ドラゴンなクエスト

 今回はギルドからダンジョンに突如現れたドラゴンを退治するという依頼を受けた、勇者と聖女の荷物持ちの依頼だ。経験豊富な人に付いて欲しいとのことで俺に依頼がきた。

 勇者と聖女はこの街にも広く知られ、貴族や王族へのアピールのためにこういう派手な仕事をギルド的にもさせたいようだ。ギルドから有名な勇者なんて出た日には自慢できるからな。


 俺は俺でこの勇者と聖女と行くのは悪くないと思っている。話をした感じだが、勇者はドMのくせにプライドが高く、明らかに弱そうなやつには高飛車な態度を取る。聖女も表面上は猫を被っているが、言葉の端々にどこか見下すような、棘があるような感じがする。

 まあ、少し物足りないがざまぁするには問題ないか。

 ということでドラゴンが出たという話のあるダンジョンへ向かった。


 このダンジョンはもう探索され尽くしていて何もない。地図がギルドで貰え、階層も少ないことから初心者の練習用ダンジョンのような扱いだ。出てくる魔物も弱いからな。

 だが、今回はその初心者達がベテラン一人とダンジョンに潜った時に大型のドラゴンと遭遇。ベテランが初心者達を逃がしながら戦い、なんとか左腕を失いつつも逃げ切ったとのことだ。

 今までいなかった魔物が急に出てくることはままある。しかし、今回のように大型のドラゴンが出るとなるとダンジョンの魔力量的には有り得ない。おそらく第三者の介入があるのだろう。ギルドもそれがわかっていて勇者達に依頼を出しているのだ。

 本人達はわかっているのかいないのか。呑気に構えている。


「おい!荷物持ち!早く歩けよ!」


「はい!すいません、すいません」


 勇者がわざとゆっくり歩いている俺を急かす。


「本当に。私が持った方が早いかもしれませんね」


 少し棘がある言い方でチクチクしてくる聖女。

 そして、緊張感もなく二人で並んでキャッキャウフフしている。確かにこいつらの実力なら、こんなダンジョンの魔物など取るに足らないだろうが…。

 ここまで雑魚しか出てこないとつまらんな。出てきた魔物もキャッキャウフフしながら片手間で勇者が倒してしまう。大型のドラゴンが強いことを祈ろう。


 なんやかんやでダンジョンに入って二日。

 本来なら初心者が五日かけるダンジョンの最奥まで到達した。よくいうボス部屋だな。だが、ここには本来のボスはいない。もう制覇されているからだ。ダンジョンのコアは残されているので魔物は出続けるが。そのダンジョンコアがたまに暴走して変なの出すんだよ。多分今回のはそれだ。まあ暴走させられた、かもしれないけど。

 そして、広い部屋の奥には確かにでかいドラゴンがいる。ファイアードラゴンだな。そこそこ強い。

 流石にその姿を見て先程までキャッキャウフフしてた二人にも緊張感が漂う。無駄に緊張しちゃって可愛いもんだ。少し煽るか。


「い、居ましたね…。あの、お二人はドラゴンとの戦闘経験は……?」


 勇者はドラゴンから視線を離さずに横に首を振る。


「ちっちゃいのは何度かあるが……。あのデカさは流石に…」


 隣で聖女も首肯する。

 そりゃあんなの中々遭遇しないだろう。ファイアードラゴンの中でも更にデカい。特殊な個体なのどろう。頭から尻尾の先までで二十メートルはあるか。見つけた冒険者もよく逃げられたものだ。


「ど、どうしますか?止めておきますか?」


 わざとそのように煽ると勇者はチッと舌打ちをする。


「逃げるわけねーだろ!やるんだよ!絶対に!!」


 何がそこまでやる気にさせるのかは知らんが、一人で息巻いている。とはいえ、聖女も不安げだが逃げるつもりはなさそうだ。Sっけは何処へいったのか鳴りを潜める。


「補助魔法をかけます」


 勇者に補助魔法を聖女がかけると勇者は身構える。


「おっさんは動くなよ?あたしらでやるから!」


 そう言って、二人同時に駆け出す。

 物凄いスピードで迫り、奇襲したかったのだろうが、ドラゴンは魔力に敏感だ。補助魔法をかけた時点で気付かれていた。

 強烈なブレスで二人を薙ぎ払おうとする。そのブレスを聖女が防御魔法で防ぎ、そのままの勢いで勇者が剣を叩きつけた。顔面を叩かれたドラゴンだったが、身動ぎ一つせずにジロリと勇者を睨みつけると、まだ宙にいた勇者を爪で叩く。剣で受けたとはいえ勇者は地面に叩きつけられ、追撃で尻尾が来る。聖女の補助魔法がよほど優秀なのか、そこまでダメージを感じさせない動きで避ける。その横から今度は聖女の水魔法がドラゴンの顔面を捉える。ドラゴンは水が苦手なのかなんとなく嫌がって距離を取った。


