ナニーニ

 面倒くさいことになった。

 あんの糞女神様が!きっとこの状況を見てほくそ笑んでいるに違いない。なんで俺がこんな奴らの面倒を見なければならないのか。

 しかし、歳を取ったからなのかなんなのか。こんな性格だからあまり好かれることもないので、若者に縋られると無碍にできなくなる。

 そういう所もわかっている上で押し付けてきた女神に腹が立つ。次に会ったら覚えてろよ。


 そんなことを考えながらトンワンシに戻る。回収した素材を二人にギルドに持って行かせて換金させる。


「師匠が行かなくていいの?私達何もしてないけど?」


 レイがコテンと首を傾けながらこちらを見る。


「いいんだよ。お前らも解体しただろ?」


「レイが言ったのはそういうことではないと思うんですけど?」


「わかってんだよ。俺は今以上に目立つつもりはないからな。それよりもお前らが二人だけでドラゴンを討伐したってことにした方が発破になるだろ?」


 そう言うとマリアは顔を引きつらせる。


「はぁ…。実際にその域に達するのはいつになるのかもわからないのに、ドラゴンスレイヤーなんかにされて下手なことはできませんね」


 当然この勇者と聖女はドラゴンスレイヤーとして皆から畏敬の念を抱かれる。だが、わかるやつが見ればすぐにバレるだろう。なら頑張るしかない。本人達次第だ。まあ才能なら今まで見てきた中でもトップクラスなのは間違いない。問題はないだろう。早く自由になりたいし。


「とりあえず今日は解散な。明日の朝、ギルドに集まってくれ」


「わかりました」


 まだ夕方前だが、そのままの足で俺は売春宿へ向かい、お気に入りの嬢を呼ぶ。


「あらぁ?こんな時間に来るなんて珍しいね」


 お気に入りのエルフの嬢ナニーニはすぐに来てくれた。なんでもエルフは年齢が何百歳とかあったりして萎えるからとかよくわからない理由であまり人気ではないらしい。見た目は二十代前半で相当整った容姿をしているにも関わらずだ。その経験値がとんでもないというのにわかってない奴が多いな。


「ああ。しばらく来れなくなりそうだからね。発散しとこうかと思って」


 ナニーニは俺を上から下まで舐め回すように見る。


「ふーん。発散って割には興奮してなさそうだけど?」


 流石に付き合いが長いだけある。お見通しか。


「いや、まあ色々面倒くさい事になってね」


 経緯をナニーニに話すとアハハと大きな声で笑う。


「もう!ほんっとーに変わんないね!あんた」


 俺は頭をガリガリ掻きむしるとナニーニへとダイブする。その後めちゃくちゃアレした。

 アレした後、余韻に浸る間もなくナニーニを椅子に座らせる。ナニーニは下半身に浄化魔法をかけながら怪訝な顔でこちらを見る。


「なに?どうしたの?真面目な顔して」


 俺はテーブルの上にアイテム袋から大金を出す。それこそこの店くらいならまるまる二つ三つ買えるくらいの金だ。


「うわ……。普通に引く位の金額なんどけど……」


「この金でお前をしばらく買いたい」


 やると決めたからにはあいつ等が死ぬかちゃんと強くなるまでは見届ける。だが、それには時間がかかる。それこそ年単位で。正直ナニーニと離れるのは辛い。なら、近くに置いておきたいと思った。


「はぁ…。あのねぇ。買うも何も、わかってると思うけどさ、私は別に金に困ってこの仕事してる訳じゃないんだよ?」


 そうなのか?俺はてっきりの貯えも使い果たしてしまったんだと、そういうもんだと思ってた……。


「じゃあ…なんで…??」


 ナニーニは溜め息をすると、綺麗な金色の豊かな毛髪を掻き揚げ、透き通るような綺麗な碧眼でキッとこちらを睨むと顔を赤らめる。


「あんたが来てくれるからだよ?」


 そう言われて全身に衝撃が走る。


「二百歳を超えたエルフを相手にする人間なんてあんたくらいなもんだしさ。ここにいればあんたは必ず帰ってきてくれるだろ?」


 ナニーニとは正直長い付き合いだ。十二、三年前に一緒に旅したパーティーの一人だからな。だからナニーニのことをわかっていると思っていた。


「それってどういう……?」


「あんた、女に言わせるのかい?」


 考えたことはなかった訳じゃない。現にナニーニに会うために毎日頑張っているというのもある。


「そう…だな。悪い」


 きっと昔からナニーニは待っていてくれていたんだろう。俺も内心わかっていたんだと思う。なんだかんだと理由をつけたが結局はただ一緒に居たいだけなんだ。


「俺はこんなだからアレだけど俺にはお前が必要だ。性的な意味でも。だから付いてきてくれるか?」


「ふふっ。性的な意味でもってあんたらしいね。まあいいよ」


 本当なら結婚してもいいんだけどな。ただ、ナニーニはエルフ。平均寿命が五百歳前後だ。流石に限界突破のスキルといえど寿命はおそらく伸ばせない。数十年程度でまた一人にしてしまうのはな…。

 とにかくナニーニも付いてきてくれることになった。これは俺の性的なこともそうだがあいつらを修行させる意味でも大きい。ナニーニは強いし経験も豊富だ。女同士じゃないと話せない事などもあるだろうから相談に乗ってやれるだろう。

 あとはどうやって修行させるかだけど…。


 あれしかないか。


【ナニーニ視点】

 この人はいつもそうだ。

 突然来て私を振り回す。だってそうだった。

 今回だって急に来て私を買いたいとか言う。人の気も知らないで…。私はこの人が好き。こんなに長く生きているのにこんなにも惹かれたのは初めてだ。今回こうやって私のことを求めてくれるのは素直にうれしかった。だから少し口が軽くなっちゃったのかも。

 この人が望むならなんだって手伝いたいと思う。この人は知られていないだけでそれ程のことを成してきたのだ。求められたのならこの人が死ぬまで側にいると決めた。

 ヤーツにヤキモチ焼かれちゃうかもね。

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