第19話(3)

 王宮室室長ラングリッツと人形娘ドールが

 紅茶の用意をして部屋に戻ってくると、

 二人掛けソファーに仲良く(?)並んで

 座っているエレナ女王とケイトの姿があった。

 エレナの恍惚な表情に対し、

 ケイトは口から魂が抜け出ていくような

 放心状態と化している。

 それでもドールは普段通りに

「紅茶とケーキをお持ちいたしました。

 ダージリンのオータムナルと

 喫茶店アリサ季節限定のモンブランです。」

 と言って二人の前にそっと差し出す。

 そして室長は向かい側に椅子を二脚用意。

 そこに二人が音も無く座った途端、

 ケイトがボソリ。

「しつちょー、

 この女王の目を覚ますのに、

 一回ブン殴ってもいい?」

 普通なら陛下に対して無礼千万な物言いだけど

 室長にとってもケイトは超特別な存在のようで、

「ケイト殿でしたら、

 手首が疲労骨折するまで殴ってもよろしいかと。」

 と過大な許可を頂いてしまった。

 ……あたしの手首はどうなってもいいのね。

 エレナはエレナで、

「それがお姉様の愛なら、

 私は全て受け止めてみせますわ!」

 と斜め下の方向にのろけていた。

 ……この国のトップ二人が

 こんなんでいいのかしら?


 ケイトはそう思いながらも

 全員揃ったので本題に切り出す。

「あたしとドールを呼んだ理由、

 そろそろ聞かせてもらいたいんだけど。」

 エレナは、ケイトにそう言われると、

 腕組みをようやく外した。

 そして紅茶を一口軽く飲み、

 カップを手にしたまま語り出す。

「遠慮しないで飲みながら食べながらでいいわ。

 ……お姉様はどこまでお知りになりましたかしら?」

 ケイトは相手が女王だろうが、

 遠慮なくモンブランをフォークでブスリ。

 一応一口サイズで口にほおばり、

 紅茶をグイッとオッサンのように飲む。

「ついさっき、ポーラから

 メリルの文書を見せられたばかりよ。

 最初は

 スージーの文書しか見せられていなかったから、

 一気に情報過多になった気分だわ。」

 ケイトは、もはやお茶会ではなく

 飲み会で愚痴をこぼしている雰囲気で

 吐き捨てる様に語っていた。

 エレナはその声に丁寧に語り出す。

「スージーからの『杖の捜索』の文書、

 メリルからの『裏切り者捜し』の文書、

 私のところに来ている情報も2通の文書が全てよ。

 マハラティーニから来ているハイエルフは、

 その2人を含む5名。

 魔法騎士団第一師団長レミ、

 第二師団長フィリア、

 総参謀長オリビアと名乗っていたわ。

 ……情報過多には違いないでしょうけど、

 お姉様なら何か見えてきた事もあるのではと

 思いまして、ね。」

 ……この女王の口振り。

 ポーラがいずれあたしに口を滑らせるのは

 想定内だったとでも言いたげね。

 ま、そうでないなら

 自ら暴露するつもりだったんでしょうけど。

「まだ見えてきたとは言えないわ。

 でも容易に想像できる事が1つだけある。」

「あら、それは何?」

「エレナ、貴女マハラティーニの国王に

 文書送ったでしょ。」

 エレナ女王はそう言われると、

 カップを置いてケイトに激しく抱きついた。

 ちょ、ちょっと!?

「さすがお姉様ですわ!

 私の考えている事が見えているなんて!」

 エレナは神算鬼謀だという大前提があるからね、

 なんて本人目の前にして言えないけど……

 無性に言いたくなるのは気のせいかしら。

「あの海千山千のハイエルフの国王相手に

 交渉するなら、先手先手で攻め切るに限るわ。

 代替の杖を製作してスージーに手渡した後で、

 事後報告みたいに文書を送ったでしょ。

 魔道具製作技術の衰退を利用して、

 ガーディア国のアドバンテージを保たせ、

 この後に見つける本物の杖と無理矢理比較させる。

 そしてこちらの国の魔道具製作技術の高さを

 大々的にアピールして、マハラティーニに

 ガーディアの魔道具を輸入販売させる販路を

 開拓するつもりでしょ?」

 ケイトにここまでブチ撒けられた感じで言われたが、

 それでもエレナ女王の表情に変化は無かった。

 むしろケイトに抱きついたまま、

 恍惚な表情が増しているように見える。

 ……この女王、

 あたしの話ちゃんと聞いてたわよね?