「チッ。マリアの魔法でもダメージなさそうだな」


 左腕をぶらぶらさせてドラゴンを見据える勇者。どうやら左腕は折れているらしい。なんだ、こういう戦いの時は真面目なんだな。すごく勇者みたいだ。いや、聖女に治されて少し残念そうにしてるな。

 ドラゴンはそのやり取りが終わるのを待っていたかのように、治療が終わった瞬間に魔法を放つ。無数の炎の槍だ。ドラゴンは魔法も得意だったりするんだよ。

 障壁を張り、炎の槍を掻い潜りながら懐に飛び込む勇者。最大の魔力を込めた剣の一撃をドラゴンの顎に叩き込む。後ろに仰け反らせたもののダメージはなさそうだ。

 その後も叩いては避け叩いては避けを繰り返し、ダメージを受けたら即回復を繰り返す。傍目から見れば優勢のように見えるかもしれないが、ドラゴンにダメージが通らない。どうにも威力が足りない。まだまだ力不足だな。そろそろやられそうだ。


「チッ!こいつは無理そうだ…!」


 勇者もこの戦いは無謀だったとようやく気付いたようだ。さぁてと。そろそろ戦いに割って入ってやられた振りでもしますかね。死んだ振りしながらどうやられるか楽しみますか。

 俺は今まさにドラゴンの尻尾にやられそうになっている勇者の前に飛び出す。


「危ない!!勇者様!!」


 勇者を押し退け尻尾の一撃をくらい吹っ飛び壁に激突する。強化魔法のお陰でダメージはない。更にドラゴンは追撃をしようとブレスの動作を取る。調子に乗りやがってトカゲ野郎が。まあいいだろう。消し飛んだことにして消えよう。わからないように全身に魔力を纏い、飛んできたブレスに備えたその時だった。


「どりゃぁあああ!!」


 勇者が俺の前に躍り出た。そして左手で魔力障壁を張り防御する。何やってんだ?こいつ。そんなんじゃ防ぎきれんぞ。

 その間に聖女が俺を担いで運び出そうとする。防御する勇者の左腕は限界を簡単に迎え、半分程まで焼失していた。

 運び出した俺を置くと聖女も防御に参加し、ブレスを防ぎ切った。


「勇者様……。何故……?」


 思わず聞いてしまう。

 左腕をなくし、冷や汗を流しながらドラゴンを見据え勇者は答える。


「わからん!!けど、私の為に死んで欲しくない」


 聖女は勇者の左腕に回復魔法をかけながら微笑む。


「勇者ですからね」


 正直少しイラッとしてしまった。違うだろ。そうじゃない。


 聖女の回復魔法でもまだ欠損部の修復は難しいのか完全には治りきらないものの、勇者は剣を構える。


「チッ!すまないね。もっと早くに判断して逃げればよかった。巻き込んじまった。足止めは私等でする。逃げな」


 勇者はそう言うとドラゴンに向かって突っ込んで行く。聖女もそれに続いた。

 馬鹿が。こっちは死なせたい訳じゃないんですよ。こんな所で勇者見せてんじゃねぇよ。


 ドラゴンが振り下ろした爪の一撃を片手で受け止める勇者。


「ぐおぉお!!」


 呻きながらも何とか受け流すも続く尻尾の鞭のようにしなる一撃に成すすべ無く吹き飛ばされ、聖女と共に壁に打ち付けられる。尻尾の先端が触れたのか聖女の顔面の左側が抉られて見るも無惨なことになっている。強い精神力を持っているのだろう。意識は失っていないようだ。


「チッ!」


 面白くない。

 思わず舌打ちが出てしまう。

 ここまでだな。これだと何も気持ちよくない。

 ドラゴンがトドメを刺そうとまた尻尾を振り上げた。俺は勇者達の前に出る。


「お…お前…何を……」



 

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