、なんなら前のドラゴンなんかに噛まれたら鎧なんて意味ないだろ?」


「でも確か勇者ヤーツも鎧付けてましたよね?余程鎧に特殊な能力があるとかですか?」


 ヤーツね…。国に認められた特S級の勇者。確かに鎧は付けているな。


「あれはな。見栄だ。なんか格好良く見えるし、威厳のようなものも出るだろ?国に衣装を着せられてるようなもんだ」


 説明しても二人共納得できないという感じだな。どれ見せてやるか。


「ナニーニ。こいつを弓で射ってみてくれる?」


 今レイが脱いだ鎧を指差す。


「いいの?あれ、高そうだよ?」


 解らせるには丁度いいだろ。首肯するとナニーニは一瞬で構え、放つ。二人には予備動作ですら目で追えてなかっただろう。

 そして、カァンと甲高い音を少し上げた鎧は見事に矢で貫通されていた。丁度心臓の辺りか。


「まぁ、私程度でもこのくらいはできるからねぇ」


 ナニーニも一応S級だ。超S級くらいの実力は確実にある。


「このように、実力がある程度伴っていればどの武器でも簡単に鎧なんて壊せてしまう。そりゃ鎧に魔力を込めて強化すりゃ攻撃を防ぐこともてきるだろう。でもこの結果をみればそっちに魔力のリソースを割くくらいなら攻撃に使った方がいいことくらいわかるだろ?」


 レイはまだ納得いってないようで首を捻る。


「でも、だったら両方に同じくらい強い魔力を込めれば最強ってことになるんじゃないの?」


 クソ脳筋みたいなこといいだしやがったな。まあ言いたいことはわかるが。


「確かにそういう化け物みたいなやつもいるにはいる。だけど攻防共に特化なんて長期戦に向いてない。魔力の無駄。それに両方に同じくらい魔力を込めたら半分ずつになっちゃうだろ?今のお前らがそれだ。中途半端なんだよ」


 ここにいれば嫌でもわかるようになる。


「まあいいからかかってこいよ。わからせてやる」




 

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