 ケイトがそう思っていると、

 エレナ女王がゆっくりと口を開いた。

「お姉様、その予想は全体の3分の1ですわ。

 あと3分の2、足りない予想がありましてよ。」

「え? まだ何かあるの?」

「お姉様が先ほど仰ったじゃないですか。

 先手先手で攻め切るに限る、と。

 一手だけではとても先手とは言えませんの。

 魔道具の販路拡大は、本当の目的を隠す為の

 隠れ蓑に過ぎませんわ。」

 あたしの言った事がただの隠れ蓑!?

 どんだけヤバい事を考えてんのよ。


 ちなみに、商人による他国への魔道具の販売は

 全く無いわけではない。

 但し、掘り出し物みたいな感じで、

 ひと月あたり数十点に満たないわずかな量を

 売る程度だった。

 魔道具の輸出入規制はその量にある。

 ある一定量を超えて輸出入すれば、密輸扱いだ。


「お姉様、ちなみにですが

 マハラティーニの国王は、

 これを機に裏切り者を見つけ出し、

 邪教集団ラハブの壊滅を望んでいる。

 だからメリルに協力してほしいというのが

 あの国王の真の目的の隠れ蓑。

 真の目的は、

 お姉様の仰った流れを得て

 我が国、ガーディア国の魔道具を

 正式に輸入する狙いがあったのです。

 こちらの魔道具を

 喉から手が出るほどに欲しいが

 どうやって話を輸入に切り出そうか、と。」

「その手段が技術衰退の露呈……」

「ええ、

 わざと自国の弱さを露呈する事で、

 代替の杖を作らせるよう

 ごく自然に誘導していたの。

 スージーから王位継承の話を聞かされれば、

 マハラティーニ国に恩を売れるチャンスと思い、

 杖を作ってくれるだろうと見込んだのですわ。

 多少の金銭の要求なら受けて立つおつもりで。」

「だけどエレナは金銭以外のものを

 対価に要求したのね。」

「ええ、

 マハラティーニの国王にその文書を送ったの。

 要求を呑んで下さるなら、

 私自らが貴国に赴きます、とね。」

「国王同士の対談が2つ目の目的……?」

「ええ。

 でも、これはごく自然な流れの一環よ。

 魔道具を正式に輸入するに向けての法規制を、

 国同士で定める必要があるから形式上当然の事。

 だからマハラティーニの国王にとっても、

 ここまでは想定の範囲内なわけ。」

 あの一癖も二癖もあるハイエルフの国王を

 掌の上で弄ぶかのように語るエレナ女王を見て、

 ケイトはどこか納得した表情になった。

 参謀長イルハンと天才軍師ラグの二人が

 なぜ女王に勝てないか分かる気がするわ。

 だけど、


「……3つ目の要求が本命って事よね?

 これ以上、一体どんな要求をしたっていうの?」

 いくら相手が女王でも問い詰めたくなるわ。

 このケイトの問いに

 室長が止めるのではと思ったけど、

 その当人はここで深く大きなため息。

 ……ん?

 なによ今のわざとらしいデッカいため息は。

 するとエレナ女王は特に隠す風でもなく、

 サラッと爆弾級の回答をした。


「3つ目の要求はね……」


 ケイトがそれを聞いて凍り付く。

 あたしの杖の捜索を

 いいように利用してくれるわね!

 と怒る気力すら失せていた。

「まだ向こうからの返答は来ていないわ。

 だけどね、もう向こうは受け入れるしかないの。

 長男の王位継承の儀式があるから。」

 !

 そこまで計算済みで……!?

「エレナ、本気で言ってるの?」

「もちろんよ、こんな機会は滅多にないもの。

 とても楽しみだわ。」

 ……バトルジャンキーだわ、この女王。

 室長がデカいため息したのも分かるわー。

 あたしがほんとに女王をブン殴ったら、

 室長の溜飲が下がりまくるでしょうね。


 話が落ち着く(?)と、また

 エレナ女王がベッタリとケイトに寄り添う。

 ケイトがエレナの話を聞いてグッタリとし、

 室長がまたもデカいため息をしている中で、

 人形娘だけはいつも通り。

「紅茶のおかわりをお持ちいたしましょうか。」

「……少し濃いめでお願いするわ。」

「かしこまりました。」

 ドールが失礼しますと言って廊下に出た時の

 扉の音が、今度はやけに軽く空しく感じた

 ケイトであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔術ファミリー“ウェストブルッグ”3『魔導師の杖』 牧村蘇芳 @s_makimura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画